ノンコーディングRNAによる核内構造体構築
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 07:45 UTC 版)
「ノンコーディングRNA」の記事における「ノンコーディングRNAによる核内構造体構築」の解説
哺乳類細胞の核内の核内構造体は膜構造を持たず染色体テリトリー(クロマチン間領域)という領域を形成している。クロマチン間には様々な核内構造体が存在しており下記のようにまとめられている。 核内構造体名サイズ(μm)数マーカー蛋白質含有RNA推定機能パラスペックル 0.2~1 2~20 PSPC1 NEAT1、CTN-RNA イノシン化mRNAの係留 核小体 3~8 1~4 フィブラリン rRNA前駆体、snoRNA リボソームの生合成 核スペックル 2~3 20~50 SC35 MALAT1、未同定ポリA付加RAN スプライシング因子の貯蔵 核ストレスボディ 1~2 2~6 HSF1 SatⅢ RNA ストレス時の転写やスプライシングの制御 カハールボディ 0.2~1.5 1~10 コイリン snRNA、scaRNA snRNAの生合成や修飾 傍核小体コンポーネント 0.2~1 1~2 PTBP1 RNAポリメラーゼⅢ転写産物 RNAポリメラーゼⅢ転写産物の制御 Sam68核ボディ 0.5~1 1~5 Sam68 未同定RNA 未定 ポリコームボディ 0.3~1 12~16 BMI1 TUG RNA 転写制御? PMLボディ 0.1~1 10~30 PML 未検出 DNA修復、ウイルス感染防御など ヒストンローカスボディ 0.2~1.2 2~4 NPAT ヒストンmRNA前駆体、U7 snRNA ヒストン合成 核内構造体には特異的な蛋白質やRNAが集約しており、また特定の染色体座位に隣接することも知られている。このことから核内構造体は、局所的に特異的制御因子の濃度を上昇させることにより、効率的に遺伝子発現制御を行っていると考えられる。核内構造体は細胞内の巨大分子装置の生合成の場でもある。核小体、カハールボディではそれぞれリボソーム、スプライソソームという巨大なリボヌクレオプロテイン(RNP)複合体の生成が行われている。核小体ではrRNAの転写、RNAプロセシング・修飾、そして蛋白質との会合が秩序だって行われている。一方でRNA成分を必要としないPMLボディではPML蛋白質に付加されるSUMO修飾を介した蛋白質相互作用によって構造構築が起こる。多くの核内構造体は動的な構造である。多くの核内構造蛋白質は構造体外の核質にも拡散して存在しており、構造体と核質間を一定の速度で出入りしている。FRAPやFLIP解析により、核スペックル蛋白質のSRSF1の80~90%は核スペックルと核質間を動的に移動しており、核スペックルからの解離は核質内での動きに比べて遅いことが明らかになっている。このことはSRSF1が核スペックル内で複数の構成因子と相互作用していることに起因すると考えられる。 核スペックル 核スペックルは核質のクロマチン間に存在し、前駆体mRNAスプライシング因子を多く含む核内構造体である。1細胞あたり25~50個程度存在し、主にスプライシング因子群の貯蔵・会合・修飾の場と考えられている。別名にクロマチン間顆粒ともよばれる。TripahiらはMALAT1にスプライシング因子を核スペックルに局在させる機能があり、選択的スプライシングを調節しているという学説を提唱している。 パラスペックル パラスペックルは2002年にFoxらによって発見された核内構造体である。この核内構造体はしばしば核スペックルの近傍に局在することからパラスペックルと命名された。電子顕微鏡観察からパラスペックルの平均直径は360nmであり1993年にVisaらによって報告されていたクロマチン間顆粒関連構造(interchromatin granules associated zone、IGAZ)と同一のものであることが明らかになった。パラスペックルは哺乳類のほとんどの培養細胞に存在し、細胞株によってその数は2~20個と変動する。一方で成人マウス組織ではごく一部の細胞でしかパラスペックルは観察されない。このことからパラスペックルは特定のストレス下で形成されることが示唆された。パラスペックルは後述する通りNEAT1という特異的なncRNAを中心に形成される。またパラスペックルに局在している40種類以上の蛋白質の大部分がRNA結合蛋白質であることから、ncRNAによって多数のRNA制御因子が集約した構造体と考えられている。一方でパラスペックルの機能については、知見が乏しいがRNAエディティングによって高度にイノシン化されたmRNAをパラスペックル上に係留し、外的な刺激に応答した核外輸送と翻訳を誘導する可能性が提唱されている。パラスペックル構造はRNase処理によって崩壊することからRNA分子が構造維持に関わることが示唆された。2009年に4つのグループからほぼ同時にパラスペックルに局在するNEAT1 ncRNAがパラスペックル形成・維持に必須であることが報告された。アンチセンス化学修飾オリゴヌクレオチドを用いた核内ノックダウン法を用いて用いてNEAT1を分解したところ、パラスペックル構造は崩壊した。また可逆なRNAポリメラーゼⅡ転写阻害剤DRB(5,6-dichloro-1-β-D-ribofuranosylbenzimidazole)による転写阻害によって一度崩壊したパラスペックルが再構築する際にNEAT1が必要であった。
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