麺
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/05 04:28 UTC 版)
概要
麺または麺類は穀物などの粉を練って作る加工食品の一種であり、原料としては小麦粉、蕎麦粉、米粉、片栗粉、タピオカなどの穀物粉が主体となるが、細長い形状をした加工食品であれば原料によらず「麺」と名付けられて供される場合がある[2]。穀物を主原料とする麺は主食とされる場合が多い。様々な調味料や具材、副菜とともに食されるが、麺の生地にビタミンやミネラル、食物繊維などを練り込んで栄養バランスを確保する製品も開発されている[3]。
麺という字は中華圏の「麺(繁体字:麵、簡体字:面)」(拼音: )に由来し、小麦粉そのもの、または小麦粉を練って作った食品を指していた[4]。日本に伝来したのは奈良時代頃と考えられており、当時は「唐菓子」と呼ばれて仏教儀式などに用いられた[4]。
また、英語では小麦粉に水を加えて調製したものをドウ(dough)といい、これを応用した料理は薄く伸ばして餡などを包んだ料理(ダンプリング、dumpling)と、切る、伸ばす、ちぎる、穴や型から押し出すなどの方法で成形した料理(ヌードル、noodle)に大別される[5]。日本語の「麺」は後者に相当するものを指す[5]。
日本においては製造工程や製法などにより様々に分類されて呼称されるが、大別すると生めん類、乾めん類、即席めん類、マカロニ類(スパゲティ類)、冷凍めん類の5つに分けられる[4]。
- 生めん類
- 公取協連合会では『生めん類の表示に関する公正競争規約』の中で生めん類について「小麦粉の穀粉類を主原料として製めん、成形したもの及び製めん、成形した後加工したもの」と定義し、うどん、そば、中華めん、生マカロニ類、生スパゲッティ類、ソフトスパゲッティ式めん、大麦めん、大麦そば、冷めん、米粉めん、ぎょうざの皮等を挙げている[6]。
- 乾めん類
- 消費者庁は『乾めん類品質表示基準』の中で乾めん類について「小麦粉又はそば粉に食塩、やまのいも、抹茶、卵等を加えて練り合わせた後、製めんし、乾燥したもの」またはこれに「調味料、やくみ等を添付したもの」と定義している[7]。
- 即席めん類
- 公取協連合会では『即席めんの表示に関する公正競争規約及び施行規則』の中で即席めんについて「小麦粉またはそば粉を主原料とし、これに食塩またはかんすいその他めんの弾力性、粘性を高めるもの等を加えて練り合わせた後、製めんしたもののうち、添付調味料を添付したもの又は調味料で味付けしたものであって、簡便な調理操作により食用に供するもの」と定義している[8]。なお、かん水の代替としては成分でん粉がアルファ化されているものに限っている[8]。
- マカロニ類
- 消費者庁は『マカロニ類品質表示基準』の中でマカロニ類について「デュラム小麦のセモリナ若しくは小麦粉又は強力小麦のファリナ若しくは普通小麦粉に水を加え、これに卵、野菜等を加え又は加えないで練り合わせ、マカロニ類成形機から高圧で押し出した後、切断し、及び熟成乾燥したもの」と定義している[9]。また上記定義の中で形状や太さによって条件に合致する場合はスパゲッティ、バーミセリー、ヌードルの呼称が認められている[9]。
- 冷凍めん類
- 消費者庁は『調理冷凍食品品質表示基準』の中で冷凍めん類について「調理冷凍食品のうち、小麦粉又はそば粉を主原料とし、これに食塩、かんすい等を加え練り合わせたものを製めんした後、蒸し、又はゆでること等の加熱処理をしたもの」またはこれに「調味料で味付け、若しくはかやくを加え調理したもの、又は調味料若しくはかやくを添付したもの」と定義している[10]。
発祥
麺の主たる原料である小麦は東地中海沿岸(イラン西部、イラク東部、トルコ南部および東部)がその起源とされているが[11]、寒冷地から熱帯地方まで広範囲で栽培が可能だったこと、水と混ぜることでグルテンが生成され、粘り気と弾力性に富んだ性質が多様な食品への加工に適していたこと、という大きな二つの理由により世界的な普及を見せた[12]。最初に栽培が行われるようになったのはメソポタミアで、紀元前9000年~7000年頃と考えられている[13]。そのまま食すことに適さない小麦は、栽培当初は粥として食されていたと考えられているが、食感などを求めて小麦粉を練って生地を作ってパン(無発酵パン・発酵パン)として食す方法や、練った生地をちぎってすいとんのように食す方法が広まると、様々な形状への加工が行われるようになり、その過程で細長く形づくられたものが麺にあたると考えられている[14]が、諸説あり定かではない。
中国大陸に小麦が伝わったのは前漢(紀元前1世紀前後)時代に西方との交易路が開けてからであると言われているが、他の穀物を使った麺が地中海地域で小麦粉のものに変えられた可能性も考えられる。現在までに発見された最も古い麺類の遺物は、中国青海省民和回族トゥ族自治県の喇家遺跡で発見された。これはおよそ4000年前のものであり、麺は小麦粉ではなく粟で作られていた。 現在カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンなど中央アジアで広く食されているラグマンはラーメンの語源とも言われているが、シルクロードを伝播し中国大陸に広まった際に鹹湖(塩水湖)の水を使用してラグマンを作ったのが中華麺の始まりとも言われ、現代においても製麺工程で使用される塩基性塩をかん水と呼ぶのもこの名残からとされている[15]。
