欺瞞の種類と方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/27 14:10 UTC 版)
欺瞞には距離欺瞞、方位欺瞞、速度欺瞞がある。これらは多くの場合、同時に組み合わせて使用され、敵レーダーの本来の目標である自機や友軍の機体、船体、車体の位置を隠蔽してミサイルや砲弾による被弾のリスクを最小にする。欺瞞対象のレーダー波は周波数をホッピングすることで探知や欺瞞を逃れようとするので、欺瞞側もその周波数を追随しながら欺瞞信号を放射する必要がある。 以下にレーダー波の基本的な欺瞞方法について示すが、21世紀に使用される実際の兵器では、すでにこれらを越える新たな電子技術が使用されている。 距離欺瞞 距離を欺瞞するためには、自機がレーダー照射を受けてすでに位置や距離が敵レーダーによって正しく把握されているとの想定下で、敵レーダー波の到達時とほぼ同時に欺瞞信号を少し強く放射する。 本来の反射波よりも強い欺瞞信号(デコイ信号)が、追尾している敵レーダーのゲート内に収まれば、レーダー受信回路内のAGC回路は正しい目標からの反射波より欺瞞信号に同調する。 敵レーダーが欺瞞信号に同調している状態で、敵レーダー波の到達時に対する欺瞞信号の放射のタイミングを少しずつずらすと、AGC回路は欺瞞信号に同調したままずれて行き、レーダーシステムは誤った距離情報を出力する。このため、ミサイルや砲は目標とは異なる距離へ指向される。 方位欺瞞 方位欺瞞は、敵レーダーが用いている探知方法に応じた、適切な方法がとられる。目標の方位(角度)を探知するには、大きく2通りの方法がある。 1つは、1本のビーム状の探知電波を放射して戻ってきた反射波が最大となる方向を目標の角度とするものであり、「コニカルスキャン方式」「シーケンシャルロービング方式」「TWS方式」(Track While Scan, 捜索中追尾方式)がある。これらすべては、1つの方位欺瞞方式によって対処される。距離欺瞞と同様に、本来の反射波よりも強い欺瞞信号(デコイ信号)を放射することで欺瞞信号を目標の位置として認識させ、時間をずらすことで空間を走査しているレーダーシステムに誤った角度情報を生じさせるものである。サイドローブの探知を利用すれば、確実に時間をずらすことができる。 欺瞞対象となるレーダー技術を以下に示す。コニカルスキャン方式 電波ビームを回転させ、目標からの反射強度が一定になるように制御することで回転軸中央に目標を捕らえるもの。アンテナ焦点が物理的に回転するものが多い。受信電波を処理する回路が1系統で済むがノイズに弱く、時間軸に対する依存が大きく簡単に欺瞞されるため、小型で高性能な半導体電子部品が安価になってからはいくぶん古典的な方式となった。それでも簡素な誘導装置で済むミサイルでは、使用されている。 ビームスイッチ方式 電波ビームを回転させる代わりに左右に振る以外は、コニカルスキャン方式と同様である。対水上レーダーで用いられていた。 シーケンシャルロービング方式 方向が中心から少しずつずれたアンテナ4本を時間的に切り替えて使用し、目標エコーの強度が同一となるようにアンテナ群全体を物理的に動かすことで目標の角度を正確に測定するものである。時間的に切り替えると言っても1秒間に数十回おこなわれるので、ディスプレイには同時に両方の信号が表示されているように見える。ディスプレイ上で同じ強度となるように、レーダーのアンテナは手動で操作される。すぐにコニカルスキャンに取って代わられたが、同様の方法によって欺瞞することができる。 TWS (Track While Scan) 方式 TWS方式は、レーダ波を目標に照射し続けず、目標を含む一定の領域を走査する過程で得られた目標からの反射波の情報によって角度を算定するものである。 別の1つは「モノパルス測角方式」と呼ばれる方式である。モノパルス測角方式 モノパルス測角方式では、少しずつ一定角度で縦横にずれた4本のビーム状の探知電波を目標に向けて放射して戻ってきた反射を同じ4本で受信し、これらの差が常に最小となるようにビームの方向を調整し続けてゲートを目標方向に合わせる。縦横方向の2組がいずれも同じ強度の反射波を捕らえれば、ビームの中央に目標が位置するので、角度が正確に求められる。精度はビーム径にもよるが、ビームの中央に目標が無くてもゲート内に捕らえられていれば信号強度の差から位置は判明するため、必ず連続的に照射する必要も無く、本方式は本質的に角度情報を一瞬で獲得し、時間の差異が位置の差異とはならない。送信ビームを4本とする代わりに、受信アンテナの指向性をずらすレーダーもある。パラボラの焦点からずらした位置に、4本の受信アンテナを設置するのである。 この方式への欺瞞は、「クロスアイ妨害」という離れた2点から互いに逆位相の電波を放射して空間に電波の強弱を作ることで、角度を欺瞞するものである。 速度欺瞞 速度欺瞞は、目標から反射されてくる電波の周波数偏移を計測することで、レーダー波の遠近方向での移動速度を探知するパルス・ドップラー・レーダーを欺瞞するものである。距離欺瞞と同様に、本来の反射波よりも強い欺瞞信号(デコイ信号)を、追尾している敵レーダーのゲート内に収める必要があるが、さらに目標が反射している実際の周波数偏移を初めは真似る必要がある。 真の目標からの反射波を真似た強い電力の欺瞞信号により、レーダー受信回路内のAGC回路は正しい目標からの反射波ではなく、欺瞞信号に同調する。 欺瞞信号の周波数を、ドップラーシフトを真似て少しずつずらす。AGC回路は欺瞞信号に同調し続け、レーダーシステムは誤った速度情報を出力する。 レーダーアンテナに対して等距離方向、つまりレーダーに近づかず遠ざからず横方向に移動する目標の速度は、パルス・ドップラー・レーダーと速度欺瞞の対象ではなく方位角の変化を積算することで求められ、方位欺瞞の対象である。
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