ラディカル・フェミニストの主張
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 09:50 UTC 版)
「性的対象化」の記事における「ラディカル・フェミニストの主張」の解説
京都女子大学現代社会学部教授の江口聡は、性的モノ化(sexual objectification、性的客体化・物象化)は、1970年代以降の第二波フェミニズムの中心的キーワードの一つとしている。性犯罪、セクハラ、売買春、ポルノ、美人コンテスト、各種の性の商品化など、フェミニズムがとりあげた数多くの「女性」問題において、男性中心的な社会慣行(家父長制、パターナリズム)における女性の隷属的地位を説明する概念として知られる。「モノ化」の語の広範な使用にもっとも強い影響力をもったのはラディカル・フェミニストの代表格であるアメリカのキャサリン・マッキノンだが、ポルノや性暴力、(なんらかの意味で強制的な)売買春、強制的結婚などが女性を非人間化しているという論点は、第二波フェミニズムの共通の理解である。 日本国内では1990年代に「性の商品化」が盛んに議論された。商品化とは女性のセクシュアリティがモノ化されたのちに、さらに市場で流通するという現象のこと。なお、売買春の「性の商品化」批判は1939年の第二次世界大戦開戦前から存在しており、主に「道徳的・モラル的にいけないことである」という理由で、日本キリスト教婦人矯風会等の性 ・ 結婚思想の基軸となってきた。 大阪電気通信大学教授でポルノ・買春問題研究会(APP研)の中里見博によると、一般にポルノグラフィは「性的に露骨なもの」「性的に露骨で、淫らで、反道徳的な表現物」と定義されるが、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンは、このような定義を批判した。モラルや道徳が理由ではなく、人権侵害にあたるかが重要であり、ポルノグラフィとは「性的に露骨で、かつある集団(女性や子供など)を従属的・差別的・見世物的に描き、現にその集団に被害を与えている表現物」だとする。ポルノ・買春問題研究会では、性平等的な表現は「エロティカ」と定義しているが、この定義についても様々な議論がある。なお、1993年12月に国連総会で採択された「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」では、暴力を物理的・領域的なものに限定していない。 1982年、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンが主導する形で、性差別を扇動する内容のポルノグラフィを禁止する「反ポルノグラフィ公民権条例(Antipornography Civil Rights Ordinance)」の制定を目指したが、ミネソタ州長が拒否権を行使した為に不成立となった。1986年には、インディアナポリスが「ポルノグラフィ」を「女性に対する差別行為」と定義するポルノグラフィ規制法を制定したが、表現の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に反しており違憲無効であるという判決が下された(アメリカ書籍業協会対ハドナット裁判)。 ラディカル・フェミニストがポルノグラフィ批判を行ったことで、表現の自由を重視するリベラル・フェミニストと対立が起き、フェミニズムの分断を招いた。この1970年代後半からの対立は、フェミニスト・セックス戦争、ポルノグラフィ論争などの通称で知られる。 中立的な概説 デビ―・ネイサン『1冊で知る ポルノ』(ISBN 4562045213) ヴァレリー・ブライソン『争点・フェミニズム』(ISBN 4326601760) ポルノグラフィを問題視する立場(ラディカル・フェミニズム) キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンの共著『ポルノグラフィと性差別』(ISBN 4250202003) 中里見博『ポルノグラフィと性暴力―新たな法規制を求めて』(ISBN 4750325244) 杉田聡『男権主義的セクシュアリティ―ポルノ・買売春擁護論批判』(ISBN 4250990486) 杉田聡『AV神話―アダルトビデオをまねてはいけない』(ISBN 4272350285) キャサリン・マッキノンらの反ポルノに対する批判(リベラル・フェミニズム) ナディーン・ストロッセン『ポルノグラフィ防衛論 アメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性』(ISBN 4780801052) 1992年、カナダの最高裁は、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンが起草した「反ポルノグラフィを掲げるモデル法」を採用した。わいせつ物規制をモラルや道徳を理由に行うのは表現の自由を侵害するため違憲だが、わいせつなポルノは平等権侵害であり、規制は合憲であるというもの(バトラー判決、バトラー裁判)。以降、カナダでは制作過程で実在の人物が被害にあった性的表現も、完全なフィクションで被害者のいない表現も、等しく違法ポルノとみなされることとなった。この「反ポルノグラフィを掲げるモデル法」は、ドイツ、フィリピン、スウェーデン、イギリス、ニュージーランドでも導入された。 しかしその後、アメリカ、オランダ、スウェーデン、ドイツの最高裁で「実在の被害者がいる児童ポルノと、創作物を同じとすべきではない」という判決が下っており、ラディカル・フェミニストの主張は世界のスタンダードというわけではない。(アシュクロフト対表現の自由連合裁判、スウェーデン漫画判決など。本記事の「性的対象化と創作物・娯楽」にて後述)
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