着想と制作過程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 09:43 UTC 版)
「サブリナ (コミック)」の記事における「着想と制作過程」の解説
ドルナソは2014年の後半に本作の着想を得た。創作動機の一つとなったのは、交際していた女性(後に結婚)が誘拐されて二度と会えなくなるのではないかというパラノイア的な不安である。そのころ女性との関係が深まるにつれて、依存心と同時に彼女を失うことを恐れる気持ちが強まっていったのだという。そのような経験は初めてであり、ドルナソは作品化を通じて心の中を整理しようと考えた。不安の背景には当時の世相もあった。アメリカ国内で起こったサンディフック小学校銃乱射事件(2012年)のような惨劇やパリ同時多発テロ事件(2015年)をはじめとする国際テロ事件などの殺伐としたニュースは本作に影響を与えた。イスラム国シンパは地元シカゴでも活動していた。ドルナソのいう「何かが奪い去られ、失われつつあるという子供じみた恐怖感」は、作中の事件の被害者たちだけではなく加害者や陰謀論者にも共有されている。 もう一つのヒントはカルヴィンのモデルでもある空軍兵士の幼馴染だった。その人物はコロラドのピーターソン空軍基地に勤務しており、都会の喧騒とは距離を置いて暮らしていた。ドルナソは長年にわたって、自分に何かが起きたら友人のところに身を寄せようという考えを抱いており、その夢想が恋人を失うイメージと結びついた。本作の構想中には取材のためコロラドスプリングスの友人を訪れた。基地の見学は叶わなかったが、寒々とした土地柄は作風に合っており、本作の背景としてテーマ的にも視覚的にも好適だったという。ドルナソは結末を決めないまま、恋人に失踪されたテディがコロラドでカルヴィンと車に乗るシーンから描き始めた。2015年初頭のことだった。それ以来、グロサリーストアに勤める本業の傍ら、スクリプトと同時並行で週に2—3ページずつ描いていった。 『サブリナ』は2017年の春に一応の完成を見たが、ドルナソはその出来に失望していた。自身の個人的な不安に基づく、まったくポジティブなところのない作品は読者に悪い影響しか与えないと思われた。何の罪もないサブリナが無造作に殺害される場面は特に陰惨な印象を与えた。自ら作り出したキャラクターを物語のために殺すのは「誰かの苦しみや不幸を搾取しているように」感じられた。自身もかつて熱中していたスナッフ動画のようなものを世に出すことに意味があるとは思えず、描き始めたことを後悔した。感情的な消耗も大きかった。数年がかりで自身の心理を掘り返す行為は「パンドラの箱」に近く、期待したように不安を解消するどころか精神状態を悪化させた。ドルナソは自己嫌悪や恋人との関係に関する不安、過去に受けた性暴力のトラウマに直面した。葛藤は1か月余り続き、一時は出版社に刊行取り消しを申し出たほどだった。やがて時間とともに、セラピーや周囲からのサポートを受けて精神的な安定を取り戻していった。 自作に対する見方を新たにしたドルナソは、原稿に30ページほどの加筆・修正を加えて刊行しようと決めた。殺害シーンは間接的な描写に差し替えられた。作品冒頭で生前のサブリナが浮かべていた安心しきった表情には「危険を予期した鹿のような」ニュアンスが加えられた。サブリナの妹で、初稿ではほとんど無視されていたサンドラの役割も拡大された。サンドラが友人との交流などを通じて事件を乗り越えようとするパートはストーリーの息抜きとなるものだった。2017年末に脱稿した最終形は、初稿と根本的に異なっていたわけではなく、「実際の変更点よりも、私の心の変化の問題」が大きかったという。最後に描かれたのは背表紙用の特別なガラス絵だった。本編とは全く異なる明るいカラーパレットで描かれた花々と密に茂った葉の絵は、ドルナソにとって気持ちの区切りとなった。2019年ごろの取材には、本作について「もう見たくない」「描くんじゃなかった」と答えている。
※この「着想と制作過程」の解説は、「サブリナ (コミック)」の解説の一部です。
「着想と制作過程」を含む「サブリナ (コミック)」の記事については、「サブリナ (コミック)」の概要を参照ください。
- 着想と制作過程のページへのリンク