小笠原諸島
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医療
父島と母島にそれぞれ村営診療所があり医師と歯科医師がそれぞれ常駐している。問診のみならず、一般的な血液検査機器(自動血球計算器、自動生化学測定器など)および、超音波画像診断装置、上部消化管内視鏡、単純X線撮影装置、X線透視装置、ヘリカルスキャンCT装置が両島に配備されている。これは特に母島診療所においてこの規模の離島としては国内に類を見ない設備[73]である。これを補完するために専門医による診療は定期的巡回診療の際に行われる。
診療所で対応困難な急病人が発生した場合は村役場からの連絡を受け、東京都知事が海上自衛隊に出動要請を行って海上自衛隊機で搬送することになる(後述)。
急患搬送
本土から小笠原諸島へは非常にアクセスしにくいため、島内で急を要する重病が発生した場合は自衛隊や海上保安庁による搬送が行われる。海上自衛隊硫黄島航空基地所在の救難ヘリコプターにより一旦硫黄島へ向かい、硫黄島から自衛隊や海上保安庁の航空機によって本土に搬送される方法、または海上自衛隊岩国基地所在の第31航空群第71航空隊が海上自衛隊厚木基地に常時1機待機させている救難飛行艇で本土へ搬送する方法があったが、現在は厚木への前進待機が中止されている為、全て硫黄島経由で搬送されている。以前は小笠原のヘリポートに夜間照明が設置されていなかったため「夜間に発病すると手遅れ」とも言われていた[52]が、現在は夜間でも搬送ができる。
交通
父島と母島以外の島行の公共交通機関又はそれに準ずる一般客向け輸送機関は存在しない。また、父島や母島へ行く場合も交通手段はおがさわら丸、ははじま丸のみ。
父島へのアクセス
- 小笠原海運「おがさわら丸」
- 東京港(竹芝桟橋)と父島(二見港)を結ぶ貨客船(所要時間24時間、おおむね観光シーズンは3日に1便、オフシーズンは6日に1便就航)。片道運賃は等級によって異なり、2万2570円 - 5万6490円、夏期 2万5100円 - 6万2790円)。2016年(平成28年)7月、新造船である 3代目おがさわら丸の就航により所要時間が約1時間30分短縮された。
- テクノスーパーライナー (TSL)「SUPER LINER OGASAWARA」(最高時速約70km、総トン数1万4500トン、乗客数740人)が2006年春以降に就航する計画があり、実現できれば所要時間は約17時間に短縮される見込みだった。しかし、おがさわら丸に比べ接岸時には悪天候に弱く、また高速航行でエネルギー効率(燃費)が悪く(船は速度が上がるにつれて造波抵抗の影響でエネルギー効率が悪くなる)、原油価格の高騰も理由として、小笠原海運は2005年8月にTSLの就航中止を発表した。
- 共勝丸「共勝丸」
母島へのアクセス
- 伊豆諸島開発「ははじま丸」
- 父島二見港と母島沖港を結ぶ貨客船。1日0.5 - 1往復就航(所要時間 2時間、休航日あり)。おがさわら丸入出港日は接続するダイヤを組む(片道運賃 1等7,560円、2等3,780円)。
- 共勝丸「共勝丸」
- 東京港と母島を乗り換え無しで結ぶ唯一の船便。父島 - 母島間は所要約 3時間(東京 - 母島間の片道運賃 2万円、父島 - 母島間の片道運賃2000円)。現在、旅客輸送は行っていない[74]。
父島内
父島には小笠原村営バスが運行されている(東京都シルバーパス使用可)。他には観光タクシー、レンタカー、レンタルスクーター、レンタサイクルがある。諸島外から自家用車やバイクを持ち込む場合は貨物扱いとなり、125cc以下のバイクはチッキ(受託手荷物)扱いとなる。
母島内
母島には定期公共交通機関がない。レンタカー、レンタルスクーターがある。レンタカー、レンタルスクーターの取り扱い店は共に1軒であり、それぞれ保有台数は少ない。予約をしておらず、当日朝の先着順で貸し出しを行っている。その他、島内各地へは有償運送(乗合タクシー)を行っている。母島発遊覧・遊漁船が運行している。
空港建設
空港のない父島列島には、以前から空港建設・民間航空路線開設の要望がある。一般のアクセスは船に限られ、東京都心からブラジル・サンパウロに飛行機で行くよりも時間がかかる[75]。かつて父島には、洲崎地区に大日本帝国海軍の飛行場があったが、戦後はヘリポートのみで、固定翼の陸上機が発着できる場所がない。
海上自衛隊父島基地には、飛行艇用の揚陸スロープが設置されており、岩国基地所属の飛行艇が飛来するが、急病人および東京都知事や国務大臣など要人の搬送を目的とする場合に限られている。1994年2月の小笠原行幸啓では、US-1が使用された[76]。
下記の都議会予算特別委員会などで、今までに父島洲崎(1,000m級滑走路)、兄島(1,600m級滑走路)、父島時雨山(しぐれやま)を予定地とする空港建設がそれぞれ検討された。兄島候補地では、父島との交通手段を確保する必要があるなどの困難を伴い、貴重な動植物の保護の必要があることから、空港建設のめどは立っていない。羽田空港からの民間飛行艇による運航や、硫黄島航空基地を経由した大型ヘリコプターによる運航、同じく硫黄島から船便での運航など、空港を父島列島に建設しなくてすむ方法も検討されているが、結論は出ていない。
