瑞祥・怪異譚
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/31 22:40 UTC 版)
慕容儁の生まれる前、祖父の慕容廆は常々「我が福を積み仁を累ねてきた事で、子孫は中原を有する事になろう」と語っていたが、果たして慕容儁の時代に現実のものとなった。また、彼が生まれた時に慕容廆は「この子の骨相は常人のそれではない。我が家の事業を継ぐ者を得られたぞ」と喜んだという。 母の段氏は身籠ってから13カ月して慕容儁を生んだが、出産の際には神光が発するという不思議な現象が起こったと、『十六国春秋』には記録がある。 ある夜、慕容儁は石虎に腕を齧られる夢を見た。目が覚めると、石虎の事を大いに憎んで墓を暴くよう命じたが、なかなか見つからなかった。その為、百金の懸賞金を掛けたところ、鄴に住む李菟という女性が東苑の下に葬られていると密告した。そこで慕容儁はその場所を掘らせると、水脈を3度掘り当てた末に遂に棺を発見したが、その屍はまだ腐っていなかったという。慕容儁はその屍を踏みつけると「ただの死胡がどうして生きる天子の夢に現われたのか!」と罵倒した。そして御史中尉陽約に命じ、幾度もその残虐な罪を数え上げさせた後、鞭打ってから漳水に投げ棄てさせた。だが、屍は橋の柱に引っかかって流れなかったという。前燕が滅んだ後、前秦の宰相王猛はこの話を聞くと李菟を誅殺し、石虎の遺骸を収容して葬ったという。 352年5月、䴏(つばめ)が薊城の正陽殿の西にある椒に巣を作って三羽の雛を生み、その頭には真っ直ぐ立ち昇った毛が見られたという報告があった。また同時期、凡城からは五色の模様がある異鳥が献上された。これらを受けて慕容儁は群僚へ「これは何の祥であろうか」と訪ねると、みな「䴏とは燕鳥の事であり、首に毛冠を有しているのは、大燕が隆興する事を言っており、天に通じる章甫(殷の時代の冠)を冠する事を指すのです。正陽の西椒に巣を設けたのは、至尊(皇帝)が臨軒して万の国を征する事の徴です。三子というのは、三統(夏・殷・周の三代)に応じていることの験です。神鳥の五色とは、聖朝が五行の符命を引き継いで、天下を統べることを指すのです」と答えた。慕容儁はこれを聞いて、大いに喜んだ。 かつて、祖父の慕容廆は「赭白」という抜きんでた脚力を有している駿馬に乗っており、彼の死後は慕容皝に引き継がれた。後趙の石虎が棘城に襲来した時、慕容皝は逃亡しようと考えて赭白に跨ろうとした。だが、赭白は鳴き声を上げて蹴ったり齧んだりし、誰も近づく事が出来なかった。これを見た慕容皝は「この馬は先朝(慕容廆の時代)より普通の馬ではないといわれており、我もまたいつもこれに頼って難を振り払ってきた。今、乗せようとしないのは、先君(慕容廆)の意志であろう!」と言い、逃亡を中止した。その後、石虎が棘城攻略を諦めて軍を撤退させると、慕容皝は益々この馬に目を掛けるようになった。慕容皝の死後は慕容儁が引き継いだが、49歳になってもその俊敏さは衰えを見せなかった。慕容儁は赭白を鮑氏驄(前漢の鮑宣・鮑永・鮑昱の三代に渡って用いられた馬)に匹敵すると考え、銅を用いてその象を造らせた。そして自ら銅像の側にその馬の功績を称える鐫勒(金属に彫り刻む事)を行い、薊城の東掖門に設置しようとした。356年、象は完成したが、赭白もまた同じ年に亡くなったという。 冉閔を処刑した時、遏陘山では周囲七里で草木が枯れ果て、蝗害が大発生した。また、5月にも拘らず降雨がなく日照りが続き、それは12月まで続いた。慕容儁はこれを冉閔の祟りではないかと恐れ、使者を派遣して冉閔の祭祀を執り行い、武悼天王と諡した。すると、すぐに大雪が降ったという。 かつて、後趙の石虎は華山に人を遣って探策させ、玉版を手に入れた。そこには「歳申酉(348年から349年)に在って、絶えざる事線の如し(まだ断絶はしていないものの、ただ一本の細い線で繋がっているだけのようないつ切れてもおかしくない状況。転じて情勢が危機的である事を指す)。歳壬子(352年)に在って、真人が現れん」と刻まれていた。慕容儁が皇帝に即くと、前燕の人はみな真人というのが慕容儁の事を言っていたのだと考えた。 357年3月、常山寺の王母祠の前にある大樹が根元から倒れ、根の下より70の璧と73の珪が見つかった。いずれも光色は精奇であり、明らかに普通ではない宝玉であった。慕容儁はこれを嶽神からの命と捉え、尚書郎段勤を派遣して、太牢の儀礼で祀らせた。また、祭祀をする度に一匹の虎が祠の側を往来するようになったが、非常に大人しく人に慣れきっており、物を害する事は無かったという。 373年5月、遼西の地で黒い兎が獲れたという記録がある。 慕容儁が亡くなる直前、月が昴にあって太白を犯した。これをみた占い師は「人君が死すであろう」といい、また「趙の地には兵が有らん」とも言ったという。
※この「瑞祥・怪異譚」の解説は、「慕容儁」の解説の一部です。
「瑞祥・怪異譚」を含む「慕容儁」の記事については、「慕容儁」の概要を参照ください。
- 瑞祥・怪異譚のページへのリンク