Kalmanfilterとは? わかりやすく解説

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カルマン‐フィルター【Kalman filter】


カルマンフィルター

読み方かるまんふぃるたー
【英】:Kalman filter

概要

(1) 信号生成するシステムモデル, (2) 雑音統計的性質,(3) 初期状態に関する事前情報3つ与えられたとき, 観測データから状態ベクトル最小2乗推定値逐次的生成するオンラインアルゴリズムである. カルマンフィルターの応用航空宇宙工学, 制御工学, 通信工学, OR, 土木工学など, 非常に広範な分野わたっている.

詳説

Sk-0098-b-h-05-1.png
図1:状態空間モデル


 図1に示すガウス白色雑音を受ける離散時間線形確率システム考える.



\begin{array}{rlll}
x_{t+1} &=& Ax_t+Bw_t & \qquad (1)\\
y_t &=& Cx_t+v_t,\ t=0, 1, \cdots & \qquad (2)
\end{array}
\,


ただし, x_t\, n次元状態ベクトル, y_t\, はp次元観測ベクトル,w_t\, , v_t\, m\, およびp\, 次元ガウス白色雑音ベクトルで, 平均値は0, 共分散行列



E \{ w_t w_s^{\top} \} = Q\delta_{ts}, \ \ 
E \{ v_t v_s^{\top} \} = R\delta_{ts}, \ \ E\{w_tv_s^{\top}\}=0
\,


であるとする. ただし, Q\, , R\, 非負定値対称行列, \delta_{ts}\, クロネッカー記号である. A,\;B,\;C,\;Q,\;R\, 一般に時間関数であってもよいが,簡単のために添字t\, 省略している. また初期値x_0\, 平均値\bar{x}_0\, ,共分散行列\Sigma_0\, ガウス確率ベクトルであり, 雑音とは無相関であるとする.

 カルマンフィルタは, 観測データY_{0}^{\top}:=\{y_0, y_1, \cdots, y_t\}\, 基づいて,状態x_{t+m}\, 最小分散推定値(すなわちx_{t+m}\, 条件付き期待値)



\hat{x}_{t+m|t}=E\{x_{t+m}|Y_{0}^{\top}\}, \ t=0, 1, \cdots
\,


逐次的計算するアルゴリズムである. m>0, m=0, m<0にしたがってそれぞれ, 予測, 濾波, 平滑という.以下では, 状態ベクトル予測推定値, 濾波推定値\hat{x}_{t/t-1}, \hat{x}_{t/t}表し, それぞれの推定誤差共分散行列次のようにおく.



P_{t/t-1}=E\{[x_t-\hat{x}_{t/t-1}][x_t-\hat{x}_{t/t-1}]^{\top}\}, \quad
P_{t/t}=E\{[x_t-\hat{x}_{t/t}][x_t-\hat{x}_{t/t}]^{\top}\}
\,


 1960-61年にカルマン(R. E. Kalman)と ビュシー(R. S. Bucy)は式(1), (2)状態空間モデルに対して, カルマンフィルターと呼ばれる以下のようなアルゴリズム提案した [1, 2, 3, 4, 5, 6].


(i) フィルタ方程式


\begin{array}{rlll}
\hat{x}_{t+1/t}&=&A\hat{x}_{t/t}, \quad \hat{x}_0=\bar{x}_0 & \qquad (3)\\
\hat{x}_{t/t}&=&\hat{x}_{t/t-1}+K_t[y_t-C\hat{x}_{t/t-1}] & \qquad (4)
\end{array}
\,

(ii) カルマンゲイン


K_t=P_{t/t-1}C^{\top}[CP_{t/t-1}C^{\top}+R]^{-1} \qquad (5)
\,


(iii) 推定誤差共分散行列


\begin{array}{rlll}
P_{t+1/t} &=& AP_{t/t}A^{\top} + BQB^{\top} & \qquad (6)\\ 
P_{t/t} &=& P_{t/t-1}-P_{t/t-1}C^{\top}[CP_{t/t-1}C^{\top}+R]^{-1}CP_{t/t-1}, 
\quad P_{0/-1}=\Sigma_0 & \qquad (7)
\end{array}
\,


Sk-0098-b-h-05-2.png
図2:カルマンフィルターのブロック線図



 図2にカルマンフィルタブロック線図を示す.カルマンフィルタ観測値y_t\, 入力とし, 推定値\hat{x}_{t/t-1}\, , \hat{x}_{t/t}\, 逐次的出力する線形動的システムであり,\nu_t=y_t-C\hat{x}_{t/t-1}\, イノベーション呼ばれている.

 w_t,\;v_t,\;x_0\, ガウス分布ない場合には, 上のアルゴリズム状態ベクトルおよび信号線形最小分散推定値与えるという意味で, 最適なフィルタである.

 式(6), (7)からP_{t/t}\, 消去して,P_t:=P_{t/t-1}\, とおくと, 離散時間リッカチ方程式



P_{t+1}=A(P_{t}-P_{t}C^{\top}[CP_{t}C^{\top}+R]^{-1}CP_{t})A^{\top} + BQB^{\top} \qquad (8)
\,


を得る. また上式のt\to \infty\, における極限代数リッカチ方程式という. 制御理論分野には(代数)リッカチ方程式に関する膨大な研究がある [7].

