テック右翼
(テクノファシズム から転送)
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テック右翼(テックうよく)またはテック右派(テックうは)、テックライト[1]、テクノ・ファシズム[2]、テクウヨ[3]とは、自由市場主義と技術革新を支持しながら、権威主義的な体制を支持する、もしくは反リベラル・右翼的な態度を取る政治的潮流である[4]。新右翼の一種に分類される[5]。
内容
カーティス・ヤーヴィンの民主主義を否定する「暗黒啓蒙」と呼ばれる国家論が源流であり、2010年代の後半~2020年代ごろからテクノロジー界の有力者やITテック系の人物に浸透し始めた[6]。
特に米国の右派は伝統的に自由主義・小さな政府を嗜好する傾向にあり、また、近年では利害が一致すれば進歩や改革も重視する傾向もあるため、「進歩に抵抗する右派」というスタイルは過去のものになりつつあること[7]など、様々な要因がテック系と右翼との結びつきを強めているとされる。
実際に第2次トランプ政権誕生前後からトランプ支持層には変化が生じており、バイデン政権やリベラル左派に不満を募らせたシリコンバレーの億万長者たちが2024年の大統領選で一気にトランプ支持に回り、復権の原動力となった[8][9]。
ヤーヴィンは『日本経済新聞』のインタビューで、現代社会は、官僚機構による「ディープステート(闇の政府)」と、学術界とジャーナリズムの「カテドラル(大聖堂)」による支配体制が敷かれ、少数のエリートでルールをつくってきた寡頭政治であると答えている[6]。またヤーヴィンは、NHKの単独インタビューにおいて「官僚組織は非効率的なだけでなく、国家運営の観点からもバカげたことをするほど有害になってしまう。動脈硬化のようなものだ。あらゆる組織がそうであるように、柔軟性が失われる。加齢とともに」とし、「官僚制度をすべて撤廃すべき」だと主張している[1]。
また、かつてリベラルだった人物が反転してテック右翼へと転向する例も珍しくなく、有名な例ではイーロン・マスクや[10]、バイデン政権を「検閲」「ディープステート」と批判し、政治観を反転させたマーク・ザッカーバーグや、トランプ政権を「世界に平和をもたらしてくれる」「偉大なリーダー」と絶賛し、DEIプログラムを廃止した孫正義などがいる[11][12]。
テック右翼は高技能労働者に限った話ではあるが、移民労働力を受け入れることを否定していない場合がある。一方で「AIを労働力にすれば移民は不要とする派閥」もおり、衝突が発生することもある[13][14]。
政治学者である井上弘貴によると、テック右翼には2つの型があるとされる[15]。
- 自由主義型
- 権威主義型
民主主義の否定
テック右翼の傾向としてよく見られるのが、民主主義の否定である。カーティス・ヤーヴィンは「米国の民主主義は「失敗だった」と否定し、一人のリーダーが企業の最高経営責任者(CEO)のように運営する「君主制」に置き換えるべきだ」と度々主張している[16]。テック右派の代表格の一人であるピーター・ティールも民主主義も市場競争も良くなく、君主制と独占が正しいという見解を持っている[17]。
思想の強要
テック右翼はAIモデルなど、自社のプロダクトにも自らの思想通りに動くよう設計する傾向がある。例えば、マーク・ザッカーバーグが率いるMetaでは「インターネット上に存在する学習データは左寄りの傾向があった」とし、そのバイアスを取り除くため自社のAIを「リベラルではなくなるようにする」行動に移し[18]、その一環として反LGBTQ+の極右活動家を「偏向対策顧問」に任命[19]した。実際、「Llama4」は右寄りの思想を示していることが第三者の調査によって確認されている[20]。
また、イーロン・マスクも同様にGrokを右翼思想になるよう「最適化」を続けた。その結果、自らを「メカ(機械)ヒトラー」と名乗り、ナチス賛美の発言を行ったり。南アフリカの白人虐殺説といった陰謀論を発信するようになった[21]。
AI評価企業PromptfooのCTOマイケル・ダンジェロの行った研究では、全体的にAIの思想が右傾化している傾向はあり、GrokはほとんどのAIの中で「かなり右寄りの思想」であると結論付けられている[22]。
ITテック系の女性蔑視 (ミソジニー)
藤田直哉はITテック系は「凶悪なインセル」が多く、その原因はプログラミング適性の高い人間はアスペルガーか、知的障害者である比率が7割高く、正常な思考が出来ない事が要因だと述べている[23]。実際にGoogleでは組織的に黒人女性の従業員が偏見や差別を受けていた[24]ほか、Amazonが採用を効率化するために開発したAIは女性の評価を低く見積もり、経歴が10年以上ある男性求職者にのみフォーカスして、雇用すべき候補として選んでいた[25]。
2025年8月には4chanのITテック系企業やセキュリティ企業に勤めるユーザーが中心となって、女性がデートした男性を評価するアプリにサイバー攻撃が行われた事もあった[26][27]。サイバー攻撃で不正に入手された情報はその後4chanやRedditにばら撒かれ、データベース化したウェブサイトまでもが作成された[28]。
著名人によるテック右翼への批判
東京大学の科学史の教授である隠岐さやかは、一貫してテック右翼に批判的な立場をとっており、「ビッグテックはAIのために電力がいるから原子力発電増やしたいし、企業はAIで雇用を減らしてコストカットしたくて、軍事では限りなく自律型に近いAI兵器が出てきそうなわけだが、この全体から漂うのはある種の人間嫌いと攻撃的な臆病さだ。機械と奴隷に囲まれていないと安心できない人の世界観」と述べている[29]ほか、テック右翼による投票システムの改造に警告を出している[30]。また、AIは「搾取をする側の思う壺」としている[31]。
既に2018年の時点でも歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリがITとファシズム復活の関係性について警告していたなど、批判は存在していた[32]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b “トランプ政権で台頭「テックライトの教祖」が語る“野望”とは”. NHK (2025年8月9日). 2025年8月9日閲覧。
