民俗学的分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 22:47 UTC 版)
日本の民間療法を民俗学の観点から見た場合、古代には巫医・僧医など医学知識を有した宗教者が医療行為を行っており(弓削道鏡が孝謙上皇の治療を行ってその寵愛を受けた故事は彼が僧医としての性格を有していたことを示す)、民俗学の観点からは、次の4種類の要素に分類可能である(ただし、実際には複数の要素にまたがるものも多い)。また、中には梅干を毎食食べると健康が増進するとか、臍に貼ると船酔い・車酔いに効くといったように予防保健思想を含むものもある。 今日でも「無病息災」を神社仏閣に祈るという形で信仰と医療との結びつきの残滓が残されている。 物理的療法 摩擦・圧迫・刺激・加熱・加湿・冷却など、物理的な力や温熱冷熱によるもので、薬物的療法(風邪や喉の痛みに生姜をおろしたものを服用したり布に伸ばして当てる)や信仰的療法・呪術的療法(神社・仏閣の湧水で目などの患部を洗ったり、灸治に適切な日が存在すること)など組み合わせて行われる場合もある。 発熱を感じたら患部を冷やす、傷口から血が出ているのに気づいたら傷口を押さえたり舌でなめる、体内に違和感を持ったらその付近を擦ったり揉んだりするなどの行為も物理的療法の初期的な段階と言える。また、鍼灸をはじめ、温泉・サウナを含めた風呂などへの入浴行為やしゃっくりの時に息をせずに冷水を一気に飲むという慣習もその一種であると言える。瀉血もこの範疇に入ると思われるも、実際、有効な場合も、根拠がない場合もある。詳細は「瀉血」を参照 薬物的療法 いわゆる草根木皮の類を用いていわゆる「民間薬」を服用することで、現代において未だに科学的な薬効の成分・原理が明らかにされていない場合でも、現実に効力の存在を認めざるを得ない事例もある。なお、古い時代の民間薬に下剤が多いのは、刺絡などと同じように体内の邪悪なものを病気ごと対外に排出しようとする古い医学観の表れと考えられている。 胃痛に熊の胆やセンブリを煎汁(煎じたもの)を用いたり、下痢や消化不良にゲンノショウコの煎汁を用いたり、漆かぶれにサワガニを潰した汁をつける、蜂刺されに小便や里芋の葉の汁を塗る等というものである。また、夏バテに鰻を食べたり、スッポンの血を飲むという慣習もその一種であると言える。 信仰的療法 神社・仏閣に赴いて祈願したり、加持祈祷や百度参りを行うもので、特定の病気などに対する霊験が伝えられる神社・仏閣および関連する事物の存在(地蔵尊)などが知られ、巣鴨のとげぬき地蔵のように観光名所となっている場所もある。また、古くは銭湯や温泉に神仏が祀られている例もあった。 呪術的療法 接触あるいは類似物を用いることで傷病を治癒させようというものである。脳病に猿の脳の黒焼きを飲む、肺結核に石油を飲む、イボをとるのに石の穴に溜った水をつけると石のくぼみとイボが相殺されて治癒する、ものもらいに藁の芯を目の前で結んで燃やす、喉に刺した魚の骨を除くのに魚網を頭から被る、紙の人形(ひとがた)で身をなでて穢れを移して川に流すと病などの災厄から避けられるなどが知られる。これらには科学的根拠がないものが多いが、前述のようにシャーマンや祈祷師が巫医としての活動は長い歴史を有している。また、律令制の典薬寮においても医学的な治療を行う部門と並んで道教医療の一環である呪禁を専門に扱う部署が存在していた。なお、今日においても風邪を他人にうつせば治癒するという慣習も風邪という形で露出した穢れを他者に移すという呪術的な意味を含んでいると考えられている。
※この「民俗学的分類」の解説は、「民間療法」の解説の一部です。
「民俗学的分類」を含む「民間療法」の記事については、「民間療法」の概要を参照ください。
- 民俗学的分類のページへのリンク