学校法人による財政効果試算
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/27 15:33 UTC 版)
「大阪都構想」の記事における「学校法人による財政効果試算」の解説
大阪府市は大阪都構想の財政効果試算の事業者を公募し、応募のあった2事業者のうち関西で実績が高いことなどを理由に東京都の学校法人「嘉悦学園」が選ばれた。委託を受けた同学園は2018年7月に「行政の効率化で10年間に最大1兆1千億円強の歳出を削減できる」などとする報告書を公表。維新側はこれを「十分な効果があると学術的に証明された」と評価したが、自民・公明は府に移管されるだけの事務が歳出削減分に含まれていることを問題視し、試算のやり直しや第三者による検証を求めた。また、公明党は年1100億円の削減効果額を具体的にどう捻出するのかとも質問したが、学園側は「内訳を具体的に申し上げるのは難しい。特別区では役割が明確になり、より地域住民の小さな声を拾った積み重ねが効果の実現につながる」などと回答し、かみ合わない議論となった。 この試算は、自治体の住民1人あたりの歳出額はある一定の規模を超えると支出が増えて「U字形」になるという学説を根拠として算出されたものであり、どの項目の歳出を減らすことができるかについては言及していない。この学説を巡っては「解釈が誤っている」との指摘が一部識者から出ている。京都大学大学院の川端祐一郎助教(公共政策論)や、一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は、市を分割してもすでに存在する道路やゴミ処理施設などの都市関連施設は残るため、歳出減にはつながらないとし、「既存の研究では嘉悦学園のような説明は全く出てこない」「既存の研究は主に自治体が合併する際のメリットを検証するための議論で、自治体を分割するケースに単純に当てはめるのは適切ではない」と指摘した。また、立命館大学の村上弘教授(地方自治論)は「U字」自体を疑問視し、都市化や自治体の権限の違いの影響を除いた場合、「グラフは『L字』カーブになる可能性が高い」と述べ、人口が一定以上になるとそれ以上増えても歳出には影響しないとの考えを示した。これらの指摘に対し、試算した嘉悦大学の真鍋雅史教授は「(U字について)学術的に確固たる解釈があるわけではないが、今回の説明は既存の研究でも言われている」と話した。 この報告書については、2019年12月以降、「記載通りの数式や係数を用いて計算すると、歳出は逆に1兆円以上増加する」とした誤りを指摘する手紙が外部から届いたため、市は学園側に検証を求め、2020年2月には試算に用いた数式や参考論文名に誤記載などがあったとして、計40ヶ所を訂正したと発表した。一方で「10年間で最大約1.1兆円」の歳出削減効果があるとした試算結果については「誤りはない」としていた。2020年6月には94ヶ所の誤記載が確認されたとして2度目となる報告書の訂正が発表された。本来割るべき数値を掛けるなど、データの計算などに複数の誤りが判明したとして、効果額は5128億~1兆1366億円に訂正され、最大で387億円縮減した。また、説明に使われた用語の誤記載など初歩的なミスも新たに多数見つかったが、府・市副首都推進局の担当者は効果額の試算について「大きな方向性に変わりはない」と説明した。これを受け、松井一郎大阪市長は「学者のみなさんに対して、ちょっと残念な思いはありますが、経済効果が否定されたものではない」と述べ、「都構想に反対の学者が検証しているはず」などとして府や市として報告書の再検証はしない考えを示した。 また、主要な経済シンクタンクでは試算の前提となる経済施策が不明瞭なことや、構想の政治的な色彩が強過ぎることから、試算を発表しなかった。専門家の一人は「試算をすれば、どうしても賛成、反対というスタンスがにじんでしまう。1.1兆円の歳出削減効果を試算した数値に“立てつく”ことにもなりかねず、見送った」と説明した。
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