検査被曝の低減化に向けた取り組み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 05:59 UTC 版)
「山下俊一」の記事における「検査被曝の低減化に向けた取り組み」の解説
被曝線量の低減や事故時におけるガイドラインなどの作成を行っているWHOに、放射線プログラム専門科学官として参加してから、医療被曝の問題等に対する取り組みを行っている。日本は他の国と比べて医療被曝の割合が著しく高いことが知られており、エックス線検査による発癌の累積寄与リスクは3.2%と推定され、これは年7587件の発癌数に相当する。 特に、日本ではX線CT検査による被曝が多く、山下らの研究チームはCT検査被曝の低減化に向けたガイドラインの必要性を指摘し、CTの使い過ぎの原因として、経済的利益以外に、臨床管理や意思決定におけるガイドラインの欠如や患者の期待、医者の臨床的観察よりも先端技術への過信などを挙げている。 日本では年間、人口1000人あたり290件のCT検査が行われ、頭部における平均の年間実効線量は2.3mSvと推定されている。全CT検査の約3%(114万件)が14歳以下の子供に行われており、15歳以上の年齢グループに比べて、男の子の検査の割合が多く、頭部CT検査の頻度は非常に高い傾向にあるが、総集団線量では腹部器官が最も高くなっている。日本では、子供の頭部CT検査の多くが軽度の頭部外傷によって行われている。 アメリカでは、Image Gently(やさしく画像撮影)キャンペーンによって、体の大きさや厚さなどの体格に応じて撮影条件を調整することで子供等への被曝をできるだけ低い線量に抑えるよう、小児科などへの働きかけが行われ、2011年2月には、アメリカ国立衛生研究所などの後援によって、被ばく量低減を推進するための会議「CT被ばく線量管理サミット—1mSv以下の検査をめざして」(Management of Radiation Dose in Computerized. Tomography: Toward the Sub-mSv Exam) が開かれている。 PETを用いた癌検診については、山下らによれば、欧米においてPETは確定診断などの癌診療が主な用途だが、日本では無症状の健康人に対する癌検診の適用が20%も占めていると指摘し、その背景に旅行代理店とのタイアップによるPET検診ツアーのブーム、「被曝線量は2.2mSvと年間に受ける自然被曝線量よりも低く安全」などという偏向情報のマスメディアの過剰な宣伝などもあって、急速に普及しているとされる。PETによる一般健康人のマススクリーンとしての癌検診は欧米では行われておらず、その妥当性と被曝に対する評価報告は余り行われていないという。 山下らの研究チームによれば、50-59歳の無症状の日本人(癌の平均罹患率、0.3%)の任意の癌検診のためのPET/CTの使用で、陽性適中率 (Positive predictive value) はわずか3.3%と見積られ、日本におけるPET/CTによる癌検診は、偽陽性として多くの健康な被験者が実際の便益を得ることなしに、少なくとも6.34mSvの被曝を受けており、これはスクリーニング目的の許容範囲ではないと結論付けられ、癌検診のためのPET/CTの使用は関連するガイドラインによって、細部にわたって規制されるべきとし、健康な人に対してPET/CTを適用することの正当化に関して、さらなる評価が必要としている。 2008年9月14-15日に長崎で行われた第22回日本臨床内科医学会の特別講演で、山下は「人口あたりどのくらいの放射線発がんリスクがあるかというと、だいたい100人ががんで死ぬと、そのうちの1人は、欧米あるいは普通の国ではひょっとすると診療被ばくのせいかもしれません。しかし、日本は線量が多いということから約3倍高いという報告がなされました。3%と1%だから、あまり差がないではないかと思いがちですが、たとえば、がんで年間30万人死亡するとして、3%というと9,000人という非常に大きな数になります。交通事故より多いのです。このようなリスクに対する認識が日本ではほとんど議論されてきませんでした。その結果、日本はCTを含めて医療被ばく天国となっています。アメリカでも実は同様のCT被ばく過剰な状況にあります」、「主として20歳未満の人たちで、過剰な放射線を被ばくすると、10-100mSvの間で発がんが起こりうるというリスクを否定できません。CT1回で10mSvと覚えると、年間被ばく線量を超えるということがわかります。子どもが急性虫垂炎の手術だからと簡単にCTを撮る、頭部のトラウマで何回も撮るということが行われています」 と語っている。
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