アンゴラ救済計画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/19 03:14 UTC 版)
「アルヴェス・レイス」の記事における「アンゴラ救済計画」の解説
ホセ・バンデイラ、カレル・マラン、アドルフ・ヘニーら三名の元に、獄中にいるアルヴェス・レイスからの連絡が届いたのは1924年のことだった。アルヴェス・レイスは「極秘計画」として、ポルトガル銀行総裁から破綻状態にあるアンゴラの救済を託されていると打ち明けた。それは緊急の通貨増刷計画であり、秘匿機関と資金の運用を行う上で、ぜひ三名の協力を仰ぎたいと結んでいた。天才詐欺師の口車はポルトガル政府の腐敗と窮状によって一定の説得力をもっていたが、服役中の男による告白は信用し難く、また意図が明らかではないために三名とも返事を保留するに留めた。 この時、アルヴェス・レイスがアンゴラ救済のために必要だと主張した金額は500万ドルであり、その借款のために500万ドル相当のポルトガル・エスクード通貨の発行をイギリスに依頼する計画を立てる。500万ドルは当時のポルトガルの名目GNPの0.88%に匹敵するかつてない巨額な融資であった。そのためにまずレイスは借款を裏付ける政府公認の契約書の偽造に着手した。レイスはアンゴラ総督、財務大臣、アンゴラ政府専門担当官の三者のサインを偽造して公正証書を用意し、それは公証人アヴェリーノ・デ・ファリアの目をすり抜けて「本物」であることが確認された。だが、公証人一人だけでは国際的な信用は乏しいため、さらにレイスはフランス、ドイツ、イギリスの大使館に持ち込み、大使館に補完されているデ・ファリアが関わった契約書のコピーと検証し、デ・ファリアのサインが本物であることの確認と証明を求めた。当然ながらデ・ファリアのサイン自体は本物であるため各大使館から証明がなされ、この段階に至ってレイスはホセ・バンデイラ、カレル・マラン、アドルフ・ヘニーの三名に書類を見せ、救済計画が事実であると訴え、再び協力を要請した。なお、この時から最後に至るまでレイスは協力者に決して詐欺計画の全容を打ち明けず、あくまでもアンゴラ救済のための合法的な秘密活動だと主張し続けた。それによって三名は逮捕後、レイスを信じ切っていたのに騙されただけだと主張できる権利を持つことになる。 「本物」と証明された借款の契約書を手に入れたアルヴェス・レイスの次の目標は、ポルトガル銀行総裁の通貨発行指示書に必要となる総裁専用の便箋と封筒の入手とその作成を依頼する印刷所の選定であったが、見本となる封筒の入手は政府高官を兄に持つホセ・バンデイラによって、また印刷所の選定はオランダ人協力者のカレル・マランによって解決された。カレル・マランは自らの信用とコネを用いてオランダの通貨や切手を印刷する最も権威ある印刷所「ロイヤル・ジョー・エンスヘーデ(英語版)」社(Royal Joh. Enschedé)を手配した。便箋と封筒が刷り上がると、アルヴェス・レイスは拡大鏡を用いてエスクード紙幣からポルトガル総裁のサインを見つけ出し、500エスクード紙幣20万枚(500万ドル相当)の指示書を作成しサインした。 しかし最大の難題は、紙幣に印字される紙幣番号の組み合わせ規則であり、これは偽造防止の最後の手段として外部に漏れることが望めない情報だった。アルヴェス・レイスは金融ブローカーであるアドルフ・ヘニーの財力を借り、500エスクード紙幣を発行された順に500枚以上集めて並べ、その規則を必死に解析した。苦闘の末、アルヴェス・レイスは概ね法則を見つけだし、既存の番号と被らないと思われる紙幣番号を抽出することに成功した。 これらの準備を終えて、アルヴェス・レイスはようやく紙幣の原盤を持つイギリスのウォーターロー商会(英語版)(Waterlow and Sons)に紙幣の発行を依頼した。しかしウォーターロー商会の代表者であるサー・ウィリアム・ウォーターローはいつもと異なる手順を訝しみ、当初は書類の受理を渋った。ウィリアムは、ポルトガル銀行総裁のロドリゲスが従来のように直接文書で指示をしない点を不審に思い、リスボンの商会代理人であるヘンリー・ロマーに現地調査をさせた。ロマーは調査の結果、ウィリアムに警告を報告したが、調査結果は採用されなかった。アルヴェス・レイスの説得と協力者たちの信用、何より借款の存在を示す契約書に記された公証人の名前と各国大使館の保証を前に、個人の判断で遅延し続けることはできなかった。それでもウォーターロー商会は紙幣番号を全て調べる確認を怠らず、ついにアルヴェス・レイスが参考にした紙幣番号をうっかり残してしまったミスから、過去の依頼と同じ紙幣番号を一つだけ見つけ出す。ウォーターロー商会は念の為、ポルトガル銀行総裁に向けて依頼の受領を知らせる手紙を発送した。しかし理由は不明ながら郵便はポルトガル銀行総裁に届くことなく失われた。
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