オールドスタイル数字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/22 10:05 UTC 版)


オールドスタイル数字(オールドスタイルすうじ、old style figures; old style numerals[1])またテキストフィギュア (text figures) は、その名の通り、ラテン文字本文の行に自然に溶け込むよう、様々な高さでデザインされた数字である。大文字と同じ高さのライニング数字(lining figures; タイトリング数字 (titling figures)、モダン数字 (modern figures) とも)と対比される[2][3]。Georgiaは、デフォルトでオールドスタイル数字を採用している有名な書体の一例である。
別称
英語におけるこの形態の数字に対する呼称は、先述の2点に加え、以下のようなものが使われている。
- non-lining figures/numerals(ノンライニング数字)
- lowercase figures/numerals(小文字数字)
- ranging figures/numerals(レンジング数字)
- hanging figures/numerals(ハンギング数字)
- medieval figures/numerals(中世数字)
- billing figures/numerals(ビリング数字)[4]
- antique figures/numerals(アンティーク数字)[5]
デザイン

オールドスタイル数字では、数字の字形と配置はラテンアルファベット小文字と同様変化に富む。最も一般的な体系では、0、1、2はエックスハイト(xを基準とする小文字の高さ)の高さでアセンダーやディセンダーに伸びない。6と8はアセンダーに伸び、3、4、5、7、9はディセンダーに伸びる。これ以外の体系も存在し、例えば、18世紀後半から19世紀初頭にかけてフランスの活字父型彫刻師・印刷者一族ディドー家によって彫られた活字では、3と5がアセンダーに伸びるのが一般的であり、この形式は後世の一部のフランス書体にも引き継がれている。また、これらとは異なる配置を採用した書体も少数ながら存在する[要出典]。アルファベット小文字のoと区別するため、0の強調の仕方を何らかの形で変える場合もあるが、多くのフォントはこれを行っていない[6][7]。
質の高い組版では、本文にオールドスタイル数字を用いるのが一般的である。オールドスタイル数字は、連続した高さのライニング数字とは異なり、小文字やスモールキャピタルとの馴染みが良いためである。ライニング数字はすべて大文字の組版で要求され(そのため「タイトリング数字」という別名がある)、表や表計算で効果的に機能するとされる。
従来の多くの書体は両種の数字を完備していたが、初期のデジタルフォントはプロの印刷業者が使用するものを除き、どちらか一方しか備えていなかった。現代のOpenTypeフォントは一般的に両方を収録しており、lnum
とonum
の機能タグを介して切り替えが可能である[8]。デフォルトでオールドスタイル数字を使用する一般的なデジタルフォントとしては、Candara、Constantia、Corbel、Hoefler Text、Georgia、Junicode、Garamondの一部のバリエーション(オープンソースのEB Garamondなど)、FF Scalaが挙げられる。PalatinoおよびそのクローンであるFPL Neuは、オールドスタイル数字とライニング数字の両方に対応している[9][10][11]。
歴史
medieval numerals(中世数字)という名前が示すように、オールドスタイル数字は中世から使われてきた。アラビア数字が12世紀のヨーロッパに伝わり、最終的にローマ数字に取って代わった時代である。
一方、ライニング数字は、商店主の手書き看板という中産階級の現象から生まれた。これらがヨーロッパのタイポグラフィに導入されたのは1788年、リチャード・オースティンが活字鋳造家兼出版者のジョン・ベルのために彫った、Bellという4分の3の高さのライニング数字を含むフォントがきっかけである。ライニング数字は19世紀の活字デザイナーたちによってさらに発展し、新聞や広告のタイポグラフィなど、一部の分野ではオールドスタイル数字にほぼ取って代わった[12]。オールドスタイル数字からライニング数字への移行期において、旧来の方式を正当化する理由としては、高さの違いが似た数字を区別するのに役立つという点があった。一方、ライニング数字を正当化する理由としては、数字が大きい分より明確であり、すべてのページ番号の高さが同じになることで見た目が良くなるという点があった[6][12]。なお、印刷業者トーマス・カーソン・ハンサードは、印刷に関する画期的な教科書『Typographia』の中でこの流行を「馬鹿げている」と非難しているが、その本自体は彼が批判したライニング数字やモダン書体(ディドニ)を使って印刷されていたことが、後の複数の著述家によって指摘されている[6][13]。
上質な印刷物では常に人気があったものの、オールドスタイル数字は、文字セットが限られ代替文字をサポートしていなかった写真植字や初期のデジタル技術の登場により、いっそう影を潜めていった[14]。ウォルター・トレーシーは、写植機メーカーがオールドスタイル数字を避けていた理由として、高さが均一でないため縮小して分数の数字を作ることができず、追加で分数の文字セットが必要になる点を指摘している[6]。その後、より高度なデジタル組版システムの登場とともに、オールドスタイル数字は復活を遂げた[15]。
