研究編
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/12 05:15 UTC 版)
本書(主として校異編)が成立するまでになされた本文の伝流や写本の系統についての研究成果をまとめたものである。晩年の池田は1954年(昭和29年)夏に脳出血によって倒れた後は右手が不自由になったために全ての著作は口述筆記によることになり、この研究編も1956年(昭和31年)8月初旬から10月中旬にいたる70日の間に1日も休むこと無く口述筆記によって作成されたものである。同編の章立ては、以下のように分かれている 「源氏物語古写本の伝流」「平安時代における源氏物語の伝流」、「世尊寺家の源氏物語の伝流」、「源氏釈の形態と特質」からなり、紫式部が源氏物語を書き上げてから現在行われている青表紙本・河内本という区分が成立するまでの源氏物語の本文の流れについて論じたものであり、同時代の写本が存在せず、それ以外にも間接的・断片的な資料しか存在しない平安時代における源氏物語本文の伝流についての論述に多くのページが割かれている。このことは、池田の関心が本書の完成によって青表紙本・河内本というものについての研究が一応完成し、その成果を基礎として青表紙本・河内本が成立する以前の源氏物語の本文の流れを明らかにし、紫式部の書いた「原本」に迫ることにあったからであるとされている。 「源氏物語諸本の系統」「青表紙本の形態と性格」、「奥入の成立とその価値」、「河内本とその成立」、「河内本の性格」、「別本の呼称とその性格」、「本文資料としての源氏物語古系図」、「耕雲本の成立とその特質」、「古注に現れた本文分別とその検証」からなり、青表紙本、河内本、耕雲本といった本文系統の成立とそれぞれの系統の特徴や性格・代表する写本について論じている。 「現存重要諸本の解説」校異編を作るに当たって調査した現存する計44の重要な写本についてそれぞれの写本ごとに項目を立て解説が行われている。但し、以下のような点に注意を必要とする。 藤原定家自筆本源氏物語、大島本、明融本、尾州家本源氏物語、高松宮家本源氏物語といったそれぞれの本文系統を代表する写本についてはここには挙げられず、上記の「源氏物語諸本の系統」の中のそれぞれの本文系統の説明の中で触れられている。 肖柏本源氏物語、三条西家本(日本大学蔵本)、国冬本源氏物語のように校異編で採用されていながら全く触れられていない写本が存在する。 校異編はで「池田本 伝藤原行能等各筆 桃園文庫蔵」とされている写本が研究編では「桃園文庫蔵源氏物語(青表紙本)」、校異編では「尾州家本 (北条実時奥書) 尾張侯爵家蔵」とされている写本が研究編では「正嘉二年奥書本源氏物語」とされているなど写本の名称が説明無く異なっていることがある。 天理河内本源氏物語(「桃園文庫蔵源氏物語(河内本)」として)、大沢本源氏物語、東京大学本源氏物語など、結果的に校異編に採用されなかった写本についても解説されている。 なお、この「現存重要諸本の解説」については後に大津有一が『源氏物語事典 下巻』の「諸本解題」において、校異編に採用されていたり池田が調査したにもかかわらず研究編で説明されていない写本及び絵入源氏物語、慶長中刊源氏物語、元和九年刊源氏物語といった版本を加えた計125本の写本・版本について研究編で説明されている以後の写本の所蔵者の異動などを書き加えた説明を行っている。
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