ウイグルのムカム音楽
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ウイグル族のムカム(マカム、マカームとも)は長大な一連の曲の集まり。楽曲体系。音楽様式。「新疆のウイグルの大曲(ムカム)芸術」としてユネスコの無形文化遺産に登録されている。 10世紀から13世紀にかけて、突厥族の間でその基礎が固められ、14世紀になって天山山脈の南北の地方に広がり、15世紀には「ムカム」の語も、ムカムとしての構造も一応整ったといわれている。 ムカムを構造的にも不動のものとして確立させたのは、16世紀、ヤルカンド汗国の2代目の君主アブドヴァシデの妃、アマンニサが時の優れたムカムの演唱家、カディールと協力して、民間に散逸散在していたムカムのチョンラクマン(チョン・ナグマとも)、ダスタン、マイシュラップ(マシュラップとも)を整理し体系化したことに因るものとされている。(楽師伝 - ウイグルの古典音楽家の詳細について書いてある) ウイグル族の住むそれぞれの都市に伝承されている。 カシュガル・ムカム - 別名12ムカムとも。全部演奏するには1日かかるといわれている。 ハミ・ムカム タラン・ムカム イリ・ムカム ヤルカンドの近くにある小さな村(バスで大体1時間半程)、メリケット(メルキット)には12ムカムの古い形、12ムカムより歴史の古い?ドラン・ムカム Dollan Muqamが残っているという。 12ムカムの名前 アラブのマカームなどと、同じ様な名前が散見される。 ラック RAK チャビアット CHABBIAT ムシャーヴラク MUSAVIRAK チャリガー CHARIGAHペルシア語(チャハールガーフ;「第4番目」の意)が語源?。イランのダストガーフにチャハールガーフ、東アラブ古典音楽のマカームにジハールカーフ、アルジェリアのトゥブーウにジャールカ、トルコのマカームにチャールギャーフ、イランのダストガーフにチャハールガーフがある。 パンジガ PANJIGAHペルシャ語が語源?トルコのマカームにペンチギャーフ、イランのダストガーフにラーストパンジュガーフ、東アラブ古典音楽のマカームにパンジュガーフがある。 オザール OZ'HALトルコのマカームにウッザールがある。 アジェム AJAM「ペルシャ人」の意。アラビア語が語源?チュニジアのトゥブーウにアジャム、トルコのマカームにアジェム、イラクのマカームにアジャムがある。 ウッシャーク OSHSHAQトルコのマカームにウッシャーク、モロッコのトゥブーウにウッシャーク(アル・ウッシャーク)、チュニジアのトゥブーウにウッシャーク、サフィー・アッディーンの論文にマカーマート・ウッシャークがある。 バヤット BAYATアラブのバヤーティーにあたる?トルコのマカームにベヤーティー、イランのアーヴァーズにバヤーテ・エスファハーン、バヤーテ・トルク、イラクのマカームにバヤートがある。 ナーヴァ NAWA「旋律」。ペルシャ語が語源。イランのダストガーフにナヴァー、チュニジアのトゥブーウにナワー、リビアのトゥブーウにナワー、サフィー・アッディーンの論文にマカーマート・ナヴァー、ジャミーの「音楽論(第1部作曲論)」に記述されているマカームにナヴァー、トルコのマカームにネヴァー、ウズベキスタンやタジキスタンのシャシュマカームにナヴァー(Navo)、東アラブ古典音楽のマカームにナワーがある。 セガー SIGAH「第3番目」。ペルシャ語が語源。イランのダストガーフにセガーフ、モロッコのトゥブーウにシーカ(アル・スィーカ)、アルジェリアのトゥブーウにシーカ、チュニジアのトゥブーウにシーカ(スィーカ)、リビアのトゥブーウにシーカ、トルコのマカームにセギャーフ、ウズベキスタンやタジキスタンのシャシュマカームにセガーフ(Segokh)、東アラブ古典音楽のマカームにシガーフ(スィカー、セガー、シカ)、イラクのマカームにスィガーフ、セガーフがある。 イラーク IRAQ「イラク」の意。