血縁認識方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 04:22 UTC 版)
「ウェスターマーク効果」の記事における「血縁認識方法」の解説
ひとつの可能性として、ウェスターマーク効果は血縁認識のための刷り込みの一種とも考えられるようになった。 ウェスターマーク効果(がもし実在するとすれば)の進化的機能は明らかであり、それは血縁者の認識である[要出典]。協力行動の対象とすべき相手を見分け、その相手とはリスクの高い性交を回避することは進化的に重要である。一般的に心理学者はウェスターマーク効果が近親相姦に対する道徳的嫌悪として直観的に働くと考えている[要出典]。しかしそれを引き起こす直接的なメカニズムについてはほとんど分かっていない。 ヒトの血縁認識に用いられていると想定できる情報は次の三つである[要出典] 表現型マッチング(MHC、容姿、声など) 幼少時の親密さや居住時間の長さ 親族呼称に基づく血縁の区別 表現型マッチングに関しては、出生後数週間の幼児でも母親の顔や腋の匂いなどを区別する事ができる事が示されている。いくつかの生物ではMHCによってコードされるグリコプロテインを利用して、(自分自身の型とマッチしているかどうかよりも)ともに育つ親族のそれを識別することで血縁認知が行われているようである[要出典]。ウェスターマーク効果は1または2の情報を利用した血縁認識であると考えることができる[要出典]。 2000年代に入ると、リーバーマンらとフェスラーらはそれぞれ独立してアメリカ合衆国の大学生を対象に調査を行った。この二つのグループはウェスターマークの「幼少時の接触は近親相姦への道徳的嫌悪を促進する」という予測がただしければ、幼少時の異性兄弟との接触は第三者の近親相姦への嫌悪をも強化するだろうと予測し、その補助仮説の検証を試みた。フェスラーらによれば、「被験者と被験者に最も近い異性の兄弟の年齢の差」と、「被験者の近親相姦への嫌悪のレベル」には負の相関があると言う予測は男性被験者では成り立っていたが、女性ではそうではなかった。親の投資理論が適用できるなら、女性の方が近親相姦に強い嫌悪を示すはずであるが、彼らの実験ではそれが示されたものの、重大な差を示さなかった。 リーバーマンらの調査では異性兄弟の数は、女性では道徳的嫌悪に影響しなかったが、男性には影響した。「もしも近親相姦に対する道徳的嫌悪が〔文化〕によって形作られているのなら、兄弟との親密さ(または一緒に育った期間)と近親相姦への嫌悪に一貫した相関性は見られないはずだ」としつつ[要出典]、(1)居住期間(共同生活の時間の長さ)、(2)親交の深さ、(3)実際の遺伝的血縁度、のいずれが第三者の近親相姦への嫌悪と相関しているか調査したところ、(1)「居住期間(共同生活の時間の長さ)」が嫌悪の強さと強く相関していることが明らかとなった。リーバーマンらの調査は、男性の場合、少年期の経験が他人の近親相姦への嫌悪を左右すると示唆する。また彼らの調査では、他の情報(MHC、顔の相似、社会的情報)は近親相姦嫌悪との弱い相関をしめす。養兄弟を持つ13人の被験者でも、同様に同居期間の長さが近親相姦への道徳的嫌悪と相関していた。リーバーマンらの調査[要出典]によれば、親の性的行動への傾向は子の傾向と強い相関があった。しかし親のその態度は兄妹同士の共同養育期間の長さとも相関があった。そして分析では親の態度単独では子の性的傾向の予測ができなかった。遺伝的相関性、性的嗜好、家族構成、性的行動への親や本人の傾向の影響を取り除いた後でも、幼少時の共同生活が近親相姦への道徳的反発と強く反発したままであった。したがってリーバーマンらは文化的な影響は小さいはずだと結論したが、フェスラーらの調査は親の傾向が無関係でないことを示す。 以前の研究は最初の3~6年が重要であると示していたが、この二つのグループの研究は、特に男性の場合は10歳以降も重要であることを示している。リーバーマンは、女性の方が誤警報のコストが高いためにわずかな信号で親類を分類するが男性は可能性のあるパートナーを除外しないために血縁性を絶えず再評価する、と分析した。 レポートに基づく調査は実際の体験を正確に反映していないかも知れない。またアメリカ合衆国だけで行われたために多様な文化の違いを反映していない。異性の兄弟が居る家族の方が強く近親相姦へのタブーを教育するかもしれない。しかし、そのような家族でも息子より娘に強く近親相姦を避けるように教育することがない(区別しない)ことを考えれば、補助仮説は成立しているように考えられる、とフェスラーは述べた。 リーバーマンらの人間の血縁認識に関する他の調査では、出生直後の母親と子の結びつき(MPA)が居住期間よりも重要であることを示唆する。年長の兄姉は、年若の弟妹が生まれた時に彼らと親のMPAを利用することができるが、生まれたばかりの弟妹はそれを利用することができない。したがって年若の弟妹では居住期間がより重要であると推測できる。
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