現代のプロフェッショナル向けデジタルフォントは、ほぼ例外なく何らかのOpenTypeフォーマットの亜種であり、オールドスタイル数字とライニング数字の両方をOpenTypeの代替文字としてエンコードしている。Unicodeにおいてオールドスタイル数字は、ライニング数字と同じ文字を異なる方法で書いたものと見なされ、別途エンコードされていない[16]。アドビの初期のOpenTypeフォントでは、非標準数字セットを私用領域に配していたが、近年のフォントではOpenTypeの機能のみを使用している[17]。
関連項目
脚注
- ^ University of Chicago Press (2010). “Appendix B: Glossary”. The Chicago Manual of Style (16th ed.). Chicago: University of Chicago Press. pp. 891, 899
- ^ Bringhurst 1992, p. 36
- ^ Saller, Carol (2012年3月14日). “Old-Style Versus Lining Figures”. The Chronicle of Higher Education
- ^ Birdsall 2004, p. xi
- ^ Birdsall 2004, p. 186
- ^ a b c d Tracy, Walter. Letters of Credit. pp. 67–70
- ^ Bergmann, Christoph; Florian Hardwig (2016年8月23日). “Zero vs. oh: Strategies of glyph differentiation”. Isoglosse. 2016年9月12日閲覧。
- ^ “Registered features - definitions and implementations”. Microsoft (2017年2月14日). 2018年4月24日閲覧。
- ^ Devroye, Luc (2002年11月30日). “More on the Palatino Story”. 2025年8月20日閲覧。
- ^ Index of /~was/x/FPL Archived April 15, 2011, at the Wayback Machine.
- ^ “FPL Neu Fonts—OpenType Edition” (2008年3月13日). 2012年4月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年8月20日閲覧。
- ^ a b Hansard, Thomas Curson (1825). Typographia, an Historical Sketch of the Origin and Progress of the Art of Printing. pp. 430–1 2015年8月12日閲覧。
- ^ Johnson, Alfred F. (1930). “The Evolution of the Modern-Face Roman”. The Library s4-XI (3): 353–377. doi:10.1093/library/s4-XI.3.353.
- ^ Bringhurst 1992, p. 47
- ^ Hoefler, Jonathan. “Hoefler Text: design notes”. Hoefler & Co.. 2019年5月24日閲覧。
- ^ “22”. The Unicode® Standard: Version 12.0 – Core Specification. Mountain View, CA: The Unicode Consortium. (2019). p. 820. ISBN 978-1-936213-22-1 2019年5月24日閲覧. "Some variations of decimal digits are considered glyph variants and are not separately encoded. These include the old style variants of digits, as shown in Figure 22-7."
- ^ Personal communication from Thomas Phinney, formerly of Adobe Type
参考文献
- Birdsall, Derek (2004), Notes on Book Design, New Haven, CT: Yale University Press, ISBN 0-300-10347-6
- Bringhurst, Robert (1992), The Elements of Typographic Style, Vancouver: Hartley & Marks, ISBN 0-88179-132-6
外部リンク
- Bergsland, David. “Using Numbers in the Proper Case”. DT&G Design. 2012年6月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年8月20日閲覧。
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