フランス王国の古典ゴシック
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「ゴシック建築」の記事における「フランス王国の古典ゴシック」の解説
1194年の火災によって焼け落ちたシャルトルのノートルダム大聖堂は、1210年には身廊が再建され、1230年頃にはおおよその完成をみた。盛期ゴシックの最高傑作と呼ばれるこの大聖堂は、ランとパリのノートルダム大聖堂を踏襲した平面(袖廊はラン、二重周歩廊はパリ)をもっているが、内部はかなり独創的な空間になっている。 身廊側の柱身はヴォールトの始まる高さまで真っすぐに伸びており、それまでの聖堂の柱が独立した印象を与えていたのに対して、リブとともに垂直性の高い輪郭となっている。身廊の壁面は高いアーケードと低いトリフォリウム、そして採光を得るためにアーケードと同じ高さのクリアストーリを持った3層構造となっており、パリのノートルダム大聖堂と比べると全体のプロポーションが再構成されているのがわかる。ここに嵌め込まれた166もの聖書のモティーフをちりばめたステンドグラスと多数の彫刻で飾られた扉口によって、シャルトル大聖堂は、しばしば中世スコラ学世界の結晶とみなされ、「凍れる音楽」とも評される。なお、「凍れる音楽」という言葉はドイツの哲学者シェリングに由来すると言われる。 13世紀に、シャルトル大聖堂は当時流行した形式に沿うような大規模な改修が計画されたが、大聖堂内部の完成度の高さが、それを断念させるほどであった。外観については、本来7つの塔が建てられる予定だったが、こちらは未完成に終わっている。シャルトル大聖堂の影響は大きく、ソワッソン大聖堂の内陣、ランスとアミアンのノートルダム大聖堂にそれを見ることができる。 ランスのノートルダム大聖堂は、歴代のフランス国王を聖別する司教座であり、政治的な意味でも重要な聖堂である。その平面と立面の構成は、シャルトル大聖堂に準じたもので、装飾を除けば両者の違いはほとんどない。ランスの大聖堂は、シャルトルとは対照的に内部空間にも植物を模した豊かな装飾をもっており、この点はシャンパーニュ地方の特性を示している。外観についても、シャルトルよりも豊かな装飾で飾られており、フライング・バットレスを受けるキュレの修まりはより洗練されている。ただし建設過程は複雑で、4人の主任建築家が入れ替わっており、これによる施工上の混乱が見られる。 アミアンのノートルダム大聖堂は、盛期ゴシックの最も洗練された大聖堂である。1221年にロベール・リュザルシュによって計画されたその大きさは、前述の大聖堂を全て凌駕しており、このため身廊最上部の薔薇窓下に四組窓が追加されている。一つのベイに対して二つの三組アーチの窓が取り付けられ、これらを除いては、ほとんどシャルトルの形態と共通するが、その構成は完全なる均衡を保っている。内陣はすでにクラシカル・ゴシックのものではなく、レヨナン式ゴシックの段階に達している。 シャルトルの系譜に連なる最後の大聖堂は、ボーヴェのサン・ピエール大聖堂である。構造的には完全な失敗作で、1284年に大規模な崩落をおこしたが、そのまま16世紀まで再建は行われなかった。この大聖堂の建設以後、この種の大聖堂はまったく建設されなくなった。 シャルトルはゴシック建築の一つの頂点であるが、これとは異なった系統に属する聖堂も存在する。盛期ゴシックは、シャルトル大聖堂で確立された系譜のみで語れるものではなく、イングランドやノルマンディ、ライン川流域やアルプスでは、全く別系統の様式が採用された。 ブールジュのサン・テティエンヌ大聖堂は、シャルトルとほぼ同時期に建設された。平面は、パリのノートルダムを直接の源泉としているように思われるが、袖廊はなく、主廊立面は、全体的にほっそりとした印象を与える非常に高いアーケードと、背の低いトリフォリウム、小さなクリアストーリから成る。シャルトルに比べると重量の軽い構造で出来ており、このため構成はとても独創的で、他のいかなるゴシック教会堂にもこれに類似するものはなく、またこの構成を真似たものもたいへん少ない。 ブールジュの影響を受けた数少ない建築物の一つに、ル・マン大聖堂がある。この聖堂の建設経緯は複雑なものであったらしく、ブールジュとの共通点は高いアーケードを保有することをおいて他にない。この部分は、従ってブールジュの建築家の手によるものと考えられる。高窓を高くするためにトリフォリウムが排除され、身廊立面はアーケードとトリフォリウムの二層構造であるが、これは後のレヨナン様式の到来を告げるものである。
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