現代の天測航法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 20:16 UTC 版)
天測航法の「位置の線」の概念は1837年、Thomas Hubbard Sumner がいくつかの近傍の緯度で経度を測定し、それを図にプロットしてみると1つの直線上に並んでいることを発見したことが始まりである。2つの天体について位置の線を求めると、その交点が観測位置だとわかり、同時に緯度と経度がわかる。19世紀後半には現代的な高度差法 (Marcq St. Hilaire) が開発された。この場合、天体の高度角と方位角を推定位置に基づいて計算し、観測された高度角と比較する。このときの差分を分で表した値が、観測対象の天体の直下点(GP)から現在位置にひいた線上の誤差となる。 衛星測位システム (GPS) の発達によって、天測航法は補助的なものとなっていったが、航空分野では1960年代まで、航海分野ではもっと最近までよく使われていた。しかし、単一の航法にのみ依存することは好ましくないため、多くの国では航海士は電子航法のバックアップとして天測航法に関する知識を有していなければならない。天測航法の大型商船での現在の使用法は、陸地の見えない外洋上での羅針盤の較正と誤差チェックである。 アメリカ空軍とアメリカ海軍は乗組員に1997年まで天測航法を習得させていた。これは、 陸上の補助なしで使える。 地球上のどこでも使える。 気象条件以外の妨害がない。 敵に傍受されるような信号を発することがない。 という理由からだった。 アメリカ海軍兵学校は、六分儀を使った航法の精度が5km程度なのに対して、衛星測位システムとコンピュータを使えば18mの精度で位置を特定できるということから、1998年春から天測航法を必修科目から外すことを発表した。現在も海軍士官候補生は六分儀の使い方を学んでいるが、測定値を使った計算は全てコンピュータに任せるようになっている。 2015年10月、ハッキング環境下でのGPS測位の信頼低下性から、アメリカ海軍兵学校の練習航海において天測航法の実習が再開されることとなった。 同様に商用航空機でもジェット機の初期までは天測航法を採用していたが、1960年代に慣性航法システムが登場し、置換されていった。 アメリカ沿岸警備隊では士官学校において帆船(USCGC イーグル)による訓練航海を実施しており、帆の張り方や六分儀を利用した天測航法など旧来の航海技術を体験する海洋実習を行っている。 英国商船隊では士官教育で天測航法を今も必修科目にしている。 1960年代中ごろ以降、電子機器とコンピュータを使って天体の位置を正確に計測できるようになった。このようなシステムは船舶やアメリカ空軍の航空機に搭載されており、非常に高い正確さで最大11個の恒星を(日中でも)観測することができ、それによってその乗り物の位置を91m以内の精度で特定できる。例えば高速偵察機SR-71には、慣性航法と恒星追跡を組み合わせたANS(astro-inertial navigation syatem)が搭載されていた。このような装置は非常に高価だが、現存するものは衛星測位システムのバックアップとして使われている。また、核戦争において一切の航法支援が受けられない状況を想定したり、あるいはそもそも依存しない設計とされた大陸間弾道弾や潜水艦発射弾道弾、戦略爆撃機においてはastro tracker、またはstar trackerと呼ばれる天測航法装置が現役である。 天測航法はヨットで外洋を航海する個人が使い続けている。乗組員が少ない船では、外洋を航海する際に天測航法が必須のスキルとされている。GPSの方が精度がよいが、天測航法を主に使う人もいるし、GPSのバックアップとして使う人もいる。
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