製鉄所と地元経済
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 07:26 UTC 版)
鉄鋼業の産業連関は実に幅広く、自動車製造業と並び、全製造業中最大のものの一つとなっている。とくに、様々な製造装置の整備と、製造過程で発生する副産物の活用に関しては、自動車製造業よりさらに幅広いため、一般に同じ生産高の自動車製造工場と製鉄所では、後者の方がより多くの関連企業群を構成する。特に技術を要する分野を除き、製鉄所ではこれらの企業を地場に育成する傾向があり、結果として製鉄所の近郊には多くの企業が軒を連ねている。 これらの企業の大半はいわゆる下請企業であり、製鉄所の発注部門からのコストダウン要請に苦しむことも少なくない。一方で、自動車部品製造下請のような親会社による極端な原価管理が少ないことや、製鉄所向け業務の大半は他の産業にも応用できる(製鉄所で求められる品質基準は極めて厳しいため、製鉄所での作業が認められている・納品が許されているということは、特に地元ではかなりのステイタスを持つ)ことから、製鉄所以外向けの比率を伸ばす企業も多く、このあたりも自動車製造業とは多少趣を異にする。製鉄所本体も下請企業の自立にはおおむね好意的であり、実力ある企業は域外への進出を積極的に展開している。 変わったところでは、印刷業(製鉄所内で発行される社員向け広報誌は、多いところでは毎月2万部以上にもなる)や場内の給食・社員や来客送迎用のタクシー(製鉄所の門前には常に10台以上のタクシーが列を成している)・海外からの鉱石運搬船船員のための「海上商店」など、直接製造とは関係ない部門でも、製鉄所はかなりの産業に仕事を提供している。もっとも、飲酒運転の取締が強化されて製鉄所近隣の飲食店の景気が急速に悪化するなど、時代の変化の波はこうした部分にも着実に影響を与えている。 なお、製鉄所の持つ基礎技術(特に検査・IT部門)は、多くの地方にとっては最大かつ最高水準のものである。例えば、県レベルの幾つかでは、その県で最も優れた民生用電子顕微鏡は製鉄所が保有している。最近では[いつ?]地方でもこうした分野での産業交流が注目されており、製鉄所への期待が高まりつつある。 また、製鉄所の持つ豊富な産業資源は、時として地域経済の枠組みを超えた活躍を見せることがある。 一例をあげると、ハワイにあるすばる望遠鏡は、主鏡セルと呼ばれる構造物を熱処理することが、設計上の重要なポイントであった。これは熱処理なしでは構造物に不均等な応力が残存したままになるため、全体として必要な強度を得るためには使用する鋼板の板厚を厚くしないといけない。そうすると今度は全体の重量が増大してしまうため、さらに必要な強度が大きくなってしまう…といういたちごっこの関係があるためである。製作当時、日本国内で直径約8.8m、重量約20tの巨大な構造物を熱処理(応力除去焼鈍)できる設備は2つしかなく、それはいずれも製鉄所が保有するものだった(世界的に見ても、民生用でこれだけの大きさの熱処理設備はほとんど例がない)。 最終的には、主鏡セルの熱処理は旧・川崎製鉄水島製鉄所で行われた。また、主鏡セルの製造自体も、水島製鉄所場内で機械製作やメンテナンスなどを行う関連企業である川鉄鉄構工業が担当した。ここでは超大型工作機械が一つの敷地内に集中して設置されている、巨大構造物の卓越した精密溶接技術を持つ、そもそも材料としての鋼の扱いに慣れている、といった製鉄所関連企業ならではの特徴が活かされた。また、完成した主鏡セルは次工程の作業場である日立造船桜島工場に海上輸送されたが、ここでも臨海製鉄所という立地のメリットが生かされている。
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