デ・ホーホの透視画法(遠近法)
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「ピーテル・デ・ホーホ」の記事における「デ・ホーホの透視画法(遠近法)」の解説
サットンは確実な証拠はないがデ・ホーホがレンガ職人の棟梁であった父親から透視画法に関連する実践的な技術について影響を受けたかもしれないと控えめに推測する。修復家のユルゲン・ウェイドム(Jorgen Wadum)はデ・ホーホやフェルメールの絵にはピンの穴があり、画面上に任意の一点を定めて消失点とし、消失点を通って水平になるよう左右に設定した遠隔点にもピンを打って細いチョークをまぶしたひもを張って、それをはじいてキャンバスに薄い線を引いたのではと考えている。ウェイドムはデ・ホーホの絵には少なくとも10数枚くらいの絵には確実に見つけられると指摘する。そのようなピンの穴はロンドンのナショナル・ギャラリーにある『デルフトの中庭』、アウロラ美術基金の『a woman with a baby in her lap and small child(ひざに赤ん坊を抱えた女性と小さな子供)』、ウォレス・コレクションにある『戸口で母にかごを渡す少年』、ヴァルラフ・リヒャルツ美術館にある『オウムと男女』、アムステルダム国立美術館にある『女性と手紙を持つ若い男』にもみられる。国立美術館の作品やアウロラ美術基金の作品の絵は目を細めれば観察することができるが、大部分のピンの穴はレントゲン写真を使わないと見つけることができない。 遠隔点をつかうことによって複雑な計算とか計ったりとかしないで直交する点を求めて絵の中に床のタイルを描くことができたり、絵の中の奥行きを調整することができたと思われる。ひもをはじいて引いた薄い線は絵が完成するまで画面のバランスを保つのに役立った。デ・ホーホはチョークをまぶした線をいくつか選んで、定規で石墨や絵の具を用いてなぞったと思われる。たくさんのチョークの線のうち絵を作っていく過程で消された線があり、選択的に残されたわずかな線を赤外線写真で見つけることができる。 ルーヴル美術館の『二人の男と一緒に酒を飲む女』、アウロラ美術基金の『膝に赤ん坊を抱える女と小さな子供』、アムステルダム国立美術館の『配膳室にいる女と子供』はデ・ホーホが透視画法について実験的に描いた絵で、相対的に広い見かけの角度から急激に空間の奥に入っていくのはデ・ホーホの遠隔点の間隔が狭いために、しばしば45°より広い視野から急激に狭くなるのである。そのため、画面手前の床のタイルにゆがみがあるようにみえる。しかしデ・ホーホはこの問題をまもなく解決し、1658年に描いた二つの「デルフトの中庭」を描いた作品で視野の角度を32゜から34゜に変えた。ナショナル・ギャラリーにある『Merry Company』やデ・ヤング美術館にある『こどもに乳をあたえる女、子供と犬』の絵の背景では視野の角度をさらに小さくしてわずか24゜前後に絞った。デ・ホーホの後期の絵には以前のような広い視野の角度を用いる絵はまれで彼が遠隔点を外側に動かすことでより自然な構図の絵になることを理解していたことを示している。ユルゲン・ウェイドムはフェルメールの絵にも似た傾向があることを指摘している。しかしフェルメールよりもデ・ホーホのほうが10年以上も早く透視画法(遠近法)を自分のものとして消化したことがうかがわれる。フェルメールが水平な線を低くするのに時間がかかったのに対し、デ・ホーホは自分のイメージのなかで水平な線の位置に構図の中心点を的確に設定していた。 『配膳室にいる女と子供』(アムステルダム国立美術館, 1658頃) 『こどもに乳をあたえる女、子供と犬』(Woman Nursing an Infant, with a Child and a Dog, デ・ヤング美術館, 1658-60年頃) ウェイドムは、フェルメールの描くタイルはしばしば菱形になったが、デ・ホーホは対角線の方向をとらえて正方形のタイルを描いていたことを指摘する。デ・ホーホはさらに遠近法について実験的な試みを行っている。一つの絵のなかに二つの消失点と水平な平行線を設定している例として、ルーヴル美術館の『飲酒する女と二人の男』には一つ目の消失点が立っている男の右手にあり、二つ目の消失点は奥の二つめのさらに向こうにある金庫にある。ロンドンのナショナル・ギャラリーにある1658年の中庭の風景には手前のブロックの面と奥の通路の面がわずかに異なった面であることを表現するために、わずかに異なった位置にある互いに平行で水平な線と消失点を用いている。ケルンのヴァルラフ・リヒャルツ美術館にある『オウムと男女』では、デ・ホーホは巧みに二つ目の戸口に二つの水平な線の一つを交差させて透視画法(遠近法)を維持できるよう工夫している。線を用いた透視画法(遠近法)に厳密に適合させようとするフェルメールに対し、デ・ホーホははるかに多くの空間的表現が視線の動きになじんで錯覚を起こさせるような工夫をしている。デ・ホーホはエマヌエル・デ・ウィッテと親しかったが、ウィッテは教会堂の内部をより印象的にみせ空間について錯覚を起こさせる、より汎用性のある方法を用いた人物である。このような錯覚については遠近法の専門書にも記載があり、17世紀にはそのような面からも遠近法の研究から影響をうけた色の明暗、色調を巧妙に変化させたり物の大きさや配置を組み合わせて絵全体を作っていくhoudingという概念が盛行していた。
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