ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 熱情とは? わかりやすく解説

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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 「熱情」

英語表記/番号出版情報
ベートーヴェンピアノ・ソナタ23ヘ短調熱情Sonate für Klavier Nr.23 f-Moll "AppassionataOp.57作曲年: 1804-05年  出版年1807年  初版出版地/出版社Bureau d'art et d'industrie 

作品概要

楽章・曲名 演奏時間 譜例
1 第1楽章 1.Satz Allegro assai9分00
2 第2楽章 2.Satz Andante con moto 6分00
3 第3楽章 3.Satz Allegro ma non troppo7分00

作品解説

2009年2月 執筆者: 岡田 安樹浩

1805年完成した推定されるこのソナタは、1803年ヴァルトシュタイン伯爵から送られエラール製のピアノ作曲された。この楽器によって生み出され作品(《ヴァルトシュタイン・ソナタOp.53》や《三重協奏曲Op.56》)は幅広いダイナミック・レンジと最低・高音域の重点的使用特徴的である。
自筆譜パリ音楽院所蔵であるが、ファクシミリ出版されており、これを見ると第3楽章数多く修正認められる一気書き上げた1・2楽章に対して試行錯誤重ねたことがうかがえる

第1楽章)8分の12拍子 ヘ短調 ソナタ形式
[提示部]
主要主題は、特徴的なリズム・パターンによる主和音分散和音属和音上のトリル音型という2つ動機からなり、これがすぐにナポリII度の調(変ト長調)で繰り返される。第5交響曲Op.67第1楽章中心的に用いられるいわゆる運命の動機」も低音域に姿を見せる。
和音の上連打挟みつつ主題確保された後、変ホ音の同音連打による推移部が変イ長調副次主題準備する
主要主題における分散和音のリズム・パターンと類似した変イ長調副次主題の提示続き低音域での分散和音のなかに主要主題後半トリル音型を取り込んだ変イ短調のもう1つ副次主題あらわれる。切れ間なくコデッタへなだれ込み高音域の細かい分散和音低音域へ下降する長い音価分散和音によって、5オクターヴ隔たった変イ音に収束する

[展開部]
提示部反復はなく、提示部最後変イ音を異名同音嬰ト音に読み替えホ長調転調する。まず主要主題ホ長調あらわれ後半動機トリル音型)が発展的に繰り返される次に前半動機リズム分散和音)がホ短調ハ短調展開され変イ音の同音連打たどりつく。これは紛れ無く提示部推移部分であり、続いて変ニ長調で第1の副次主題あらわれる。
この副次主題変ロ短調変ト長調へと発展し変ト音を嬰へ音に読み替えロ短調一瞬経由して主調であるヘ短調二重ドミナント、そしてドミナントへと進行する
導音上の減7和音(属9和音根音省略形ともいう)の幅広い音域分散和音高音域と低音域で繰り返される変ニ音→ハ音の「運命の動機」が再現部を導く。

[再現部]
運命の動機」から引き続く低音域でのハ音、すなわちヘ短調属音連打の上に主要主題再現される。同主長調であるヘ長調確保されたのち、推移経てヘ長調ヘ短調再現される

[終結部]
結句は5オクターヴ隔たったへ音へは収束せず、そのまま細かな分散和音低音域に主要主題前半動機発展的に繰り返される変ニ長調転じて第1副次主題あらわれヘ短調へ戻るも、すぐにナポリII度の和音からはじまる分散和音デンツァ風の楽句挿入される。「運命の動機」が繰り返されるなか、Piu Allegroとなって第1副次主題ヘ短調あらわれ最弱音(PPP)へ沈み込んで終結する

提示部主題がすべて主要主題から導き出されている動機展開技法のほか、展開部提示部との構造上の共通性終結部が第2の展開部にまで拡大されている点など、多くの面で円熟したベートーヴェンソナタ形式楽章の姿がみてとれる

第2楽章)4分の2拍子 変ニ長調 変奏曲形式
8小節からなる2つ楽句が、それぞれ反復記号によって繰り返される32小節主題と、4つ変奏からなる楽章
第1変奏はシンコペーション・リズムが基本となり、第2変奏では16分音符第3変奏では32分音符基調としており、徐々に音価細かくなってゆく。第4変奏では冒頭とよく似た形で主題回帰する。減7和音が弱奏と強奏で2度鳴り響くと、切れ間無く第3楽章突入する

第3楽章)4分の2拍子 ヘ短調 ソナタ形式 
[提示部]
楽章引き続き、減7和音付点リズムによる連打によって導入される。主要主題は拍頭の音が第1楽章の主要主題共通しているほか、ナポリII和音上で繰り返されることも、第1楽章の主要主題と通低しており、この楽曲全体第1楽章の主要主題から導き出されているといってもよいかもしれない
副次主題は属調のハ短調あらわれるが、これもナポリII度の和音によって特徴づけられている。

[展開部再現部]
このソナタでは展開部以降反復記号によって繰り返される構造になっている
展開部もっぱら変ロ短調書かれており、主要主題発展的に扱われた後、リズム特長をもつ新たな動機あらわれる。ヘ短調で再び主要主題あつかい、属保続音ハ音)が主調を完全に準備する
再現部では主要主題副次主題ともヘ短調再現され反復記号によって展開部冒頭へ戻る。

[終結部]
第1楽章のような「第2の展開部としての終結部というよりは、むしろ器楽的に発展し華々しく楽曲締めくくる要素が強い。Prestoとなり、和音連打による楽句分散和音和声型にささえられた主要主題によって全曲閉じる。

第1楽章発展的なソナタ形式対し第3楽章では提示部2つ主題調性関係と展開部再現部調性関係が、それぞれ主調→属調/下属調→主調というシンメトリカル構成され古典的な2部ソナタ構成強く意識されているように思われる
そもそもソナタ形式展開部とは、提示部主調→属調という関係に対して再現での主調回帰へむけた移行プロセス部分であり、経過的な部分であったそれゆえ提示部主題とは関係のない経過的な楽句がはさみこまれることもしばしばある。しかし、このソナタ第3楽章展開部みられるような、主題特徴をもつような動機挿入は、こうした伝統的なソナタ形式枠組みのなかでは語れない。
第1楽章終結部を「第2の展開部」として拡大する構成法や、第3楽章展開部における新動機登場は、すべて《交響曲第3番》「英雄Op.55構成通じている。
この作品ベートーヴェンは、エラールピアノによって得られ幅広いダイナミック・レンジ音域、そして交響曲的な展開技法と構成法を融合させることで、ピアノ・ソナタジャンルにおいて新たな一歩踏み出したいえよう




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