ヒストン修飾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 15:50 UTC 版)
クロマチンはヒストンにDNAが巻き付いたヌクレオソーム構造を持つ複合体である。もしDNAがヒストンに巻き付いている状態が変われば、 クロマチンリモデリング(再構築・再構成)がおき、遺伝子発現もまた変化する。ヒストンのメチル化は1964年に発見されたが、その生理的意義は長い間不明であった。その後の研究によって数多くの化学修飾が発見され、それら翻訳後修飾の役割は酵母・動物・植物で共通していることが多いことも判明してきている。ヒストン修飾はアミノ酸配列全体を通して発生するが、ヒストンのN末端(ヒストンテールと呼ばれる)が特に高頻度で修飾される(左図)。これらの修飾には、アセチル化、メチル化、ユビキチン化、リン酸化およびSUMO化が含まれる(ヒストンの項参照)。 よく研究されている化学修飾としてアセチル化がある。たとえば、ヒストンアセチル基転移酵素 (histone acetyltransferase [HAT]) によるヒストンH3のテールのK9とK14のリジンのアセチル化は、一般的に高い転写能力と相関している(表3)。ヒストンのリジン残基は、正に荷電した窒素原子を含むアミノ基を側鎖に持ち、DNA骨格の負に帯電したリン酸基と結合しやすい。リジン残基のアセチル化はアミノ基の正荷電を中和し、ヒストンとDNA間の相互作用を弱めることにより、転写因子がDNAに接近することを可能にする。このようにヒストン修飾がヌクレオソームの構造を変化させることによって転写に影響を与えるという説明を「シス」モデルという。 表3 ヒストン修飾による遺伝子発現制御の例修飾の種類ヒストン / 被修飾アミノ酸残基H3H4H2BH3K4H3K9H3K14H3K27H3K79H4K20H2BK5モノメチル化活性化 活性化 活性化 活性化 活性化 活性化 ジメチル化 抑制 抑制 活性化 トリメチル化活性化 抑制 抑制 活性化抑制 抑制 アセチル化 活性化 活性化 ヒストン修飾による機能のもう一つのモデルは、「トランス」モデルである。ヒストン修飾酵素が作用して他のタンパク質との結合部位を作り、そのタンパク質がクロマチンに会合することによって転写を制御する。例えば、トランスモデルの概念は、H3K9メチル化により裏付けされている。長い間、H3K9のメチル化は恒常的な転写不活性クロマチン(構造的ヘテロクロマチン)と関連付けられてきた。メチル化されたH3K9は、クロモドメイン(メチルリジン特異的結合ドメイン)を持つ転写抑制タンパク質HP1をリクルートする。 リジン残基メチル化は、修飾を受ける残基・同一残基が受けるメチル化状態(モノ, ジ, トリ)の種類が多く、作用も転写の活性化と抑制の双方があり、他のヒストン修飾に比べて複雑である。前述のH3K9メチル化とHP1の関係は、ショウジョウバエの位置効果による斑入り (PEV) でのヘテロクロマチン領域の拡大とも関連していると考えられている。他方、H3K4のメチル化はユークロマチンでの遺伝子発現の活性化と関連しており、複数の因子がH3K4トリメチル化を誘導することが知られている。 ヒストンリジンメチル基転移酵素 (lysine methyltransferase [KMT]) は、ヒストンH3およびH4に対してメチル化活性を担っていることが示されている。この酵素はSETドメイン (Suppressor of variegation, Enhancer of zeste, Trithorax) と呼ばれる触媒活性部位を利用している。SETドメインは遺伝子活性の調整に関与する130アミノ酸配列である。このドメインはヒストンテールに結合し、ヒストンのメチル化を引き起こすことが示されている。ヒストンH3とH4は、ヒストンリジン脱メチル化酵素 (lysine demethylase [KDM])(英語版)[要リンク修正] によって脱メチル化されることもある。この酵素は十文字ドメイン (JmjC) と呼ばれる触媒活性部位を持っている。十文字ドメインが複数の補因子を使ってメチル基をヒドロキシル化して除去したとき、脱メチル化が起きる。十文字ドメインは、メチル基を1-3個持つ基質を脱メチル化することが可能である。 ヒストンコード 複数かつ動的なヒストンの化学修飾による遺伝子制御の概念は、ヒストンコード(英語版)仮説と呼ばれる。この仮説は、「ヒストン化学修飾の特定の組み合わせが、あたかも暗号(コード)のように働くことにより、多種多様な反応を誘導してクロマチン機能を制御する」というものである。個別のヒストン修飾の影響が明らかになってきている一方で、複数の修飾が協調的あるいは対立的な影響を持ちながら共存する例や、同一の修飾が存在する条件によって異なる影響をもたらす例が知られている。このことから、数種類のヒストン修飾に制御されるエピジェネティックな過程の複雑さを理解するためには、ヒストンコード仮説が有効であると認める考え方もある。 クロマチンリモデリング クロマチンリモデリングとは、DNAとヒストンの間の位置関係が変化すること、およびそれによって遺伝子発現が促進あるいは抑制されることである。ヒストン修飾とATP依存リモデリング因子(SWI/SNFなど)によるクロマチンの変化を指す。
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ヒストン修飾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 21:32 UTC 版)
詳細は「ヒストン」を参照 真核生物細胞では、DNAはヒストンによって密にパッキングされている。ヒストンの修飾はDNAとの相互作用を変化させ、遺伝子発現にさらなる変化を誘導する。ヒストンのメチル化(英語版)の生物学的影響は、その状況に依存している。ヒストンのメチル化は一般的には遺伝子の抑制を引き起こすが、活性化が行われる場合もある。ヒストンのメチル化がasRNAによって誘導されることが示されている。例えば、ANRILはDNAのメチル化に加えて、PRC2をリクルートすることでヒストンのメチル化(H3K27me)を引き起こし、CDKN2AやCDKN2Bの近隣遺伝子を抑制する。他の古典的な例としては、XISTによるX染色体の不活性化が挙げられる。 ANRILによるエピジェネティックな修飾はシスに作用するエピジェネティックな調節の一例であるが、asRNAによるクロマチン修飾はトランスに作用する場合もある。例えば哺乳類では、HOXC遺伝子座から転写されるasRNAであるHOTAIR(英語版)は、HOXD遺伝子座にPRC2をリクルートしてH3K27をメチル化し、サイレンシングを行う。HOTAIRは原発性乳がんで高度に発現している。
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