飛型の歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 02:23 UTC 版)
飛行姿勢については、歴史的な変遷が存在する。 初期は直立不動の姿勢であったが、1920年代に、ヤコブ・チューリン・タムス ( ノルウェー) に代表される、腰を曲げて前傾姿勢を取るタムス型と、ナルヴェ・ボンナ ( ノルウェー) に代表される、直立状態のまま前傾するボンナ型という2つの前傾姿勢が広まり、とりわけタムス型はその後戦後直後まで多くのジャンパーが取り入れていた。いずれの型においても、腕は、バランスを取るために回していた。 1950年代前半からは、フィンランドのアンティ・ヒュベリネンのような、手を動かさず体に付け、深い前傾姿勢を取るスタイルが定着し、このスタイルはその後長らく基本的なフォームとして1990年頃まで主流であった。その中で、1960年頃に、1960年スコーバレーオリンピックで優勝したヘルムート・レクナゲルなど、両手を前に出して止めるスタイルも生まれたが、その後の五輪では勝てず、このスタイルは自然消滅した。 20世紀後半までは、気をつけの姿勢でスキーを揃え、横から見ると、胸から上とスキーが平行になるのが理想とされていた。札幌冬季オリンピックで、笠谷幸生、金野昭次、青地清二の日本人3選手がメダルを独占した際は、この飛型であった。1970年代までは、アプローチの際に両腕を前に下げるフォアハンドスタイルが主流であった。 1976年頃、ハンス=ゲオルク・アッシェンバッハ ( 東ドイツ) が、アプローチを滑走する際、中腰で両手を平行に後ろへ揃えるスタイルを始め、当初アッシェンバッハスタイルと言われた。現在ではバックハンドスタイルと言われスタンダードな姿勢となっている。それまではしゃがんで手を前にして握るような姿勢が一般的であったが、これは、これが一番空気抵抗が少なく、速度が出ると思われたからである。 20世紀終盤に、イジー・マレツ ( チェコスロバキア) やヤン・ボークレブ ( スウェーデン) がV字飛行を始めた。V字飛行は、それまでの板を揃えて飛ぶ飛型よりも前面に風を多く捉えて飛距離を稼ぐことができたが、当初は飛型点で一人あたり0.5点の減点対象になり、飛距離が伸びることで着地が難しくなることもあり上位に入るにはそのぶんを引き離す飛距離が必要だったが、1988年カルガリーオリンピックでは70m級でマレツがV字ジャンパーとして史上初めてのメダルとなる銅メダルを獲得、翌1988/89年シーズンにはボークレブが総合優勝を獲得したことからV字ジャンプへの注目が高まり、他の選手も次第に取り入れるようになり、その後規定が変更され減点対象から除かれた。このV字スタイルは1969年にポーランドの少年ジャンパー、ミロスワフ・グラフ(英語版)が既に実践していたが、飛型点の低さなどから成績を伸ばせず、ポーランド選手権での4位が最高であったため、世界的に注目されることはなかった。 クラシックスタイルからV字への転向は、オーストリアはその優位性を認め、早くから選手のV字スタイルへの移行をした。一方、まだ技術的に未成熟であり、スキー板を開けば必ず飛距離が伸びるわけではなかったことから、他の国では選手によって考えが異なり、クラシックスタイル・V字転向、その対応はまちまちであった。実際、1990/91年シーズンまでは、クラシックスタイルとV字はそれほど差が無く、1991年世界選手権ラージヒルもクラシックスタイルのフランチ・ぺテクが制している。しかし、翌1991/92年シーズンになると、V字飛行の飛形点減点が無くなり、また技術も向上したことから、V字飛行の優位性は一気に高まった。 そして、V字時代最初のオリンピックとなった1992年アルベールビルオリンピックでは、16歳のトニ・ニエミネンがラージヒル、団体の2冠、ノーマルヒルでも銅と大活躍したのをはじめ、V字ジャンプの選手が個人ノーマルヒル、ラージヒルの上位を独占した。1991年のラージヒル世界チャンピオンのぺテクは大きく離された8位入賞がやっとであり、これ以後はV字スタイルで距離を出せるジャンプをできるもののみが、世界で活躍できることとなった。日本人選手でも、V字スタイルをいち早く取り入れた原田雅彦がラージヒルで4位入賞して注目されたのに対し、クラシックスタイルにこだわった当時の若きエース葛西紀明は26位と振るわなかった。(葛西は五輪後ただちにV字に転向し、世界フライング選手権で優勝した。) これ以降、スキー板を開いて飛ぶことが一般的となり、板をH型に大きく開いたり、板を体の前に出すほど前傾(カミカゼスタイルとも呼ばれた)したりと様々な飛距離向上の工夫がなされ、現在の、スキー板と体でバランスよく空気抵抗を受けるV字スタイルへと進化している。
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