行動分析とは? わかりやすく解説

行動分析

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/15 01:18 UTC 版)

行動分析学(こうどうぶんせきがく、Behavior Analysis)とは、バラス・スキナー (Burrhus Frederick Skinner) が新行動主義心理学をさらに改革し、新たに起こした徹底的行動主義 (radical behaviorism) に基づく心理学の一体系である。歴史的には、フロイトユングらの精神分析学に対抗する形で発展してきた。

行動分析学とは字義通り人間または動物などの行動を分析する学問である。行動は、生物ができるすべての行動を対象とする。具体的には、独立変数(環境)を操作することで従属変数(行動)がどの程度変化したかを記述することによって、行動の「原理」や「法則」を導き出す。これを実験的行動分析(じっけんてきこうどうぶんせき、en:Experimental analysis of behavior)という。これにより、行動の「予測」と「制御」が可能になる。その成果は、人間や動物のさまざまな問題行動の解決に応用されている。これを応用行動分析(おうようこうどうぶんせき、Applied Behavior Analysis)と呼ぶ。

行動分析学の基本的な「原理」は、レスポンデント条件づけ(別名古典的条件づけまたはパブロフ型条件づけ)とオペラント条件づけ(別名道具的条件づけ)の二つにある。

特徴

行動分析学は、他の心理学に対して次のような特徴を持つ。

  • 行動についての哲学的な立場として、徹底的行動主義を採用する。
  • ヒトだけでなく動物を含むオペラント行動を研究対象とする。
  • ある行動の予測と制御ができることをもって、その行動を理解できたとする。
  • 行動の原因として、環境要因を重視する。
  • 研究法としての実験計画法統計的検定に基づく群間比較を用いず、行動の直接制御による単一被験体法を採用する。

実験的行動分析

行動分析学のうち、実験室等の厳密に制御された環境で、ヒトを含む動物を対象に、環境要因を直接操作し、環境への機能によって定義された行動を変容させることで、両者の因果関係を明らかにしようとする、行動分析における研究の一領域を実験的行動分析という。

環境と行動間のこのような分析は機能分析(functional analysis)とよばれる。最近ではマッチングの法則、行動経済学、行動調整理論など、環境と行動の数量的関係を取り扱う数量的行動分析がこの領域の一分野として確立しつつある。

応用行動分析

実験的行動分析で見出された変数を用いて、人間の行動問題の分析と修正を目的として応用行動分析が誕生し、特に1970年代以降大きく発展してきた。

この応用行動分析という言葉は行動修正学と同義でも使われており、しばしば行動療法におけるオペラント条件づけ療法の適用に関して用いられることがある。

応用行動分析の活用で最も良く知られているのは、発達障害挑戦的行動、特に自閉症スペクトラム障害を持つ人に用いられるものである[1][2]

しかし応用行動分析はこの他に、エイズ予防[3]、自然資源保全[4]、教育[5]、老年医学[6]、健康とエクセサイズ[7]、産業安全[8]、言語習得[9]、ゴミのポイ捨て[10]、医療措置[11]、育児[12]、シートベルト着用[13]、重篤な精神障害[14]、スポーツ[15]、動物園マネジメントやアニマルケア[16]などでも効果を上げている。

転向療法への応用

応用行動分析に嫌悪刺激を導入したことで知られるイヴァー・ロヴァース英語版は、応用行動分析を用いた転向療法にも手を出している[17][18][19]。フェミニンボーイ・プロジェクトとして知られるこのプロジェクトは、実験室の中で「女らしい」行動を罰し、「男らしい」行動をほめる刺激を繰り返すものだった[19]。共同研究者のジョージ・リカーズ英語版は、この実験のおかげで性的逸脱行動の専門家として出世し、同性愛者の権利に反対する政治活動をおこなった[19][20]。フェミニンボーイ・プロジェクトの被験者となった少年は、長年にわたるうつ病を患ったのちに38歳で自殺した[19][21][20]

