漢文の統語論による分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/08 04:39 UTC 版)
「熟語 (漢字)#熟語の構造と分類」も参照 元来、漢字は古い中国語、すなわち漢文を表現するための文字であるため、漢熟語も漢文の統語論(文法)に基づいて考えればよい。漢熟語の構造は一般的に、1.主述構造、2.補足構造、3.修飾構造、4.認定構造、5.並列構造の5種類に分類される。これを三字熟語に適用すると以下のようになる。 三字熟語の構造熟語読み備考1.主述構造心停止 しんていし 「心」が主語、「停止」が述語。 短兵急 たんぺいきゅう 「短兵」が主語、「急」が述語である。原意は「短い武器を持った兵に急に攻撃される」ことであり、「唐突なさま」のことをいう。 2.補足構造省資源 しょうしげん 「省」が動詞、「資源」が目的語である。 殺風景 さっぷうけい 「殺」が動詞、「風景」が目的語である。「殺」は「そぐ」すなわち台無しにするという意味。 無尽蔵 むじんぞう 「無尽」が述語、「蔵」が主語である。「述語+主語」の構造は「存現構造」などと呼び、補足構造に分類される。 3.修飾構造醍醐味 だいごみ 「醍醐」が修飾語、「味」が被修飾語である。 度外視 どがいし 「度外」が修飾語、「視」が被修飾語である。 大団円 だいだんえん 「大」が修飾語、「団円」が被修飾語である。 4.認定構造如夜叉 にょやしゃ 「如」が比喩の助動詞、「夜叉」が比喩の対象である。「夜叉であるがごとし」の意味。 未曾有 みぞう 「未」が否定の助動詞、「有」が動詞である。「いまだかつて有らず」の意味。 5.並列構造天地人 てんちじん 「天」「地」「人」を並列している。 過不及 かふきゅう 「過」と「不及」を並列している。。類義語に「過不足」がある。 実際は、これらの分類が特に意識されることなく、ほとんど接辞のように機能する字も多い。接頭辞に関しては「亜 - 」「異 - 」「過 - 」「激 - 」「高 - 」「最 - 」「次 - 」「主 - 」「準 - 」「初 - 」「小 - 」「新 - 」「絶 - 」「前 - 」「全 - 」「総 - 」「多 - 」「大 - 」「脱 - 」「超 - 」「反 - 」「微 - 」「猛 - 」など、接尾辞に関しては「 - 化」「 - 格」「 - 感」「 - 時」「 - 的」「 - 度」「 - 性」「 - 派」「 - 味」などが挙げられる。「青年期」「変声期」などは、前2字が後1字を修飾する構造と分析することができるが、同様の構造をもつ「思春期」のように被修飾成分を伴って初めて自立した語となれるものも多く存在する。 現代の日本語において、漢文の統語論では説明のつかない三字熟語も多く存在する。例えば、「望遠鏡」「内視鏡」がある。前者は、補足構造にしたがって「望」を動詞と解釈すれば「遠くを望む鏡」で一応正しいといえるが、後者は、「視内鏡」としなければ「内部を視る鏡」という意味にならない。また「理不尽」という語も「道理を尽くさない」という意味であるならば、認定構造にしたがって「不尽理」とするところである。「雰囲気」にいたっては、漢語文法の範疇ではほとんど解釈不能であるという。 一方で漢語文法にしたがっていないにもかかわらず、現代中国語として通用する「海水浴(拼音: hǎishuǐyù)」のような語も存在する。本来ならば、「海浴水」(海で水を浴びる)あるいは「浴海水」(海水を浴びる)とするところだが、明治時代に医師の松本良順が“sea bathing”の訳として「海水浴」という造語(和製漢語)したところ、海岸で遊泳する習慣のなかった中国でも用語がそのまま準用されたものと推測される。 変わった例としては、「心電図」がある。これに関して当初、木村栄一などの医学者によって、英語の“electrocardiogram”、あるいはドイツ語の“Elektrokardiogramm”の直訳として「電心図」の語が用いられたが、その後「電信」という語と紛らわしいという理由で、「心電図」に置き換えられたという。なお、この語も、中国語「心電図(拼音: xīndiàntú)」として通用する。
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