閉サイクル・ディーゼル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 03:15 UTC 版)
「非大気依存推進」の記事における「閉サイクル・ディーゼル」の解説
閉サイクル・ディーゼル (CCDE: Closed Cycle Diesel Engines)(全てを音訳しクローズド・サイクル・ディーゼルと呼ばれる場合もある)は、水上航走時には在来方式と同様に大気中の酸素を吸入し、潜航時には酸化剤(通常は液体酸素を用いる)から供給される酸素でディーゼル・エンジンを駆動させる方式である。純粋酸素による燃焼でエンジンが焼灼されることによる過度の消耗を防ぐため、吸気の酸素分圧を意図的に低減させる工夫が必要であり、吸気に何らかの不活性ガスを混入させて自然大気と同等の分圧とする必要がある。また、内燃機関であるため、作動時の振動、騒音により、ソナーにより捕捉され易いという短所もある。 この方式の場合、排気ガスはそのほとんどが不活性ガス、二酸化炭素、水蒸気から構成される高温の気体である。これを冷却して水蒸気を凝縮させた後、二酸化炭素を海水など艦外から取り入れた水に溶かし込むことにより、排気ガスのうち艦外に排出しなければならない成分のほぼ全量を液体化する事ができる。なお、不活性ガスは回収して再利用に回される。大量の排気ガスを気体として海中に排出する必要がないので、気泡の発生により存在を探知される心配がなく、艦の気密・水密の確保も容易となる。 2006年現在、この方式の開発を進めているのはドイツのノルトゼーヴェルケ社とオランダのロッテルダムドライドック(オランダ語版)社である。このうち前者は、イギリスのカートン深海システムズ社 (Carton deep sea systems) の特許を用いている。この方式では、潜航中の閉サイクル動作はアルゴンを混入して開始させ、作動開始後には二酸化炭素を除去した排気を吸気に混合することで酸素分圧を調整している。いずれにせよ、除去した二酸化炭素を海水中に溶解させて排出しているため、厳密な意味での閉サイクル動作ではない。 TNSW社は1987年から1989年にかけて出力150kWのプラントによる陸上試験を実施し、さらに1993年には250kWのエンジンを205型潜水艦 U-1に搭載して潜航試験を実施、バルト海において速力5ktで1,800海里(約9 km/hで3,334 km)の成果を得ている。 なお、上述したソ連海軍の615型潜水艦が用いていたのは本質的にはこの方式である。615型は1953年から1962年までの間に31隻が就役している。615型には3基のディーゼルエンジンが搭載されており、2基は在来型の外気吸入で、残る1基は閉サイクル動作でそれぞれ作動した。しかし、酸化剤として液体酸素を用いる設計は極めて安全性に乏しく、M-256が酸化剤の爆発とそれに伴う火災により失われているほか、沈没に至らないにせよ多くの事故を経験し、1970年代はじめまでに全艦が除籍・解体されている。 日本でも1950年代中盤より非大気依存推進システムの開発の一環として技術研究本部と川崎重工が液体酸素を用いた閉サイクル・ディーゼルの研究を行っていたが、当時の技術水準では現在のようなコンピュータを使用した電子制御が困難で経費と期間を要することから研究は中止された。その後、自律型無人潜水機の動力として1990年代に開発され、R-oneに搭載された。
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