災害観
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/01 00:24 UTC 版)
災害を防ぐということを考えてみる。災害を起こす外力を完全に制御できれば災害がなくなるが、それは現在の科学技術では不可能であるし、経済性をとっても現実的ではない。他方、災害は確率的であり、社会が経験していないあるいは忘れているような大きな災害が、いつかはやってくる。そして、経済性などの限界により、災害を抑止する施設を無限に強化することはできない。そのため、災害に関して絶対安全というのは存在しない。 一方で、治水技術の向上により一定レベルの水害の抑止が可能となったことで、水害については「制御可能感」が生じている。また、地球上の地形はいわば災害の繰り返しによってできており、地形や地層などを手がかりにして長期的にその土地が受けやすい災害の種類を推測することは可能である。 災害は、社会、あるいは個人の生命や財産に対するリスクである。災害のリスクに対する価値観は、身近な例として住居を考えると、回避型(めったにない災害に備えて労力や出費を厭わず安全な暮らしを求める)、志向型(頻度の低い災害に備えるより、当面のメリットである費用の低さや快適性を求める)、その中間の3タイプに分類できる。リスクマネジメントの観点で見れば、志向型は、防災の手間や費用を省くことで他の面で得をするという、ある種の「賭け」に出ているとみなすことができる。そもそも、防災は、災害に直面したその時には自らの生死を分ける厳しいものであるにもかかわらず、普段の生活の中ではどこか縁遠いものと感じてしまう傾向がある。これを防ぐためには、身近な地域の災害のリスクについて具体的に理解を深めたりすることが必要とされる。 災害に直面した人の心理を説明するプロセスの1つとして、不安喚起モデルがある。人は不安が喚起された時、以下の3パターンによって不安を解消しようとする、というものである。 1.自主解決 - 自ら、情報を入手し、危害が自分に及ぶかどうか、また危害を避けるにはどうすればよいか判断する。 2.他者依存 - 信頼できる他者に判断を任せる。 3.思考停止 - 考えるのをやめる。安全と思い込む。拒否する。 災害時に避難を判断する場面において、生存のために望まれるのは1.自主解決により自分の命を守る最善の努力をしようとすることであり、2.他者依存や3.思考停止はそういった努力を妨げる方向に働く。しかし、例えば水害への制御可能感への裏返しとして行政への責任を求める傾向は2.他者依存を助長し、生命の限界を直視せず楽観視するという誰もが持つ心理特性は3.思考停止を助長するため、人間の心理特性として1.自主解決を行うのは容易ではない。そのため、防災教育を通して1.自主解決へ導き災害時の柔軟な判断を可能にすることが必要と考えられる。 また、「災害は忘れたころにやってくる」という言葉があるように、大きな災害を経験したとしても、経験を伝承する先人の言葉や教訓は次第に忘れ去られ、風化していくのが常である。近代に津波被害を受けて高台に移転しても、より便利な海辺へと次第に回帰し、再び住居が建てられるようになった地域が存在している。高台移転については、当初は津波への恐怖が「職住分離」の不便さを上回っていても、やがて時間とともに変わっていくため、これを維持するための配慮が必要となる。また、堤防によって守られていても、それに依存せず教訓を伝えていく努力が必要となる。
※この「災害観」の解説は、「災害」の解説の一部です。
「災害観」を含む「災害」の記事については、「災害」の概要を参照ください。
- 災害観のページへのリンク