研究者として: 研究業績
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「宮崎俊一」の記事における「研究者として: 研究業績」の解説
発生生物学の生理学的研究の第一人者であり、特に哺乳動物の卵細胞内カルシウムイオン(Ca)の増加反応が受精現象の引き金になる機構を解明した研究者である。40年に及ぶ研究を回顧したパーソナルエッセイは、思わぬ発見が後年想像外に発展し広範囲に普遍化していく実体験が記されている。 1973年、東大脳研究施設で神経や筋に起こる電気興奮性(活動電位)の胚発生における分化の研究中、活動電位がすでに卵細胞で起こることをホヤ・ヒトデ卵で偶然発見して学位を取得。留学中も卵細胞の興奮性を解析している。帰国後自治医大で哺乳動物(ハムスター)卵の体外受精時の電気現象を初めて記録。1981年に、これが卵細胞内Caの増加反応を反映する現象であることが判明し、重要な研究として注目される。その後開発されたCa画像解析法により、Ca増加が卵細胞の精子結合部位から起こり始め、数秒で細胞全体に伝播し(Ca波)、持続十数秒のCa増加反応が数時間繰り返し起こる(Caオシレーション)ことを1986年に発見。東京女子医大に転任後の1992年、Ca増加はイノシトール3リン酸レセプター(IP3R)を介して細胞内小胞体から細胞質へのCa遊離によることを明らかにした。この発見により、IP3/Caは重要な細胞内情報伝達物質であり、細胞生物学の普遍的な意味を持つ研究となる。この後、東京女子医大第二生理学教室と生理学研究所細胞内代謝部門で受精/Ca研究グループが組織され、高速共焦点レーザー顕微鏡を用いてCa動態が詳細に解析された。 受精時のIP3Rを介するCa増加反応は、1990年代に国内外で調べられた全動物種で普遍的に観察され、未受精卵から受精卵への活性化の引き金になることが確認されるに至る。哺乳類ではヒト卵を含め共通してCaオシレーションが起り、それは精子の細胞質にある卵活性化因子が卵内に送り込まれて誘発されることが明らかにされた。2000年代に入って精子因子の有力な候補はIP3を産生する酵素ホスホリパーゼCゼータ(PLCζ)であることが報告され、女子医大グループはこれを実証する分子生物学的研究を重ね、多くの論文を発表している。これらの研究および論文により、卵活性化因子は産婦人科や畜産領域での応用につながる可能性があることが注目された。順天堂大学産婦人科との共同実験では、受精できない未成熟な1個の円形精子細胞に加えて成熟精子抽出物をマウス卵内へ注入すると、Caオシレーションとともに受精がおこり、2細胞期の胚を母体に移植して正常な子を出生させた。総合して宮崎グループは、精子・卵結合から卵活性化に至る分子メカニズムをストーリーとして語れる研究を行なったと言える。女子医大生理学教室では卵細胞以外のさまざまな細胞でCa増加反応と細胞間作用(例えば精子が卵表層透明体に結合した際の精子先体反応、ナチュラルキラー細胞が標的細胞を殺す際のアポトーシス誘発)の研究がなされた。40年に及ぶ研究活動は教室刊行の「宮崎俊一教授退任記念誌」(2007年)に収録されている。
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