捏造ハディースが存在する議論および論拠
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「ハディース批判」の記事における「捏造ハディースが存在する議論および論拠」の解説
「サヒーフ」とされるハディースであれ捏造は免れず、その使用に制限を設けるよう提案した学者は、初期のイスラム学者イブラーヒーム・ナッザーム (西暦775-845)、イブン・サアド (西暦784-845)、ナワウィー(西暦1233-1277)、イブン・ハジャル (西暦1372-1449)、そして後世の改革者サイイド・アフマド・ハーン(西暦1817-1898)、ムハンマド・イクバール (西暦1877-1938)などがいます。また、西欧の学者であるゴルトツィーエル・イグナーツ、ジョセフ・シャハト、G.H.A. Juynboll、現在ではIsrar Ahmed Khanなどである。 伝統的なハディース検証学の瑕疵 多くのハディース否定論者たちにとり、ハディースの露呈する自然科学やハディース同士の矛盾は、伝統派ハディース学者ら(muhaddithin)が虚偽のハディースを全く見抜けなかったことの証明であり、彼らの方法論には何らか決定的な問題があるのではないかと考えた。その理由として、伝統派ハディース学者ら(muhaddithin)はハディース本文(matn)を軽視し、ハディースの伝承経路(イスナード)の検証を一辺倒に重視していたことが挙げられる。また、伝統派学者らが注目していた、伝承者の性格・能力といった人物像の検証を試みる伝統的ハディース検証学を、否定論者たちが受け入れたわけではない。伝承者の人物評(ʿilm al-rijāl)は、「生きている者の人格を判断するのも十分難しいのに、それが遠い過去の人物の検証」となると、どうして正確な科学であり得るだろうか。伝承者に関する情報は乏しく、さらにしばしば矛盾しており、偽善者は非常に狡猾である可能性もあるため、「すべての関連情報が収集されているという保証はない」のである。さらに、もしハディースが改竄されたのであれば、伝達者に関する歴史的な報告も同時に改竄されているはずである。 さらに、仮にハディース本文(matn)が捏造できたのであれば、伝承者経路(イスナード)も捏造できたはずである。これは、従来の伝統派ハディース学者が「完全に無視してきた」問題であり、古典的ハディース批判の時代において(ダニエル・W・ブラウン曰く)「おそらく最も深刻な課題」であった。ハディース捏造者が「自らの捏造を隠すために」伝承経路(イスナード)を捏造していたことが判明しているのに、ハディースを「伝承経路に基づいて信頼できる」と判断し得るだろうか?結局のところ、そこには最も尊ばれる権威に「自らの発言を帰属させる」ための、強い動機があったのである。 捏造の動機と理由 バーナード・ルイスによれば、「イスラム教初期の数世紀においては、ある大義名分や見解、党派を宣伝するにあたり、預言者の行為や発言の引用よりも優れた方法はなかった」という。このことが、ハディースを捏造する強い動機となった。 サイイド・アフマド・ハーンとシブリー・ヌマーニーを引用したダニエル・W・ブラウンによれば、ブハーリーやムスリムによる「サヒーフ(真正)」ハディースでさえも腐敗してしまった主な原因は以下の通りである。 政治的対立 党派主義的な偏り 逐語的 (bi'l-lafẓ)でなく、その意味・意図(bi al-maʿnā)を汲み取った内容の解釈 その他の批判 捏造の動機が何であれ、ハディースには議論の余地なき矛盾があることに加え、いくつかのサヒーフ・ハディースも誤りが見受けられ、イスラム法における法源として高い地位を与えられるべきでない理由がある。 ḥadīth qudsīを除き、スンナ/ハディースはクルアーンのように逐語的(bi al-lafẓ)に啓示され、記録されることがなかった。それはしばしば、伝承内容の意味や要点を汲み取って(bi al-maʿnā)伝えられた。 クルアーンとは異なり、スンナ/ハディースが「文書として記録」されたのは、ムハンマドの死後1世紀以上経ってからである。もしスンナ/ハディースが神によって啓示された永遠の真理であるならば、なぜ初期のムスリムたちはそれをクルアーンのように書き記すよう命じられなかったのか、という疑問が出てくる。もしムハンマドがハディースを書くことを禁止していたのであれば、それは後世のムスリムに対し、スンナが「拘束力を持つよう意図されていなかった」ことを示唆するのである。 イスラム法はムスリムの名誉、財産、生命に関する法であるため、その出典は「知識の確実性」を保証する最高水準のものでなければならない。イスラム法の主要な情報源である「サヒーフ」なハディースは、「ハサン(良好)」格のハディースや「ダイーフ(脆弱)」格のハディースよりも上位に位置する「真正」として定義されているものの、それらは「ムタワーティル」格(虚偽における同意が不可能なまでの多数の伝承者からの報告)のハディースような「知識の確実性」を提供するものではない。(そして残念なことに、ムタワーティル・ハディースは極めて希少であり、イスラム法の発展における活用ができない。) 他にも、ハディースという形のスンナが、神の啓示としてクルアーンの基準に及ばないという議論がある。
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