既存火力発電所の統合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 03:42 UTC 版)
しかしながら、中部電力側は、日本国内の既存の火力発電所をJERAに統合する決断に踏み切ってはいなかった。既存の火力発電所の統合については、2015年(平成27年)2月の発表文では、「検討を継続してまいります」という表現になっていたが、これは棚上げに等しいという見方があった。 そもそも、中部電力は、火力中心の電源構成を持つ電力会社であった。1970年代の石油危機後、日本の電力会社はこぞって原子力発電に傾注したが、中部電力の場合、浜岡原子力発電所(1976年(昭和51年)運転開始)に続く原子力発電所の計画(芦浜原子力発電所、珠洲原子力発電所)が難航したため、引き続き火力発電に頼らざるを得なかった。そこで、発電所の運用や燃料調達における取組により火力発電のコストを抑制し、「火力は競争力の源泉」 と言えるまでになった。中部電力は、「競争力の源泉」である火力発電所を東電との合弁会社に移管することが自社の利益になるのかを慎重に検討していた。 東電の廣瀬直己社長(当時)は、当初、東電・中部電が合弁会社からほぼ原価で電気を買い取る(合弁会社に利益を残さない)ようにすることを提案し、中部電力の水野明久社長(当時)は、これに相当な不信感を抱いた。また、経済産業省に設置された「東京電力改革・1F問題委員会」の委員からはJERAに対して、「福島に関わる費用をできるだけ捻出していただきたい」という意見が出た。経済産業省と東電が賠償・廃炉資金を生み出すためにJERAを利用するつもりなのであれば、中部電力は、自社の火力発電所をJERAに移管する意味を見い出せないのであった。 一方、経済産業省と東電は、火力発電分野以外に、原子力や送配電の分野でも他社とのアライアンスを目指しており、次なるアライアンスを進めるためには、JERAで「成功モデル」を示す必要があった。そのためには、中部電力側の懸念を払拭し、中部電力に既存の火力発電所の統合を決断させることが是非とも必要であった。 そこで、2017年(平成29年)5月に主務大臣(経済産業大臣ほか)の認定を受けた東京電力ホールディングスの『新々・総合特別事業計画』には、JERAが「独立した企業文化」「強く健全な経営・財務体質」を持ち、「自律的な事業運営」を行えるようにする措置を講ずることを書き込んだ。そして、東電側は、中部電力に対して「JERAの事業活動を制約しない措置」を約束した。その内容は、①JERAに「配当ルール」を設け、賠償・廃炉資金が必要な東電がJERAの成長に必要な資金を配当金として吸い上げることを制限する、②東電の財務状況が悪化した場合、中部電力がJERAの株式を追加取得し、経営権を握ることができる、というものであった。 これを受けて、中部電力はついに、既存の火力発電所をJERAに統合することを決断した。中部電力の社内には「経産省と東電に食い物にされる」と忠告する役員の声や、「中部電力に入社したのは中部地方で安定した生活を送りたいからであって、世界で仕事をしたいからではない」という従業員の声もあったが、これらを押し切っての、後戻りのできない決断であった。 2017年(平成29年)6月、東電グループの火力発電会社「東京電力フュエル&パワー」(東電FP)と中部電力との間で、既存火力発電事業の統合に係る合弁契約が締結され、翌年6月の両社の株主総会で合弁契約が承認された。 したがって、2019年(平成31年)4月、統合の最終段階として、東電FPと中部電力の火力発電所・LNG基地を全て、JERAに移管した。また、中部電力は、JERAに3,350億円を追加で拠出することにより、東電FPと中部電力とのJERAに対する出資比率を50:50に維持した。JERAの会長には、東電FPの佐野敏弘会長が、JERAの社長には、中部電力の小野田聡副社長が就いた。
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