ズィンミーの権利とその制限
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/31 04:00 UTC 版)
「ズィンミー」の記事における「ズィンミーの権利とその制限」の解説
支配者が保護した学派・時代・地域によっても異なるため、一般的事実のみを記述する。正統カリフ・ウマルによるウマル憲章も参照。 布教の禁止 イスラーム統治下のズィンミー身分に属する人間は、内面における自身の信教の自由を完全に保障され、宗教儀礼の執行も基本的に容認されているが、イスラーム教徒に対して自身の宗教を説いたり、改宗を勧めることはできない。違反した場合イスラーム政権や宗教としてのイスラームの権威を汚したとして死刑である 。 宗教施設の修理・建造 ズィンミーの利用する宗教施設については、その修理は許可されるが、新設は原則禁止である。ただし降伏協定に特別の定めがあった場合や支配者が許可した場合は例外的に認められることもあった。そのような場合でもムスリムの居住地域には宗教施設の新設は許されない。 結婚の制限 ズィンミー身分に属する男性は、イスラム教徒の女性とセックスや結婚を行うことは許されない。もしそのような行為を行ったことが判明した場合、結婚は無効であり、セックスは例外なく婚外性交渉として死刑になる。そのためズィンミー同士の夫婦であっても、妻がイスラム教に改宗した場合、夫は改宗か離婚かを強制的に選択させられる。対してムスリム男性がズィンミー女性と結婚・セックスすることに対しては、このような制約は存在しない。 ジズヤ ズィンミーは彼らの享受する権利の引き換えとして、ジズヤと呼ばれる特別の税金を払わねばならない。これは社会的にムスリムに比べて劣位にあるズィンミーにとっては負担でもあり、またイスラームに対する屈服の証でもあった。税金そのものだけでなく、その徴収の過程においてもズィンミーに屈辱を与える仕掛けを用意する場合もあった。ジズヤの納税は、地方の有力者のもとに納税者が直接届けにいくことが多いが、その際に、公衆の面前で暴力を振るわれたり、侮辱されることもあった。これは「異教徒はイスラム教徒よりも下である」という、一種のデモンストレーションであった。ただし以下に述べるように、それに対して明確な反対意見を述べたムスリムの学者が存在する。非ムスリムは軍役が免除されるため、その代償という面もある。 衣類と武装 ズィンミー身分に属する者は、武器の携帯が禁止される。地域、時代によっては馬やラクダへの騎乗が禁止された(ラバやロバへの騎乗は許された)。更に地域や時代によってはムスリムと区別するためにズィンミーは宗派ごとにギヤールやズンナールなどの特徴的な衣服を強制された。 宗教儀礼の制限 ズィンミーは自身の宗教の儀礼や礼拝を行う権利を基本的は保障されるが、そこにはいくつかの制限がある。大声での礼拝や教会の鐘を高く鳴らす行為、十字架などの宗教的シンボルを見せびらかすなど、ムスリムの前で信仰を誇示するような行為は厳しく制限される。 イスラーム批判の禁止 イスラム国家ではイスラームの優越性の原則により体制が成立しているため、ズィンミーに対してもムスリム同様イスラム教とその預言者ムハンマド、聖典コーランに関する批判は一切禁止され、違反した場合死刑に処される。一方ムスリムがズィンミーの信仰を批判・侮辱することはイスラームの優越性の原則により許される。 司法上の権利 刑法上イスラム教徒よりズィンミーの命や権利は軽いものとされることが多い。また、ズィンミー身分に属する人間は、法廷での証言に関してムスリムよりも低い価値しかないと見なされる。 生活に関する制限 ズィンミーの一般生活に関しても、いくつかの制限が存在する。まず、ムスリムと非ムスリムが街頭で出会った場合、ズィンミーはムスリムに先に挨拶し、道を譲らなければならない。ズィンミーがムスリムの前で酒や豚などの飲食物を摂取することは望ましくないとされた。またズィンミーの住居がムスリムの住居より大きいのも、望ましくないとされる。ズィンミー身分に属する者の葬儀、埋葬は密かに行うべきとされ、遺族や友人の嘆き悲しむ声をムスリムに聞かせるべきではないとされる。 政治的権利 イスラーム法において、ムスリムは非ムスリムの下位に立ってはならないという原則がある。そのためズィンミーがイスラーム政権の高位高官に昇るのは厳密に言えばイスラーム法の原則にそむいている。しかし実際の前近代イスラム世界では、ズィンミー身分からもいくらかの高位高官を抜擢した政権が存在する。ただし、ズィンミーがイスラム教徒に比べて政治的劣位に置かれるという原則は普遍的であった。 改宗の制限 ズィンミーが元の宗教およびイスラーム以外の宗教に改宗することは時代と地域によっては禁じられる場合があった。また、彼らがイスラームに改宗し、後に再び元の宗教に戻ったことが発覚した場合は、背教罪として死刑に処される。 利敵行為の禁止 ズィンミーがイスラームの支配者が敵と認めた勢力を支援することは禁止され、違反した場合庇護契約違反として契約を破棄する原因とできる。
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