モロッコのトゥブーウにイラーク・アルアラブ、イラーク・アルアジャム、アルジェリアのトゥブーウにイラーク、チュニジアのトゥブーウにイラーク、リビアのトゥブーウにイラーク、サフィー・アッディーンの論文にマカーマート・イラーク、ジャミーの「音楽論(第1部作曲論)」に記述されているマカームにイラーク、トルコのマカームにウラーク、ウズベキスタンやタジキスタンのシャシュマカームにイラーク(Irok)がある。 ムカムの構造 ムカムとは楽曲の体系。曲の集合体。1ムカム分演奏すると大体2時間はかかる。12ムカム全てとなると、丸々1日はかかる。12ムカム全曲を聴ける機会は今日はまずない。大概はあるムカムのごく一部を断片的に演奏したりする場合がほとんどで、それも合奏ではなく、単独楽器で演奏されたり、多少演奏されやすく手が加えられた簡易版を演奏する場合も多い。経験をつんだウイグルの音楽家でも、1ムカム分を覚えるのは至難の業で、12ムカムの内1ムカムだけでも覚えて演奏出来れば賞賛に値するとされる。東アラブ古典音楽における「ワスラ」、トルコにおける「ファスル」といった組曲形式(あるいは組歌形式;いくつもの声楽・器楽曲を集めたもの。能でいう「番組」)にあたる?また西アラブ古典音楽における「ヌーバ」、「マアルーフ」、ウズベキスタンやタジキスタンにおける「シャシュマコーム;6つのマコーム」も曲の集合体というので、ムカムに似ているかもしれない。イランにおける「ラディーフ」も同様のもの? チョン・ナグマ部 Chon Naghmaチョンは「大きな」という意味。ナグマは「楽曲」(アラビア語のナグマ;旋律の意;が語源?)。字句通り、かなり規模が大きく、中は細部に別れている。ムカムによっては、チョン・ナグマ部に含まれるヌスカがなかったり、ジュラがなかったりもする バス・ムカム Bas muqamバス・ムカムは、ちょうど1つのムカムの序奏部に当たるところで、拍子がなく、浪々と語られる感じでうたわれる。この部分だけで延々何分もある。アラブのタクスィーム(マカームに基づいた器楽の即興演奏)、ラヤーリー(マカームに基づいた声楽の即興演奏)にあたる? ヌスカ Nuskaヌスカは、アラビア語が語源。ムカムによってはない場合もある。 タイゼ Taziタイゼも、アラビア語が語源。 サリクァ Saliqa ジュラ Julaムカムによってはない場合もある。 セネム Senam タキット Takit ダスタン部分 Dastanダスタンは物語、叙事詩を意味する。(中央アジアのトゥルクメニスタンには「デスタン」と呼ばれる物語の弾き語りがある。) ダスタン部も、マシュラップ部と同様に第2ダスタンまでだけのムカムがあったり、第7ダスタンまであるものがあったり、と曲数は様々。 チャビアットムカムのダスタンは非常に長い時間を要するため、最近では第1ダスタンのみ演奏し終わらせることが多い。(本当は第2ダスタン、マシュラップ・・・と、曲が続いている) 第1ダスタン 第2ダスタン 第3ダスタン ・・・ マシュラップ部 Mesrap第2マシュラップまでだけのムカムがあったり、第7マシュラップまであるものがあったり、と曲数は様々。マシュラップはチョン・ナグマやダスタンよりも、歌詞が大衆的に書かれているせいなのか、ウイグルの祭りや収穫の時期などに、これ単独で演奏され、踊りの曲として使用される場合が多い。基本的にマシュラップは、第1マシュラップが8分の7拍子となっているものがほとんどで、第2、第3マシュラップとなるに連れ、2拍子系の拍子に変化していき、テンポも段々と速くなって行く。全てのマシュラップの最後には、最初の序奏バス・ムカームを連想させる無拍子の旋律が奏され終了する。形式が明確なのも特徴。 第1マシュラップ 第2マシュラップ 第3マシュラップ ・・・ 名前はチョンラクマン、ダスタン、マイシュラップとも。
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