発見と薬剤開発の歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/02 07:29 UTC 版)
「アンチセンスRNA」の記事における「発見と薬剤開発の歴史」の解説
詳細は「アンチセンス治療(英語版)」を参照 最初期のasRNAは、機能的なタンパク質の研究から発見された。その一例は、micF asRNA(英語版)である。大腸菌Escherichia coliの外膜のポリンであるOmpCの特性解析の際、ompCプロモーターのクローンの一部にOmpFなど他の外膜ポリンの発現を抑制する能力があることが観察された。この抑制機能を担う領域は、ompCプロモーターの上流の約300塩基対であることが判明した。この300塩基対の領域はompFのmRNAの5'末端の配列と70%が相同であり、そのためこの300塩基対の遺伝子座からの転写産物はompFのmRNAに対して相補的となる。後に、この転写産物(micF)はompFのasRNAであり、ompF mRNAと二本鎖を形成することで、ストレス条件下におけるompFの発現をダウンレギュレーションすることが判明した。二本鎖形成の結果、ompF mRNAの分解が誘導される。 このように偶然に発見されたmicF RNAとは異なり、asRNAの大部分はゲノムワイドな低分子調節RNAの探索やトランスクリプトーム解析によって発見されたものである。一般的に、asRNAの探索の第一段階は既知のasRNAの特徴に基づいた計算機予測によって行われる。計算機による探索では、タンパク質をコードする領域は除外される。保存されたRNA構造を持っていたり、orphan promoterやRho非依存的ターミネーターとして作用すると予測される領域は優先的に解析される。計算機による探索は遺伝子間領域(英語版)に焦点を当てているため、タンパク質をコードする遺伝子の相補鎖から転写されるasRNAはこの手法では見逃される可能性が高い。タンパク質をコードする領域から転写されるasRNAを検出するためには、オリゴヌクレオチドマイクロアレイが利用される場合がある。この手法では、タンパク質をコードする遺伝子の一方の鎖または双方の鎖をプローブとして利用することができる。計算機による探索やマイクロアレイのほか、一部のasRNAはcDNAクローンのシーケンシングやプロモーターエレメントのマッピングから発見されている。こうしたアプローチから得られる多くの知見からは多数のasRNAが推定されるが、さらなる機能的試験によって実際にasRNAであることが実証されたものはわずかである。偽陽性の最小化を目的として、鎖特異的な転写やクロマチン結合ノンコーディングRNAに焦点を当てた新たなアプローチや、一細胞での研究が近年行われている。 創薬標的としてのasRNAという概念は、1978年にZamecnik(英語版)とStephensonによって、ラウス肉腫ウイルスRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドがウイルスの複製とタンパク質合成を阻害することが発見されたことによってもたらされた。それ以降、薬剤候補としてのasRNAの開発に多くの努力がなされてきた。1998年、ホミビルセン(英語版)がasRNA医薬品として初めてFDAによって承認された。ホミビルセンは21塩基対のオリゴヌクレオチドで、エイズ患者におけるサイトメガロウイルス網膜炎(英語版)の治療を目的として開発された。ホミビルセンはウイルスから転写されたmRNAを標的とすることで機能し、それによってサイトメガロウイルスの複製を阻害する。ホミビルセンは2004年に市場の喪失によって製造中止となったが、創薬標的あるいは薬剤候補としてのasRNAの成功例であり、刺激的な役割を果たした。 治療薬としてのasRNAの他の例としてはミポメルセン(英語版)が挙げられ、2013年にFDAの承認を受けた。ミポメルセンは、常染色体優性遺伝の希少疾患である家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)の患者における、低密度リポタンパク質(LDL)値の管理を目的として開発された。この疾患の患者は総コレステロール値やLDLコレステロール値が高いため(それぞれ650–1000 mg/dL、600 mg/dL以上)、冠動脈疾患のリスクが高い。超低密度リポタンパク質(VLDL)とLDLの産生にはapoB-100(英語版)が必要であるため、ミポメルセンはapoB-100のmRNAと相補的に結合することでRNase H依存的分解の標的とすることで、最終的にはLDL値を低下させる。
※この「発見と薬剤開発の歴史」の解説は、「アンチセンスRNA」の解説の一部です。
「発見と薬剤開発の歴史」を含む「アンチセンスRNA」の記事については、「アンチセンスRNA」の概要を参照ください。
- 発見と薬剤開発の歴史のページへのリンク