構成と反応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/09/02 10:06 UTC 版)
「セイレーンたちとユリシーズ」の記事における「構成と反応」の解説
『セイレーンたちとユリシーズ』は、死んだ船員の腐敗した死体に囲まれた、島で歌う3人のセイレーンを描いている。背景には船のマストに縛り付けられたユリシーズが見え、暗い雲が空に浮かんでいる。 ユリシーズは彼の仲間の船員よりも大きく見え、セイレーンは伝統的な劇的なポーズで腕を振っている。3人のセイレーンは外見が非常に似ており、エッティの伝記作家、レオナルド・ロビンソンは、エッティが同じモデルを3つの異なる姿勢で描いた可能性が高いと考えている。ロビンソンは、古典的なポーズは、エッティが生涯にわたってアカデミーで教育を受けた結果であると考えている 。ヨーク・アート・ギャラリー(英語版)の元学芸員、リチャード・グリーンは、彼女らのポーズは、彼が1823年に模写を描いているルーベンスの「マリー・ド・メディシスの生涯」のネーレーイスに影響を受けていると考えた。 セイレーンの身体的な外観はオデュッセイアには記載されておらず、その伝統的なギリシャでの表現は鳥とライオンや鳥と人間の合成獣だった。エッティは、自分が描いたセイレーンが完全に人間のような外見であるのは、海から島に上がっているから人間になったと説明し、合理化した。このアプローチは、以後の多くの画家にも見られた。 エッティは、セイレーンの島の腐敗した死体を描くために、遺体安置所に足を運んだ。彼が実物の死体を創作のために利用したことは公然と知られており、一部の批評家から苦情が寄せられた。彼は1836年にブライトンを訪れ、絵画を描くために海の取材をしていたが、エッティは風景画や海を描いた経験はほとんどなく、彼の海や雲の筆致は他の作品と比べて初歩的なものに留まっている。 この絵は、442.5×297 センチメートル (174.2 in × 117 in)という大きさで、その時のエッティでは最大の作品だった。この作品は1837年に完成し、その年の後半にトラファルガー広場にあるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの新しい建物(現ナショナル・ギャラリー)で展示された。この作品や、それを描く際のエッティの手法について、意見が分かれた。『ジェントルマンズ・マガジン(英語版)は、「エッティが描いた絵画は、非常に上質な絵画である...それは一流の歴史的作品であり、あらゆる種類の美しさに富んでいる」と評した。一方、スペクテイター[要曖昧さ回避]は、「官能性と忌まわしさのおぞましい組み合わせであり、色が鮮やかで、出来栄えは素晴らしいが、考えられる限り最悪の趣味である」と述べている。 おそらくその大きさのために、『セイレーンたちとユリシーズ』は1837年のサマー・エキシビション(英語版)では売れなかった。1837年10月、裕福なマンチェスターの綿商人ダニエル・グラントは、『ヴィーナスと鳩』の時から既にエッティの崇拝者だった。彼とエッティはヒートン・パーク(英語版)で会い、『セイレーンたちとユリシーズ』と『デリラに裏切られたサムソン』を合計200ポンドで購入することを提案した。エッティは2枚の絵の対価として400ポンドを希望していたが、グラントが経営する会社がその年に100,000ポンドを損失していたため、2枚で300ポンドで申し出た。グラントはそれに対し、250ポンド(今日における約20,000ポンド)を希望したが、エッティはこれを拒否した。夜になるとグラントが突然、「私からお金を取るのか?」と述べたので、エッティは驚いて、その価格に合意した。グラントは間もなく死亡し、残された絵は彼の兄弟ウィリアムが1839年にロイヤル・マンチェスター・インスティチューション(英語版)に寄贈した。 エッティはこの絵を自身の最高の作品と考え、1849年にロイヤル・ソサエティ・オブ・アーツで開かれる個展の中心的存在であると主張した。ロイヤル・マンチェスター・インスティチューションは、絵を動かすと破損する恐れがあることを懸念し、エッティと彼に影響力のある友人がマンチェスターを訪問して頼むまで、展覧会での使用を拒否した。エッティはその年の後半に死亡し、彼の作品には束の間のブームが起こった。彼への関心は時間の経過と共に低下し、19世紀の終わりには全ての絵画の相場は元の価格を下回っていた。それは稀に展示されたが、『セイレーンたちとユリシーズ』は、フレデリック・レイトンの1858年の『漁夫とセイレーン』に影響を与えたものの、後の芸術家にはほとんど影響を与えなかった。 「『セイレーンたちとユリシーズ』は、私の人生における芸術活動の中で達成した偉大な作品の一つである。私は決して再び描くことはできない」とエッティは語っている。
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