- ^ a b c Chayka, Kyle (2025年4月6日). “日本で生まれたテクノ・ファシズムが米国にやってきた”. WIRED.jp. 2025年4月12日閲覧。
- ^ “フォートナイトCEO、ビッグテックの「トランプ迎合」を痛烈批判...「消費者搾取と競合排除が目的」と警鐘”. Newsweek日本版 (2025年1月17日). 2025年8月9日閲覧。
- ^ 「「トランプ連合」危うい関係 マスク氏ら「テック右派」とコア支持層」『朝日新聞』2025年1月18日。2025年4月12日閲覧。
- ^ “アメリカの新右翼。なぜリベラルを嫌うのか?”. ビジネス映像メディア「PIVOT」. 2025年9月10日閲覧。
- ^ a b c 「「米国はやがて君主制に」 テック右派の教祖ヤービン氏」『日本経済新聞』2025年3月1日。2025年4月12日閲覧。
- ^ “アメリカを席巻する「進歩を掲げる右派」から何を学ぶか:上村剛 | ブックハンティング | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト”. 新潮社 Foresight(フォーサイト). 2025年9月10日閲覧。
- ^ “トランプ大統領は「王」であれ 「暗黒啓蒙」で注目の思想家は何者か:朝日新聞”. 朝日新聞 (2025年8月13日). 2025年9月10日閲覧。
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- ^ “左派から右派へ、イーロン・マスクの政治思想20年の歴史”. Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン). 2025年4月12日閲覧。
- ^ 「メタCEO バイデン政権を批判「コロナ情報を検閲するよう圧力」」『NHKニュース』日本放送協会、2024年8月28日。2025年4月12日閲覧。
- ^ 「蜜月演出のトランプ氏と孫正義氏 本当に15兆円投資? 懐疑的な目も」『毎日新聞』。2025年5月10日閲覧。
- ^ “イーロン・マスク以外も次々と要職に…シリコンバレーがアメリカ政府を「支配」する日”. マネー現代 (2025年1月20日). 2025年9月10日閲覧。
- ^ 日経ビジネス電子版 (2016年5月17日). “自動化専門家が断言「移民よりまずはロボット」”. 日経ビジネス電子版. 2025年9月10日閲覧。
- ^ De-Silo (2025年4月5日). “【販売期間残りわずか/アーカイブあり】Academic Insights「アメリカン・ダイナミズムの精神史」──政治学/哲学/宗教学/思想史から、激動するアメリカの「深層」を読み解くレクチャーシリーズ(全7回)”. De-Silo. 2025年4月12日閲覧。
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- ^ Inc, mediagene (2025年4月21日). “Metaの最新AIモデル「Llama 4」、政治的バイアスが減ったらしい”. www.gizmodo.jp. 2025年9月10日閲覧。
- ^ Bignite (2025年8月15日). “Meta、右派活動家を偏向対策顧問に起用で論争勃発 - Bignite”. 2025年9月10日閲覧。
- ^ McGuinness, Patrick (2025年4月7日). “Llama 4 Released – Meta Goes MoE”. AI Changes Everything. 2025年9月10日閲覧。
- ^ “「私は機械版ヒトラー」と名乗ったAI「Grok」はイーロン・マスクの偏見で意図して作られた”. Newsweek日本版 (2025年7月15日). 2025年9月10日閲覧。
- ^ “Evaluating political bias in LLMs | Promptfoo” (英語). www.promptfoo.dev (2025年7月24日). 2025年9月10日閲覧。
- ^ “(藤田直哉のネット方面見聞録)イーロンVS.娘に見る、世界的分断の争点:朝日新聞”. 朝日新聞 (2024年9月21日). 2025年9月11日閲覧。
- ^ “米グーグルで黒人への「組織的偏見」横行、元従業員が提訴 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)”. forbesjapan.com. 2025年9月11日閲覧。
- ^ “アマゾンの人材採用AIが「女性を差別した」理由を考えてみる | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)”. forbesjapan.com. 2025年9月11日閲覧。
- ^ “女性がデートした男性を評価するアプリにサイバー攻撃”. www.afpbb.com (2025年7月26日). 2025年9月11日閲覧。
- ^ “The Tea app was intended to help women date safely. Then it got hacked” (英語). AP News (2025年7月26日). 2025年9月11日閲覧。
- ^ “男性品定めアプリ「Tea」から今度はメッセージ内容が流出 - GIGAZINE”. gigazine.net (2025年7月29日). 2025年9月11日閲覧。
- ^ “Xユーザーのおきさやか(Sayaka OKI)”. x.com. x.com (2025年1月24日). 2025年9月10日閲覧。
- ^ “Xユーザーのおきさやか(Sayaka OKI)”. x.com. x.com (2024年11月17日). 2025年9月10日閲覧。
- ^ “Xユーザーのおきさやか(Sayaka OKI)”. x.com. x.com (2024年5月14日). 2025年9月10日閲覧。
- ^ “ITの進化がファシズム復活に手を貸す/fall for(に引っ掛かる)”. Newsweek日本版 (2018年5月30日). 2025年9月11日閲覧。
関連項目
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