 白色雑音を受ける非線形確率システムに対しても,その線形化モデルカルマンフィルタ適用することができるので, カルマンフィルタ航空宇宙工学分野において飛翔体軌道推定威力発揮した. また状態ベクトルだけてなく, モデル含まれる未知パラメータ同時に推定する拡張カルマンフィルタ提案されており, カルマンフィルタ応用時系列推定始めとして非常に多く分野見られる.



参考文献

[1] R. E. Kalman, "A New Approach to Linear Filtering and Prediction Problem," Transactions of American Society of Mechanical Engineers, Journal of Basic Engineering, 82D (1960), 34-45.

[2] R. E. Kalman and R. S. Bucy, "New Results in Linear Filtering and Prediction Theory," Transactions of American Society of Mechanical Engineers, Journal of Basic Engineering, 83D (1961), 95-108.

[3] B. D. O. Anderson and J. B. Moore, Optimal Filtering, Prentice-Hall, 1979.

[4] M. S. Grewal and A. P. Andrews, Kalman Filtering - Theory and Practice, Prentice-Hall, 1993.

[5] 有本 卓, 『カルマンフィルター』, 産業図書, 1977.

[6] 片山 徹, 『新版応用カルマンフィルタ』, 朝倉書店, 2000.

[7] S. Bittanti, A. J. Laub and J. C. Willems (Eds.), The Riccati Equation, Springer, 1991.

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カルマンフィルター

(Kalmanfilter から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/22 10:07 UTC 版)

カルマンフィルター (: Kalman filter) は、誤差のある観測値を用いて、ある動的システムの状態を推定あるいは制御するための、無限インパルス応答フィルターの一種である。

実用例

カルマンフィルターは、 離散的な誤差のある観測から、時々刻々と時間変化する量(例えばある物体の位置と速度)を推定するために用いられる。レーダーコンピュータビジョンなど、工学分野で広く用いられる。例えば、カーナビゲーションでは、機器内蔵の加速度計人工衛星からの誤差のある情報を統合して、時々刻々変化する自動車の位置を推定するのに応用されている。カルマンフィルターは、目標物の時間変化を支配する法則を活用して、目標物の位置を現在(フィルター)、未来(予測)、過去(内挿あるいは平滑化)に推定することができる。

歴史

このフィルターはルドルフ・カルマンによって提唱されたが、同様の原理はトルバルド・ティエレとピーター・スワーリングによってすでに開発されていた[1]。カルマンがアメリカ航空宇宙局エイムズ研究センターを訪問した際、この理論がロケットの軌道推定に有用なことに気づき、のちのアポロ計画で用いられた。

用いられる動的システム

カルマンフィルターは時間領域において、連続時間線形動的システム、もしくは離散化された離散時間線型動的システムに基づいて駆動する。以降に導入される解説は、後者の立場のものである。それらはガウス白色雑音によって励振をうける線形演算子からなるマルコフ連鎖モデルで表現される。より端的にいえば、システムは状態空間モデル (state space model) で表現されるということである。

対象のシステムに定義された「状態 (state)」は、そのシステムの過去の動特性の遷移を保持する役割を果たし、動特性の遷移を保持する線形空間が状態空間として定義される。この空間は実数空間であるため、システムの状態は一般に、任意の次元の状態空間に含まれる実数ベクトルとして与えられる。状態の変化は、現在の状態と、それに付加する雑音の影響と、場合によってはシステムの状態の制御に関与する既知の制御入力の線形結合によって記述される。したがって、状態はシステムの因果性に寄与する存在である。上記の理念は、以下に記述する状態方程式 (state equation) によって表現される。 状態が直接観測できない場合には、システムの出力は一般に状態と観測雑音の線形結合にて観測可能なものとして与えられる。この理念は観測方程式 (observation equation) として、以下に示すような線形モデルで表現される。 カルマンフィルターは、直接システムの状態が観測できない問題に対する状態推定法のひとつであるから、一般的に観測方程式を伴う問題に適用される。

カルマンフィルターは隠れマルコフモデル (hidden Markov model) の類似であると考えることができる。2者の主たる差異は隠れマルコフモデルにおける状態変数が、連続であるか離散であるかである。また、隠れマルコフモデルでは状態変数の未来への変化を任意の分布に従う形式で統計的に与えることができる一方で、カルマンフィルターでは、ガウス分布に従う雑音によって未来の状態変数が統計的に記述される点が異なっている。したがって、カルマンフィルターと隠れマルコフモデルの間には強固な双対性が存在する。ちなみに、カルマンフィルターの導出過程においては、「システムに付随する雑音の性質はガウス分布に従う」という仮定の下に行われるのが一般的であるが、雑音の性質がガウス分布に従わない場合であっても、カルマンフィルターは線形なクラスにおける最適推定値、すなわち線形最小分散推定値を導くことができる点で、汎用性に富んでいるといえる。

唯一に観測可能である、雑音の影響を受けた出力過程に基づいて(制御問題においては、入力も観測可能な過程となる)、カルマンフィルターを用いてシステムの状態を推定するためには、対象のシステムに対して、カルマンフィルターの理念に合致するような状態の遷移(すなわち状態過程)に関するモデルを与えなければならない。これは、時変 (time-variant) な行列



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