著書『弦齋夫人の料理談』
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「村井多嘉子」の記事における「著書『弦齋夫人の料理談』」の解説
著書に『婦人世界』の連載を単行本にまとめて出版された『弦齋夫人の料理談』シリーズ(全4編)がある。同書は、月ごとに「松茸は如何に択ぶべきか」「大根は如何なる効があるか」といった記者からの問いに村井多嘉子が答える形で構成された。質問者はあくまで「一記者」とされているが、弦斎の自筆の原稿が一部残っており、少なくとも記事のいくつかは弦斎が一記者となって書いたものとされる。 例えば、当時まだ新しい食品だった牛乳に関する「牛乳は如何に料理すべきか」という問いに対しては、夏の料理として牛乳の葛餅(フランスのブラン・マンジェのアレンジと考えられる)や牛乳羹が紹介されている。料理のレシピ以外にも「朝食はこうあるべき」といった食事の心得も盛り込まれ、食育の重要性も説かれた。1909年に刊行された第2編では、「弁当料理は如何にすべきか」「学校通ひの弁当は如何にするか」などの問いで子供の弁当のあり方を取り上げ、弁当に適した料理を紹介したほか、腐敗防止のために梅干を入れることや冷めた米飯の上に温かいおかずを置かないようにすることなど独自の見解を述べている。また、1912年刊行の第4編「玄米応用手軽新料理」では、玄米の脚気予防効果を探り、当時の新しい知見の紹介や実験・研究成果の報告をして、日本人の常食調理法を一新することを目的とした玄米食を提唱した。 『弦齋夫人の料理談』には、「桃のフライ」「カスタードのおしるこ」といった100年以上を経てもなお斬新とされうるようなメニューが多数掲載されており、ナタリーによると「レシピ本の走り」とも言われている。大衆料理研究家の小野員裕は、明治・大正・昭和時代の日本のレシピ本を特集した2015年の書籍の中で、明治期のレシピ本の一つとして同書の第2編を取り上げている。特に、小野は『弦齋夫人の料理談』に掲載されたレシピの一つである「牡蠣の玉子酢」を実際に作って食べ、 高級和食店の一品料理としてあってもおかしくない上品で繊細な料理だ。 と評価した。2020年には、バラエティ番組の『タモリ倶楽部』で『弦齋夫人の料理談』が特集され、掲載されたレシピを実際に調理する様子が放送された。同年には、113年ぶりに同書が再刊され、帯には「明治時代の驚愕の美食レシピ」との文言が記された。食文化学者の江原絢子と東四柳祥子は、『食道楽』と『弦齋夫人の料理談』とを比較して両者に全く同じ内容が含まれていることを指摘したうえで、 『食道楽』成立のいわば裏方を担った多嘉子の実際的な解説は、同じ内容でも読む人には新鮮味があったのかもしれない。 としている。 第4編で扱われた玄米研究については、いまだ脚気の原因がビタミン不足にあることが分かっていない時代に玄米に着目して研究していたことを丸島が指摘し、「先進的な取り組みであった」と評価している。 書籍の構成面については、小野が「口語文による記者との問答集になっているのが実にユニークだ」と評している。このような対談形式での進行については、2020年に実業之日本社から再刊された際の著者略歴によれば、現在のテレビ料理番組の構成の基礎になったとされている。
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