古くからの住民の多くは簡単に往来できる空港建設を熱望している一方で、小笠原の自然に惚れ込んで移住した新住民の多くは「秘境らしさ」を残したいため、空港建設に消極的であるなど、島民の意見もまとまっていないといわれる[77]。また世界遺産登録後は、環境悪化に対する懸念も浮上している[78]。
2005年、東京都知事石原慎太郎はテクノスーパーライナーの就航断念を受け、空港が「地域振興に極めて必要である」として、環境に配慮しながらも最低限の第三種空港を建設する意欲を明らかにした[79]。その方法として、羽田空港D滑走路建設で検討されながらも採用されなかった「メガフロート」と地上滑走路の併用を考えていることを明らかにした。2006年3月15日の東京都議会予算特別委員会で石原都知事は「(かつて日本軍が建設した飛行場があった)父島洲崎地区を(空港として)利用したい」旨、表明した[80]。
東京都では2008年以降小笠原諸島における本土との間の航空路開設についての検討を進めるにあたり、 関係者間の円滑な合意形成を図ることを目的として、小笠原航空路協議会を設置している[81]。
2018年1月5日、小池百合子都知事が定例記者会見において、平成30年度予算案に小笠原諸島における空港建設のための調査費を計上した[78]。滑走路は1,000m以下を想定しているとの報道がある[82]。
日本航空のグループ会社の日本エアコミューターなどが使用するATR 42 などの中型ターボプロップ機は、航続距離1,560km前後ながら1,200m級滑走路での運用が可能で、40名前後の旅客型の他にコンビ機(旅客と貨物兼用)の設定も可能である。2018年7月開催の第7回小笠原航空路協議会では、STOL性能を向上させ800mの滑走路に対応し開発中のATR 42-600Sが候補とされた[83][78] 。しかし、2020年7月開催された第9回、同協議会以降、ATRの親会社レオナルド S.p.A傘下アグスタウェストランドが開発中のティルトローター機であるAW609も候補となり、競合する可能性が出てきている[84]。
2022年度においても、東京都は、小笠原諸島と本土を結ぶ航空路について約5億円の調査費を計上し調査を行ったが、環境面への配慮や航空機の選定に時間を要することから、2022年11月25日現在、航空路線開設の見通しは立っていない[85]。
主な機関
父島
- 国
- 東京都
母島
- 東京都小笠原支庁母島出張所
- 小笠原警察署母島駐在所(警視庁管内で最南端の駐在所)
- 小笠原村役場母島支所
南鳥島
- 気象庁南鳥島気象観測所
- 海上自衛隊第4航空群硫黄島航空基地隊南鳥島航空派遣隊
※ 海上保安庁南鳥島ロランC局は、2009年(平成21年)12月をもって運用を終了している。
注釈
- ^ 10,536ha (105.36km2)や104.41km2とする文献も存在する[1]。
- ^ 父島に海上自衛隊横須賀地方隊の父島基地分遣隊が常駐。硫黄島には、海上自衛隊の硫黄島航空基地隊等と、航空自衛隊の硫黄島基地隊が所在している。南鳥島には、海上自衛隊硫黄島航空基地隊の南鳥島航空派遣隊が常駐し、国土交通省の気象庁及び関東地方整備局なども常駐している。
- ^ 最初の入植者である25人の出身地は、欧米人はアメリカ人2名、イギリス人2名、デンマーク人1名で、太平洋諸島出身者はハワイ諸島出身者7名をはじめ、マリアナ諸島、カロリン諸島のポンペイ島、ギルバート諸島、マルキーズ諸島、タヒチなど、ポリネシアやミクロネシア各地からの出身者で構成されていた。 田中 pp41-42, p62
- ^ 父島中継局・母島中継局とも、ラジオ第1・ラジオ第2はFM波に変換して、FM放送はそのまま放送。
- ^ 地上波テレビ局には放送免許において都道府県単位、または関東広域圏など地域単位の放送対象地域が定められており、全国放送または国外放送の免許を有しない東京のNHK・民放テレビ放送が他地域で受信できてしまうと法的な問題が発生する
- ^ 地上デジタル放送の送信チャンネルは八丈中継局と同じ。
- ^ NHKワールド・ラジオ日本は、短波のほかNHKワールドのテレビ放送で使用している衛星を用いたデジタルラジオ放送も行われている。こちらは国外衛星放送受信装置とCバンドのLNB、パラボラアンテナ(国内衛星放送より大きいサイズ)を用意すれば終日、安定した電波、テレビ・FMラジオ並みの高音質で聴取可能である。
- ^ 2006年3月までは既存ラジオ局の運営するBSラジオ放送局、2006年10月まではBSラジオ局のWINJが聴取可能だった。
出典
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