長征3号Bとは? わかりやすく解説

長征3号B

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/13 05:16 UTC 版)

長征3号B
西昌衛星発射センターからの長征3号Bの打ち上げ
基本データ
運用国 中華人民共和国
開発者 CALT
使用期間 1996年 - 現役
射場 西昌衛星発射センター LA-2 & LA-3
打ち上げ数 91回(成功87回)
原型 長征3号A
姉妹型 長征
発展型 長征3号C
物理的特徴
段数 3段
ブースター 4基
総質量 3B: 425,800 kg[1]
3B/E: 458,970 kg[2]
全長 3B: 54.838 m[1]
3B/E: 56.326 m[2]
直径 3.35 m[1]
軌道投入能力
低軌道 12,000 kg
[3][4]
太陽同期軌道 5,700 kg
[3][4]
静止移行軌道 3B: 5,100 kg
3B/E: 5,500 kg
[3][4][2]
対地同期軌道 2,000 kg
[4]
太陽周回軌道 3,300 kg
[3][4]
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長征3号B (中国語: 长征三号乙火箭) は、中華人民共和国の衛星打ち上げロケット。中国語での正式名称は長征3号乙である。英語では Long March 3BChang Zheng 3B と表記しLM-3BCZ-3B等と略される[5][1]

1996年に導入され、四川省西昌衛星発射センターの第2射場から打ち上げられた。4段目に外部取付け式補助エンジンを持つ3段ロケットであり、長征系列で最も能力が高かった長征3号系統でも最重のロケットであり、対地同期軌道通信衛星の打ち上げなどに利用されている。

増強型の長征3号B/Eは2007年に導入され、ロケットの静止トランスファ軌道への輸送能力と重量級の対地同期軌道通信衛星打ち上げ能力が向上している。また、中規模能力の長征3号Cの開発元ともなっており、長征3号Cは2008年に初飛行を行った。2023年8月時点で長征3号B系統は91回打ち上げが行われている。

歴史

長征3号Bの図、液体ロケットブースターが4機取り付けられている

国際対地同期軌道衛星市場の需要に合わせた長征3号Bの開発は1986年に始まった。

1996年2月14日のインテルサット708を搭載した初飛行の際、ロケットは飛行の2秒後に誘導の失敗に直面し、近くの町に墜落し、少なくとも6人の住民が死亡した[6]とされ、外部の見積もりでは全域で200人から500人が死亡したのではないかとされる[7]。しかし、それ以降の著者[7]は、墜落現場は発射前に立ち退きがなされたことを示唆する証拠を理由に大規模な死傷者を除外している[8]

1997年のフィリピンのアギラ2号衛星は長征3号Bロケットの一部が正確な軌道への投入精度が悪かったために到達のために衛星搭載燃料の利用を余儀なくされた[9]2009年には長征3号Bは3段目の異常によって打ち上げの部分的失敗に陥り、インドネシアのパラパ-Dの予定軌道への投入に失敗した[10]。しかしながら衛星は自己搭載燃料によるマニューバで計画軌道に移動している。長征3号B系統のロケットはいずれも現役であり、2023年8月現在までに91機が打ち上げられ、87回成功している。

2013年12月、長征3号B/Eは中国初の月面着陸機と月面車玉兎号を搭載した嫦娥3号を打ち上げ、月遷移軌道への投入に成功した。

2018年に人工衛星2基を一度に打ち上げられる能力(一箭双星)を成功させた[11]

設計と改良

長征3号Bは長征3号Aを基にしており、4機の液体ロケットブースターが第1段に取り付けられている。低軌道 (LEO) へ12,000kg、静止トランスファ軌道 (GTO) に5,100kgの輸送能力を持つ

長征3号B/E

長征3号B/Eは長征3号Bの増強型であり、拡大型の第1段とブースターが搭載され、GTOへの輸送能力が5,500kgに拡大している[5]。初飛行は2007年5月13日に行われ、アフリカ初の対地同期軌道通信衛星となるナイジェリアのNigComSat-1の打ち上げに成功した。 2013年には中国発の月面着陸機と月面車玉兎号を搭載した嫦娥3号の打ち上げにも使われている。

長征3号C

長征3号Bの近代化版である長征3号Cは長征3号Aと長征3号Bの輸送能力の隙間を埋めるために1990年代半ばから開発が始まった。これは設計は長征3号Bとほぼ同じであるものの、ブースターが2機に減らされており、このため打ち上げ能力はGTOで3,800kgに減っている。2008年4月25日に処女飛行が行われた。

打ち上げ一覧

機体
番号
打ち上げ日時 (UTC) 射場 型式 積荷 軌道 成否
1 1996年2月14日
19:01
西昌衛星発射センター LA-2 3B Intelsat 708 GTO 失敗
2 1997年8月19日
17:50
西昌衛星発射センター LA-2 3B アギラ2号 GTO 成功
3 1997年10月16日
19:13
西昌衛星発射センター LA-2 3B APStar 2R GTO 成功
4 1998年5月30日
10:00
西昌衛星発射センター LA-2 3B Chinastar 1 GTO 成功
5 1998年7月18日
09:20
西昌衛星発射センター LA-2 3B SinoSat 1 GTO 成功
6 2005年4月12日
12:00
西昌衛星発射センター LA-2 3B APStar 6 GTO 成功
7 2006年10月28日
16:20
西昌衛星発射センター LA-2 3B SinoSat 2 GTO 成功
8 2007年5月13日
16:01
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E NigComSat-1 GTO 成功
9 2007年7月5日
12:08
西昌衛星発射センター LA-2 3B ChinaSat 6B GTO 成功
10 2008年6月9日
12:15
西昌衛星発射センター LA-2 3B 中星9号 GTO 成功
11 2008年10月29日
16:53
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E ヴェネサット-1 GTO 成功
12 2009年8月31日
09:28
西昌衛星発射センター LA-2 3B パラパ-D GTO 部分的失敗
13 2010年9月4日
16:14
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 中星6A中国語版 GTO 成功
14 2011年6月20日
16:13
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 中星10号 GTO 成功
15 2011年8月11日
16:15
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E Paksat-1R GTO 成功
16 2011年9月18日
16:33
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 中星1A号(烽火2A) GTO 成功
17 2011年10月7日
08:21
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E Eutelsat W3C GTO 成功
18 2011年12月19日
16:41
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E NigComSat-1R GTO 成功
19 2012年3月31日
10:27
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 亜太7号英語版(APStar 7) GTO 成功
20 2012年4月29日
20:50
西昌衛星発射センター LA-2 3B Compass-M3
Compass-M4
MTO 成功
21 2012年5月26日
15:56
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 中星2A号(神通2) GTO 成功
22 2012年9月18日
19:10
西昌衛星発射センター LA-2 3B Compass-M5
Compass-M6
MTO 成功
23 2012年11月27日
10:13
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 中星12号 GTO 成功
24 2013年5月1日
16:06
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 中星11号 GTO 成功
25 2013年12月1日
17:30
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E 嫦娥3号 LTO 成功
26 2013年12月20日
16:42
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E Túpac Katari 1 GTO 成功
27 2015年7月25日
12:29
西昌衛星発射センター LA-2 3B/YZ-1英語版 BDS M1-S
BDS M2-S
MEO 成功
28 2015年9月12日
15:42
西昌衛星発射センター LA-2 3B/E TJSSW-1 GTO 成功
29 2015年9月29日
23:13
西昌衛星発射センター LA-3 3B/E BDS I2-S GTO 成功

打ち上げ失敗

インテルサット708の打ち上げ失敗

1996年2月14日、インテルサット708を打ち上げる予定であった長征3号Bの初打ち上げは打ち上げ直後にロケットが進路を変え、打ち上げ23秒後に西昌市の市街地に墜落・爆発した。中国政府の公式確認では死者56名、西側メディアの推測では死者は数百名ともいわれている。事故原因は打ち上げ時のロケットの誘導基幹ソフトウェアの短絡とされる。

パラパ-D打ち上げ失敗

2009年8月31日、パラパ-Dの打ち上げ時、3段目エンジンが燃焼不全を起こし、衛星が予定軌道よりも低い位置に投入された。衛星は自らのエンジンを利用した軌道マヌーバを繰り返し、最終的には予定していた静止軌道に移動したが、寿命は10.5年に短縮された。調査の結果、エンジンの液体水素発生器に氷が詰まったことでエンジンのガス発生器が解け落ちたことがわかった[12]

脚注

  1. ^ a b c d Mark Wade. “CZ-3B”. Encyclopedia Astronautica. 2008年4月26日閲覧。
  2. ^ a b c LM-3B”. China Great Wall Industry Corporation. 2012年5月23日閲覧。
  3. ^ a b c d LM-3A Series Launch Vehicle User's Manual - Issue 2011”. China Great Wall Industries Corporation. 2015年8月9日閲覧。
  4. ^ a b c d e Gunter Krebs. “CZ-3B (Chang Zheng-3B)”. Gunter's Space Page. 2008年4月26日閲覧。
  5. ^ a b LM-3B”. China Great Wall Industry Corporation. 2009年8月31日閲覧。
  6. ^ Select Committee of the United States House of Representatives (1999年1月3日). “Satellite Launches in the PRC: Loral”. U.S. National Security and Military/Commercial Concerns with the People's Republic of China. 2012年5月23日閲覧。
  7. ^ a b Lan, Chen. “Mist around the CZ-3B disaster”. The Space Review. 2014年1月18日閲覧。
  8. ^ Lan, Chen. “Mist around the CZ-3B disaster (part 2)”. The Space Review. 2014年10月29日閲覧。
  9. ^ International reference guide to space launch systems. Fourth edition. p. 243. ISBN 1-56347-591-X.
  10. ^ "帕拉帕-D"通信卫星未能进入预定轨道”. Xinhua (2009年8月31日). 2009年8月31日閲覧。
  11. ^ 我国“一箭双星”成功发射两颗北斗三号全球组网卫星-新华网”. www.xinhuanet.com. 2022年12月15日閲覧。
  12. ^ Burn-through Blamed in China Long March Mishap”. SpaceNews (2009年11月19日). 2015年8月10日閲覧。

外部リンク


長征3号B

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長征3号」の記事における「長征3号B」の解説

詳細は「長征3号B」を参照 長征3号B(长征三号乙运载火箭)はCZ-3BやLM-3Bの名でも知られる中国衛星軌道運搬ロケットである。西昌衛星発射センターエリア2から打ち上げられる4つ外部液体ロケットブースター備えた3段ロケットであり、長征3シリーズで最重量かつ長征ロケットシリーズ全体で最も強力な構成である。そして静止軌道通信衛星投入するために主力的に用いられる導入され当時は、ロシアプロトンロケット次いで世界で2番目に打ち上げ能力を持つ使い捨て型ロケットだった。強化型である長征3B/Eは、GTO打ち上げ能力増加およびより重い通信衛星GEOに運ぶために開発された。 歴史 1986年国際的な静止軌道通信衛星、特に高出力で重い衛星市場における需要直面しそれまで長征ロケット技術基盤にして長征3B開発始まった1996年2月14日初飛行のとき、ロケット飛行前2秒に誘導失敗被りピッチオーバーし、打ち上げ後22秒で墜落したインテルサット708衛星失われ多数村人死亡した。その初打ち上げの後、続く10回の長征3Bと3B/Eロケットの打ち上げ成功した2009年長征3B第3段の異常で打ち上げ部分失敗しパラパD計画より低い軌道投入したしかしながら衛星自身軌道変換により予定軌道到達できた。 長征3号B 長征3B長征シリーズ中でも最も強力な打ち上げロケットであり、長征3Aコアステージとして4本の液体ブースターをその周り取り付けたものをベースとしている。全長は54.84mで、コア部の直径は3.35m、低軌道への打ち上げ能力11,200 kgで、GTOへの打ち上げ能力は5,100 kgである。2011年10月8日時点17打ち上げられている(長征3B/Eを含む)。 長征3号B/E 長征3B/E(Enhanced)は長征3B打上げ能力強化形で、第一段液体ブースター長さ延長している。これによりGTOへの打上げ能力が5,500 kgまで強化された。初打ち上げ2007年5月13日で、このときアフリカ初の静止衛星であるNigComSat-1成功裏打ち上げた。また2008年ヴェネサット-1打ち上げにも使われた。 嫦娥3号打上げではさらに以下のような様々な改良加えられた。誘導機器に従来のレーザジャイロ2台に加えて衛星航法信号追加。Rocketcamを搭載し、このシリーズとして初め分離イベントなど飛行中映像生中継エンジン制御システム信頼性を93.8%から94.2%へ向上。月遷移軌道への投入能力を3750kgから3780kgへと30kg強化。ロンチウインドウを拡げられるようにするためにソフトウエアコードのリアルタイムでのアップロード機能追加、また3段加圧システム改良

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