出典

  1. ^ Dillenburger, K.; Keenan, M. (2009). “None of the As in ABA stand for autism: dispelling the myths”. J Intellect Dev Disabil 34 (2): 193–95. doi:10.1080/13668250902845244. PMID 19404840. 
  2. ^ NICE Pathways - Interventions for challenging behaviour in adults with autism”. 英国国立医療技術評価機構 (2015年). 2015年8月1日閲覧。
  3. ^ DeVries、 J.E.; Burnette、 M.M.; Redmon、 W.K. (1991). “AIDS prevention: Improving nurses' compliance with glove wearing through performance feedback”. Journal of Applied Behavior Analysis 24 (4): 705–11. doi:10.1901/jaba.1991.24-705. PMC 1279627. PMID 1797773. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1279627/. 
  4. ^ Brothers、 K.J.; Krantz、 P.J.; McClannahan、 L.E. (1994). “Office paper recycling: A function of container proximity”. Journal of Applied Behavior Analysis 27 (1): 153–60. doi:10.1901/jaba.1994.27-153. PMC 1297784. PMID 16795821. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1297784/. 
  5. ^ Dardig、 Jill C.; Heward、 William L.; Heron、 Timothy E.; Nancy A. Neef; Peterson、 Stephanie; Diane M. Sainato; Cartledge、 Gwendolyn; Gardner、 Ralph; Peterson、 Lloyd R.; Susan B. Hersh (2005). Focus on behavior analysis in education: achievements、 challenges、 and opportunities. Upper Saddle River、 NJ: Pearson/Merrill/Prentice Hall. ISBN 0-13-111339-9 
  6. ^ Gallagher、 S.M.; Keenan M. (2000). “Independent use of activity materials by the elderly in a residential setting”. Journal of Applied Behavior Analysis 33 (3): 325–28. doi:10.1901/jaba.2000.33-325. PMC 1284256. PMID 11051575. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1284256/. 
  7. ^ De Luca、 R.V.; Holborn、 S.W. (1992). “Effects of a variable-ratio reinforcement schedule with changing criteria on exercise in obese and nonobese boys”. Journal of Applied Behavior Analysis 25 (3): 671–79. doi:10.1901/jaba.1992.25-671. PMC 1279749. PMID 1429319. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1279749/. 
  8. ^ Fox、 D.K.; Hopkins、 B.L.; Anger、 W.K. (1987). “The long-term effects of a token economy on safety performance in open-pit mining”. Journal of Applied Behavior Analysis 20 (3): 215–24. doi:10.1901/jaba.1987.20-215. PMC 1286011. PMID 3667473. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1286011/. 
  9. ^ Drasgow、 E.; Halle、 J.W.; Ostrosky、 M.M. (1998). “Effects of differential reinforcement on the generalization of a replacement mand in three children with severe language delays”. Journal of Applied Behavior Analysis 31 (3): 357–74. doi:10.1901/jaba.1998.31-357. PMC 1284128. PMID 9757580. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1284128/. 
  10. ^ Powers、 R.B.; Osborne、 J.G.; Anderson、 E.G. (1973). “Positive reinforcement of litter removal in the natural environment”. Journal of Applied Behavior Analysis 6 (4): 579–86. doi:10.1901/jaba.1973.6-579. PMC 1310876. PMID 16795442. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1310876/. 
  11. ^ Hagopian、 L.P.; Thompson、 R.H. (1999). “Reinforcement of compliance with respiratory treatment in a child with cystic fibrosis”. Journal of Applied Behavior Analysis 32 (2): 233–36. doi:10.1901/jaba.1999.32-233. PMC 1284184. PMID 10396778. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1284184/. 
  12. ^ Kuhn、 S.A.C.; Lerman、 D.C.; Vorndran、 C.M. (2003). “Pyramidal training for families of children with problem behavior”. Journal of Applied Behavior Analysis 36 (1): 77–88. doi:10.1901/jaba.2003.36-77. PMC 1284418. PMID 12723868. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1284418/. 
  13. ^ Van Houten、 R.; Malenfant、 J.E.L.; Austin、 J.; Lebbon、 A. (2005). Vollmer、 Timothy. ed. “The effects of a seatbelt-gearshift delay prompt on the seatbelt use of motorists who do not regularly wear seatbelts”. Journal of Applied Behavior Analysis 38 (2): 195–203. doi:10.1901/jaba.2005.48-04. PMC 1226155. PMID 16033166. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1226155/. 
  14. ^ Wong、 S.E.; Martinez-Diaz、 J.A.; Massel、 H.K.; Edelstein、 B.A.; Wiegand、 W.; Bowen、 L.; Liberman、 R.P. (1993). “Conversational skills training with schizophrenic inpatients: A study of generalization across settings and conversants”. Behavior Therapy 24 (2): 285–304. doi:10.1016/S0005-7894(05)80270-9. 
  15. ^ Brobst、 B.; Ward、 P. (2002). “Effects of public posting、 goal setting、 and oral feedback on the skills of female soccer players”. Journal of Applied Behavior Analysis 35 (3): 247–57. doi:10.1901/jaba.2002.35-247. PMC 1284383. PMID 12365738. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1284383/. 
  16. ^ Forthman、 D.L.; Ogden、 J.J. (1992). “The role of applied behavior analysis in zoo management: Today and tomorrow”. Journal of Applied Behavior Analysis 25 (3): 647–52. doi:10.1901/jaba.1992.25-647. PMC 1279745. PMID 16795790. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1279745/. 
  17. ^ Rekers, George A.; Lovaas, O. Ivar (1974). “Behavioral treatment of deviant sex-role behaviors in a male child”. Journal of Applied Behavior Analysis 7 (2): 173–190. doi:10.1901/jaba.1974.7-173. ISSN 0021-8855. PMC 1311956. PMID 4436165. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1311956/. 
  18. ^ Rekers, George A.; Rosen, Alexander C.; Lovaas, O. Ivar; Bentler, Peter M. (1978-02). “Sex-role stereotypy and professional intervention for childhood gender disturbance.” (英語). Professional Psychology 9 (1): 127–136. doi:10.1037/0735-7028.9.1.127. ISSN 0033-0175. https://doi.apa.org/doi/10.1037/0735-7028.9.1.127. 
  19. ^ a b c d スティーブ・シルバーマン 著、正高信男・入口真夕子 訳『自閉症の世界』講談社、2017年、399-404頁。 
  20. ^ a b Szalavitz, Maia (2011年6月8日). “The ‘Sissy Boy’ Experiment: Why Gender-Related Cases Call for Scientists’ Humility” (英語). Time. ISSN 0040-781X. https://healthland.time.com/2011/06/08/the-sissy-boy-experiment-why-gender-related-cases-call-for-scientists-humility/ 2024年8月14日閲覧。 
  21. ^ Therapy to change 'feminine' boy created a troubled man, family says” (英語). www.cnn.com. 2024年8月14日閲覧。

