職業/雇用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 19:56 UTC 版)
トーキーが映画産業のブームをもたらしている間、当時のハリウッド俳優にとっては雇用上の逆効果を生み出していた。舞台経験のない俳優は突然トーキーに対応できるか否かについて疑問を持たれるようになった。先述したように、訛りがひどい者や容姿と声が合っていない者も無声映画時代にはその欠点を隠せていたが、特に危険な状態に追い込まれた。無声映画の大スターだったノーマ・タルマッジは、そのようにして事実上映画俳優をやめることになった。スイスの有名な俳優エミール・ヤニングスは、トーキーのせいでヨーロッパに戻ることになった。ジョン・ギルバートは声は悪くなかったが、スターとしての風格にあわない声と評され、人気が急落した。観衆は無声映画時代のスターを古風と見なす傾向があり、それはトーキー時代にも適応できる才能を持っていた者に対しても変わらなかった。1920年代に大人気喜劇スターだったハロルド・ロイドの人気も急速に低下した。リリアン・ギッシュは舞台に移り、他の多くの大スターは間もなく引退した。例えば、グロリア・スワンソンやハリウッドでも有名なカップルだったダグラス・フェアバンクスとメアリー・ピックフォードである。女優ルイーズ・ブルックスは、映画会社側がトーキーへの適性を口実にして大スターに支払うギャランティを下げ、いやなら辞めろという態度で俳優たちに迫ったという面もあると後に述懐している。同様にクララ・ボウも声が合わないとされてハリウッドを去ることになったが、真の問題は映画会社経営陣との衝突であり、映画史家 David Thomson は男優ならば平凡ともいえるそのライフスタイルに対して映画会社側が「ブルジョワ的偽善性による反発」で対立したのだとした。バスター・キートンは新たな媒体を探究することにやぶさかではなかったが、MGMはトーキーを導入した際にキートンの従来の映画スタッフを解体し、キートンが創造的な影響力を発揮できないようにした。キートンの初期のトーキー作品はそれなりの利益をもたらしたが、芸術的には見るべきところがない。 初期のトーキーはその特徴を生かすためヴォードヴィル劇やミュージカル劇を導入したものが多く、舞台で台詞や歌に慣れていたアル・ジョルソンやジャネット・マクドナルドやマルクス兄弟といったスターがもてはやされた。ブロードウェイで共演していたジェームズ・キャグニーとジョーン・ブロンデルは1930年にワーナー・ブラザースに引き抜かれ、ハリウッド入りした。無声映画からトーキーに移行してもスターとしての地位を保った数少ない俳優としては、リチャード・バーセルメス、クライヴ・ブルック、ビーブ・ダニエルズ、ノーマ・シアラー、ローレル&ハーディがいる。特にチャールズ・チャップリンは『街の灯』(1931年)や『モダン・タイムス』(1936年)で、ほぼ音楽と効果音だけのサウンドトラックを製作しているという点で他と比較できない。ジャネット・ゲイナーはトーキー時代になってからスターになったが、初期の出演作『第七天国』や『サンライズ』は台詞がなかった。ジョーン・クロフォードも同様で『踊る娘達』(1928年)は台詞がなかった。グレタ・ガルボは英語を母語としない外国人だったが、トーキー移行後もハリウッドスターの地位を維持し続けた。 日本でも映画俳優に影響があった。田中絹代は、下関訛りの甘ったるい声が好評となり、その庶民的な可憐さとあわせてますます人気が沸騰した。入江たか子は、華族的な話し方が庶民の反発を招いたといわれ、やがて人気低下につながったと言われる。阪東妻三郎も人気が低迷し、自身のその甲高い声が原因かと悩んだという。 音楽を録音済みのトーキーが盛んになるにつれ、劇場付きの楽団員も職を失うことになった。劇場の楽団は単に映画の伴奏以上のものだった。歴史家 Preston J. Hubbard によれば「映画館の生演奏は1920年代にアメリカ映画の非常に重要な一面となっていった」としている。映画館の楽団は映画上映前にも演奏を行っていたが、それもトーキー時代の到来と共になくなった。アメリカ音楽家連盟は、演奏者を音楽再生機器に置換する流れに抗議する新聞広告を出したことがある。Pittsburgh Press に出た1929年の広告では、機器による音楽再生を缶詰に譬えている。翌1930年には全米で22,000人の音楽家が映画館での職を失った。 日本では先述したようにトーキーへの移行はゆっくりとしていたが、最終的に活動弁士と呼ばれたサイレント映画の解説者は(リバイバル上映を除けば)ほぼ無用の存在になった。
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