リー群との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/23 01:32 UTC 版)
リー代数は多くの場合それ自体で研究されているが、歴史的にはリー群の研究のための方法として生まれた。 リーの基本定理は、リー群とリー代数の関係を記述している。特に、任意のリー群はリー代数を標準的に決定し(具体的には、単位元における接空間)、逆に任意のリー代数に対し、対応する連結リー群が存在する(リーの第三定理(英語版)。ベイカー・キャンベル・ハウスドルフの公式(英語版)を参照)。このリー群は一意には決まらないが、同じリー代数をもつ任意の2つの連結リー群は局所同型であり、特に同じ普遍被覆を持つ。例えば、特殊直交群 SO(3)(英語版) と特殊ユニタリ群 SU(2)(英語版) からは、同じリー代数が生じる。これはクロス積をもつ R3 に同型である。一方、SU(2) は SO(3) の単連結な二重被覆である。 リー群が与えられると、リー代数を次のいずれかの方法によって結びつけることができる。単位元における接空間に随伴写像の微分を与えるか、あるいは、例の中で述べたように、左不変ベクトル場を考える。実行列群の場合、リー代数 g {\displaystyle {\mathfrak {g}}} は、全ての実数 t に対し exp(tX) ∈ G となるような行列 X 全体から構成される。ここに exp は行列の指数関数である。 リー群に付随するリー代数の例を挙げる。 群 G L n ( C ) {\displaystyle {\rm {GL}}_{n}(\mathbb {C} )} のリー代数 g l n ( C ) {\displaystyle {\mathfrak {gl}}_{n}(\mathbb {C} )} は、複素 n×n 行列全体からなる代数である。 群 S L n ( C ) {\displaystyle {\rm {SL}}_{n}(\mathbb {C} )} のリー代数 s l n ( C ) {\displaystyle {\mathfrak {sl}}_{n}(\mathbb {C} )} は、トレースが 0 である複素 n×n 行列の代数である。 群 O ( n ) {\displaystyle \operatorname {O} (n)} のリー代数 o ( n ) {\displaystyle {\mathfrak {o}}(n)} と、群 SO ( n ) {\displaystyle \operatorname {SO} (n)} のリー代数 s o ( n ) {\displaystyle {\mathfrak {so}}(n)} は、いずれも実反対称 n×n 行列の代数である。(議論は交代行列#無限小回転を参照。) 群 U ( n ) {\displaystyle \operatorname {U} (n)} のリー代数 u ( n ) {\displaystyle {\mathfrak {u}}(n)} は、歪エルミート複素 n×n 行列の代数であり、他方、 SU ( n ) {\displaystyle \operatorname {SU} (n)} のリー代数 s u ( n ) {\displaystyle {\mathfrak {su}}(n)} は、トレースが 0 の歪エルミート複素 n×n 行列の代数である。 上記の例では、(リー代数の行列 X と Y に対する)リーブラケット [ X , Y ] {\displaystyle [X,Y]} は [ X , Y ] = X Y − Y X {\displaystyle [X,Y]=XY-YX} として定義する。 生成子 Ta の集合が与えられると、構造定数 f abc は、生成子の対のリーブラケットを生成子の線型結合として表す、すなわち [Ta, Tb] = f abc Tc.構造定数はリー代数の元のリーブラケットを決定し、したがってリー群の群構造をほぼ完全に決定する。単位元の近くのリー群の構造は、ベイカー・キャンベル・ハウスドルフの公式(英語版)により明示的に表される。この公式は、リー代数の元 X, Y とその(入れ子になった)リーブラケットによる展開によって単一の冪で表す: exp(tX) exp(tY) = exp(tX+tY+½ t2[X,Y] + O(t3) ). リー群からリー代数への写像は関手的である。これはリー群の準同型がリー代数の準同型に持ち上がることを意味し、様々な性質がこの持ち上げによって満たされる。合成と可換であり、リー群の部分リー群、核、商、余核をそれぞれリー代数の部分代数、核、商、余核に写す。 各リー群をそのリー代数に写し、各準同型をその微分へ写す関手 L は、忠実かつ完全である。しかしながら、圏同値ではない。異なるリー群が同型なリー代数を持つかもしれず(例えば SO(3) と SU(2))、また、いかなるリー群にも伴わない(無限次元の)リー代数が存在するからである。 しかしながら、リー代数 g {\displaystyle {\mathfrak {g}}} が有限次元のときは、 g {\displaystyle {\mathfrak {g}}} をリー代数としてもつ単連結リー群が存在する。より正確には、リー代数の関手 L は、有限次元(実)リー代数からリー群への左随伴関手 Γ を持っていて、単連結リー群の充満部分圏を通して分解する 。言い換えると、双関手の自然同型 H o m ( Γ ( g ) , H ) ≅ H o m ( g , L ( H ) ) {\displaystyle \mathrm {Hom} (\Gamma ({\mathfrak {g}}),H)\cong \mathrm {Hom} ({\mathfrak {g}},\mathrm {L} (H))} が存在する。随伴 g → L ( Γ ( g ) ) {\displaystyle {\mathfrak {g}}\rightarrow \mathrm {L} (\Gamma ({\mathfrak {g}}))} ( Γ ( g ) {\displaystyle \Gamma ({\mathfrak {g}})} 上の単位元に対応させる)は同型射であり、他の随伴 Γ ( L ( H ) ) → H {\displaystyle \Gamma (\mathrm {L} (H))\rightarrow H} は、H の単位元成分の普遍被覆群から H への射影準同型である。このことから直ちに次のことが従う。G が単連結であれば、リー代数関手は、リー群の準同型 G → H たちとリー代数の準同型 L(G) → L(H) たちの間の全単射を確立する。 上記の普遍被覆群は指数写像によるリー代数の像として構成することができる。より一般的に、リー代数は単位元の近傍に同相である。しかし大域的には、リー群がコンパクトであれば指数写像は単射ではなく、リー群が連結、単連結、あるいはコンパクトでなければ、指数写像は全射とは限らない。 リー代数が無限次元であれば、問題はより微妙なものとなる。多くの例では、指数写像は局所的にさえ同相写像でない(例えば、Diff(S1) において、exp の像に入らないような単位元にいくらでも近い微分同相写像を見つけることができる)。さらに、無限次元リー代数には、どんな群のリー代数でもないようなものがある。 リー代数とリー群の間の対応はいろいろなことに使われる。例えば、リー群の分類(英語版)や、それに関連してリー群の表現論の問題。リー代数の全ての表現は、対応する連結で単連結なリー群の表現に一意的に持ち上がり、逆に、任意のリー群のすべての表現は、そのリー群のリー代数の表現を誘導する。表現は 1 対 1 に対応する。従って、リー代数の表現を知ることで、群の表現の問題が解決される。 分類に関しては、与えられたリー代数をもつ任意の連結リー群は普遍被覆をある離散的な中心的部分群で割ったものに同型であることを示すことができる。従って、リー群の分類は、リー代数の分類が分かってしまえば(半単純な場合は、カルタンらにより解かれた)、単純に中心の離散部分群を数えあげる問題となる。
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