他に、栽培小麦発祥の古代メソポタミアから遊牧民によって餃子の形(アフガニスタンのオシャク、新疆ウイグル自治区のジュワワ)で伝わり、華北で皮が分かれて麺條(生地を細長く伸ばしたもの)が生まれたとするものもある[16]。
一方でヨーロッパで広まったデュラム小麦からはパスタが作られるようになるが、イタリアのチェルヴェーテリにあるエトルリア人の遺跡からおよそ2400年前の製麺器具が発見されている他、古代ローマ時代の文献の中でラガーナと呼ばれる焼いて食べるパスタについての記述が見つかっていることなどから古くから食文化として麺を食す習慣が広まっていたと考えられている[17]。しかし4世紀頃のゲルマン民族の侵攻により食肉文化が広く浸透してパスタなどの食文化は衰退し、再び登場するのは13世紀末のフラ・サリンベネの『年代記』であった[18]。
注釈
出典
- ^ 原材料が100%「豆」の「ゼンブヌードル」はパスタなのか何なのか実際に食べて確かめてみた GIGAZINE(2020年10月13日)2020年10月28日閲覧
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.14
- ^ 「日清食品、栄養と簡単調理両立のパスタ」日本経済新聞ニュースサイト(2019年3月26日)2019年4月5日閲覧
- ^ a b c d e f g 豊田実「最近の麺事情について」『調理科学』24巻 1号 1991年 p.36-42, doi:10.11402/cookeryscience1968.24.1_36
- ^ a b c 吉田宗弘. “うどん類の歴史と分類”. 関西大学. 2020年11月8日閲覧。
- ^ 全国公正取引協議会連合会『生めん類の表示に関する公正競争規約』
- ^ 消費者庁: 乾めん類品質表示基準
- ^ a b 全国公正取引協議会連合会: 即席めんの表示に関する公正競争規約及び施行規則
- ^ a b 消費者庁: マカロニ類品質表示基準
- ^ 消費者庁『調理冷凍食品品質表示基準』
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.16
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.15
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.19
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.22
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.24
- ^ 奥山忠政『文化麺類学・ラーメン篇』2003年,明石書店
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.25
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.32
- ^ 麥部:麪:麥末也。从麥丏聲。
- ^ 麪:束晳麪賦云重羅之麪塵飛雪白
- ^ 食部:餅:麪餈也。从食并聲。
- ^ 岡田哲『ラーメンの誕生』2002年,ちくま新書(筑摩書房)
- ^ 麺のルーツを味わう - 奈良公園で索餅まつり 奈良新聞、2023年7月9日閲覧
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.16
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.25
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.35
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.50
- ^ 池上俊一『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書)p.146
- ^ a b 講談社ブルーバックス: 山田昌治『麺の科学』p.30
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.61
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.33
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.37
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.46-p.47
- ^ a b 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.40
- ^ 山田昌治『麺の科学』(講談社ブルーバックス)p.99
- ^ 世界の伝統的な製麵技術 5つの系列 - 石毛直道食文化アーカイブス
- ^ 有限会社規格サービス: 2011年2月JIS追録差し替え情報
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