アメリカの姿勢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 11:31 UTC 版)
アメリカ合衆国は国際刑事裁判所規程(ローマ規程)の起草段階で重要な役割を果たしたが、ローマ規程が採択された1998年の国連外交会議では反対票を投じた。クリントン政権時は2000年の12月31日にローマ規程に署名したものの、批准しない旨を公表していた。ブッシュ政権に移行後は、ローマ規程が発効する直前の2002年5月6日に署名を撤回している。署名の撤回は過去に例がなく、署名を撤回することが国際法上可能であるかという問題を含め、多くの議論を呼んだ。批准書の付託業務を請け負う国際連合事務局の条約局(Treaty Division)は、アメリカ政府の署名撤回の申し出を正式に受理していない。 アメリカは、ICCが政治的に利用される恐れがあるとして、強硬な姿勢をとっている。これは自国軍将兵が戦闘区域での不法行為(主として非戦闘員の殺害など)により訴追される事を防ぐ為、ひいては自国の無謬性を主張する為と見られる。対ICC政策としては、アメリカは以下の政策を実施している。 二国間免責協定(BIA)の締結:アメリカは、自国民をICCに引き渡さないことを約する二国間免責協定(BIA:Bilateral Immunity Agreement)の締結を各国に要請している。この協定は双務的な協定ではなく、米軍兵士、政府関係者ならびにすべての米国籍保有者を保護する目的で同協定の締約国にICCへの引渡しを拒否するよう求める片務的なもの(解説)。 国際連合平和維持軍(PKO)の訴追免責の確保:アメリカは、安全保障理事会で国際連合平和維持軍(PKO)の訴追免責を認める一連の決議(決議1422を2002年、決議1487を2003年)を採択している。2002年の決議は2003年に一度更新されたが、2004年はイラクにおけるアメリカ軍の捕虜の取り扱いが問題となり(→強制収容所、グァンタナモ米軍基地)、アメリカは決議更新の提案を断念、更新されなかった。 米国軍人保護法(ASPA)の制定:アメリカは、ICCに対する協力を禁止し、アメリカ国民にICCからの訴追免責を与える米国軍人保護法(ASPA:American Servicemembers' Protection Act)を制定している。ASPAでは、アメリカとBIAを結ばない国(NATO諸国及び一部の同盟国を除く)に対する軍事援助を停止することも規定されている。さらに2004年には、アメリカとBIAを締結していないローマ規程の締約国に対する経済援助を停止するという修正案(ネザーカット修正, Nethercutt Amendment)が合衆国議会で可決され、12月8日、ブッシュ大統領がこれに署名した。 2008年6月20日、米国政府はBIAの締結を拒否する14のICC締約国に対する経済支援の停止措置(ネザーカット修正)の適用を免除する大統領令が発令されたことを発表。その政策面でも米国の反ICC政策の軟化傾向が明らかになってきている 2010年5月31日、米国政府はICCの締約国会議に公式オブザーバー参加し代表団を派遣。帰国後の6月15日、同会議について、とくに侵略犯罪の議論に関する特別ブリーフィングを行い、その定義及び適用について「最も非道な犯罪が行われた事態についてのみ適用されるべきであるという理解に達することができたことを評価する」とした。→侵略犯罪 2020年6月11日、ドナルド・トランプ米大統領はICCがアフガニスタン戦争に従事した米兵らへの戦争犯罪捜査を承認したことへの対抗措置として、米国民への捜査や訴追に関与したICC当局者への制裁を可能にする大統領令に署名した。 2020年9月2日、アメリカ大統領令第13928号による制裁対象として、ファトゥ・ベンソーダICC検察官及びファキソ・モチョチョコICC検察局管轄権・補完性・協力部長を指定。アメリカ国民を捜査するICCの取組に関与する特定の個人(certain individuals)への査証発給の禁止。 2021年4月3日、アメリカ政府がICC関係者に対する制裁措置の解除を発表。
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