機械式暗号装置の発明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/13 21:18 UTC 版)
暗号機に関する歴史は、暗号機#歴史を参照。 ドイツの発明家シェルビウスが発明し、1925年にドイツ軍が採用した暗号機エニグマは長い間ドイツ軍の通信の秘密を支えてきた。エニグマの暗号方式は換字式暗号のひとつだが、3枚のローターと数本のプラグの位置を交換することができるため鍵の個数は膨大な数になり、一文字打つたびにローターが回転し回路が変更されるので、単純な換字式暗号とは違い、同じ文字がその位置によって別の文字へ変換されるなど複雑なものである。操作も簡単で特別に訓練を積んだ専門家でなくても扱うことができた。エニグマの暗号機そのものはやがて連合国側も手に入れ解析を進めたが、コードブックの奪取以外の方法ではなかなか解読することは出来なかった。 解読は不可能かと思われたエニグマであったがイギリスの暗号解読者アラン・チューリングらによって理論的な解読がなされることとなる。チューリングが開発した理論でも膨大な計算が必要であり、最初は手作業による人海戦術で計算を進めていたが、やがて開発された暗号解読器、通称"The Bombe"によって大きく手間が軽減されることとなる。このBombeは計算を行える機械としてその後のコンピュータの発明にも影響する。暗号解読法は軍事機密であるため、大戦終了とともにBombeは廃棄されてしまい現在は残っていない。このように軍事機密として闇に葬られてしまった暗号の歴史も少なくないと考えられる。 またこの頃には戦況の変化のスピードが高まり、暗号通信にも速度が求められることとなった。単純に複雑なだけでは暗号化や復号に時間がかかり、実用性が乏しくなってしまうが、暗号機の登場は暗号化の速度向上にも貢献している。だが、それらの裏を掻くかの如く、アメリカ軍はアメリカ先住民ナバホ族の言葉であるナバホ語を、第二次大戦中に電話通信の暗号として利用した(コードトーカー)。ナバホ族出身の兵士同士が会話をするだけなので通信はとても早く正確で、ナバホ族の言葉は大変複雑な上に類似する言語が存在せず、日本軍は解読どころか暗号文を書き留めることすらできなかったという。これらのエピソードは映画「ウインドトーカーズ」でも描かれている。 だが、その日本も外務省と在ドイツ日本大使館の間で、重大な軍事機密事項の情報連絡を早口の薩摩弁で行うという同種のアイデアを実行している。これについては通常の国際電話で会話したため、アメリカ軍は当然の如く傍受したが、解読に困難を極め、最初はほとんどまともに解読ができなかったという。また、日本の外務省電文や海軍はエニグマを過信し、コードブックの変更や秘匿の維持を怠ったため、連合国に早期に破られてしまったのに対し、陸軍は換字式暗号を併用した複合暗号を使用し、しかも表意文字(漢字)と表音文字(仮名)を織り交ぜたものだったため、解読が大幅に困難になった。基本的な解読法が判明したのは戦争の趨勢も決まった1944年末で、完全な解読は終戦まで出来なかった。
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