関連項目

外部リンク


行動分析

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/09 17:58 UTC 版)

パウル (タコ)」の記事における「行動分析」の解説

パウル選択行動説明するものとして以下のような仮説出されている。 国旗のデザイン 種としてマダコは、行動研究電気生理学的研究の結果色相識別できないものの、明度サイズ形状傾き区別は可能であることが明らかにされている。従って、パウル国旗のデザイン識別できたと考えられる。さらに、マダコおおむね横長図形興味を持つ考えられている。実際パウル選んだ旗には平の縞があった。 黒・赤・金等間隔ストライプからなるくっきりしたトリコロールドイツ国旗は、パウル普段から好んでいたものだった。しかし広い黄色の帯を持つスペイン国旗青と白からなるセルビア国旗はさらに鮮やかに映る。パウルドイツ差し置いてそれらの国を選んだ理由は、それで説明できるかもしれない2010年7月6日パウルスペイン国旗選択した時、ドイツ国旗スペイン国旗似通っているから勘違いしたではないか、だから今回予言外れてくれるのではないか、という指摘があった。 餌箱の匂い マダコ触手感覚受容器持ち、それで獲物味わい水の匂いを嗅ぐ。箱の微妙な匂い違いパウル行動影響した可能性はあり、実際匂いパウル訓練するのは簡単であったろうと考えられるパウル飼育係によると、パウル選びすいよう餌の容器には穴が開けられていた。 La Rochelle 水族館ディレクターである Pascal Coutant は「パウル選択は全くの偶然に因るものだ」と述べている。 いずれにせよ統計学的視点に立つならば、パウル予知能力実証するためには、厳密に標準化されテスト環境で、もっと多数回の試行行なう必要がある考えられるまた、世界中で同様の予言ごっこをする動物がたくさんいたならば、そのうち一部的中続けるのは確率論的に当然という指摘もある。 鹿児島大学名誉教授川村によると、タコは暗い色を好むので、ドイツ国旗選択し続けた理由説明できるが、比較明るい色であるセルビアスペインの国旗選択した理由つかないとして、同教授は明と暗の中にも好きな濃淡があるのではないか考え実験重ねたその結果タコが最も好む色は1番から順に、黒・赤・橙であることが分かり論文発表した

※この「行動分析」の解説は、「パウル (タコ)」の解説の一部です。
「行動分析」を含む「パウル (タコ)」の記事については、「パウル (タコ)」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「行動分析」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「行動分析」の関連用語

行動分析のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



行動分析のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの行動分析 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのパウル (タコ) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS