辻占
★1.将来の運命を知るために、辻に立つ。道行く人が、将来の予言をしてくれる。
『大鏡』「兼家伝」 藤原兼家の妻となった時姫が、まだ若い頃、二条大路に出て夕占(ゆふけ)を問うたことがあった。すると白髪の老女が立ち止まり、「あなたは何事も思うことはみな叶い、この大路よりも広く長く栄えるだろう」と告げて去った〔*時姫は兼家との間に、道隆・道兼・道長・超子・詮子を産んだ〕。
『沙石集』巻10本-1 恵心(=源信)僧都が自らの往生の事を心もとなく思い、辻占を問おうと、雨の中、造り道四塚辺で立っていた。すると老翁が来て「極楽へ参りたり」と言ったので、恵心は往生に確信を得た。後、恵心は『往生要集』を著し、めでたく往生した。
★2.通りかかる人の日常の普通の会話や独り言を、当面の自分の境遇にあてはめて解釈し、吉凶を占う。
『芦屋道満大内鑑』2段目 六の君が小門から出てくるのを、悪右衛門が待ちうけて連れ去ろうとする。「双六の目が『出ぬ』」と語る2人連れが通り、また、「良く効く吸い『出し』膏薬」と声をはりあげる膏薬売りが通る。悪右衛門は、「さいさき悪し」と思ったり、「辻占良し」と気を取り直したりする。
『好色一代男』巻4「形見の水櫛」 世之介は駆け落ち相手の人妻を実家の者たちに奪い返され、彼女を捜し歩く。世之介は黄楊(つげ)の櫛を拾い、「『告げ』ならぬ辻占でも聞いて、彼女の消息を知りたい」と願う。そこへ雌雉を撃った猟師が、「もろき命。雄鳥が嘆くだろう」と独り言して通る。その言葉どおり、人妻は死に、世之介は嘆くこととなった→〔蘇生〕3b。
『ドン・キホーテ』(セルバンテス)後編第73~74章 3度目の遍歴を終えて帰村したドン・キホーテが、2人の少年の争いを見る。一方が他方から虫かごを取り上げ、絶対返さぬつもりで「お前一生かかっても2度と見られないぞ」と言うので、ドン・キホーテは、「あの言葉をわしの考えにあてはめると、わしは今後ドルシネア姫に会えないという意味になる」と嘆く。サンチョ・パンサがその解釈の不合理を説くが、ドン・キホーテはそれからまもなく病死する。
『堀川波鼓』(近松門左衛門) 妻敵討ちに出た彦九郎一行は、豆腐屋の「きらず」の売り声や、石売り女の「馬の沓が打たれぬ。今日は打たずに帰れ」の言葉を耳にして気遅れする。しかしそこへ来た若者が「月代を剃らせたら切った切った。頭中をめちゃめちゃに切りおった」と話しているのを聞き、気を取り直す。
★3.近くにいる人の日常の普通の会話を、当面の自分の問題にあてはめて解釈し、行動の指針とする。
『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』(河竹黙阿弥)「雪夕暮入谷畦道」 お尋ね者暗闇の丑松は、「兄貴分片岡直次郎の居所を役人へ密告すれば、自分の罪は軽くなる」と考えつつ、どうしようか迷う。その時、蕎麦屋が「隣の木戸が開いているから知らせてやれ」と、女房に言う声が聞こえる。丑松は「役人へ知らせよう」と心を決める。
★4.拾ったものを、当面の自分の問題にあてはめて解釈し、行動の指針とする。
『南総里見八犬伝』第5輯巻之1第42回 犬塚信乃は、捕らわれの額蔵(=犬川荘助)の救出をはかるが、失敗すれば死ぬゆえ、犬田小文吾には行徳へ戻るよう勧める。小文吾は道で拾った鋏を示し、「鋏は進んで物を切るが、退いては役に立たぬ。鋏の本字は剪だ。これは『進んで仇を剪(き)れ』との辻占だ」と言い、信乃に同行する。
★5.人の言葉を不吉な辻占と受け取って心配するが、取り越し苦労だった。
『琴のそら音』(夏目漱石) 「余(靖雄)」は、婚約者の露子がインフルエンザにかかったので、彼女の病状を心配しながら夜道を歩く。巡査がすれ違いざまに「悪いからお気をつけなさい」と言う。「ぬかるみで道が悪い」という意味なのだが、「病状が悪い」とも解釈でき、「余」の胸は鉛のように重くなる。しかし露子はすでに回復しており、「余」の考え過ぎだった。
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