試算について
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「日本のTPP交渉及び諸議論」の記事における「試算について」の解説
内閣府試算を担当した川崎研一内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官 は「筆者の試算では、TPPに参加すれば日本のGDPは0.8%(4兆円)程度増加する。これは、10年ぐらい後の時点で振り返ったとき、自由化した場合としなかった場合の差と捉えるべきである。貿易自由化により経済が、毎年1%程度も押し上げられる訳ではなく、過大評価すべきではない」と指摘している。 中野剛志京都大学准教授は内閣官房の資料「包括的経済連携に関する検討状況」では、TPPに関する経済効果の試算がなされているが、試算は様々な前提を置いた上で弾き出された参考値であり、現実を必ずしも反映しておらず、試算結果を政策の意思決定に用いようとする場合は、しばしば一定の結論を誘導しようとする意図が働くので、試算結果にバイアスがかかるのが一般的であるとしている。さらに、試算がデフレーションや通貨という重大な要素を考慮していないのではないか、という点を指摘している。 原田泰早稲田大学教授は「TPPは、その批判者も認めているように広範なものであり、関税撤廃だけに焦点を充てるでは十分でない。試算の便宜から言えば、関税以外の効果を計算することは難しい」「内閣官房『EPAに関する各種試算』(2010年10月27日)は、内閣府、農林水産省、経済産業省のそれぞれが試算したものを並行的に紹介しているだけである。これらは異なった前提により計算され、当然に異なった結果となっている」「府省による効果の大きさが大きく異なっているが、この違いは試算の前提が異なることと効果の計算方法の違いから生まれている」と指摘している。また原田は内閣官房「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」(2013年3月15日)について「これまでバラバラに示されていた数字が、政府統一見解として統一的な考え方に基づいた数字が示されたことには大きな意味がある」と指摘している。 高橋洋一嘉悦大学教授は「TPPに関して農水省、経産省、内閣府がそれぞれ出した効果試算がどうしてまちまちの数字なのか。まず、農水省はTPPで打撃を受ける農業を所管する役所であり、TPP参加は農業の被害というマイナスを主張するのが農水省の役目だ。マイナス効果となれば、いずれ補助金が必要になるはずという計算も働き、補助金を多く獲得するためにも、マイナス効果をできるだけ大きく主張する。次に経産省はTPPで恩恵を受ける産業界の利益代弁者であり、TPPの効果をできるだけ大きく見積もり、産業界に恩を売りたい。恩恵を受ける業界がシンクタンクでも作ってくれれば、自分たちに天下りポストが回ってくる。最後は内閣府で農水省や経産省に比較すれば、特定の利権をもたないので、霞ヶ関官庁の中では一番包括的な試算をしている」と指摘している。 原田は「農林水産省の影響試算は主要農産物の関税を直ちに撤廃し、かつ何の対策も講じなかった場合である。経済産業省の基幹産業への影響試算は、韓国が幅広くFTA[要曖昧さ回避]協定を結び、日本がまったくFTA協定を結ばない場合を考えている。それに対して、内閣府は、TPPを含む様々なFTA協定の場合を試算している。議論の中心はTPP参加の場合を考えているのだから、なるべくTPPの場合の影響試算を比べるのが良い」「TPPに参加した場合の経済全体に対する利益は3.2兆円、農林水産物の生産の減少は3兆円であるという。農業部門の生産減が3兆円という数字は、生産額としても過大であり、本来考慮すべき付加価値としてはさらに過大であると考えられる。私は農業部門の損失を1兆円と推計している」と指摘している。 エコノミストの山田久は「政府の推進方針を支える内閣府の試算(2011年10月)は、GDPを概ね10年間で2.7兆円押し上げるとしている。これは微妙な数値であり、年間に均せば0.54%の成長率押し上げにとどまる、という言い方にもなりかねない」と指摘している。 2013年3月19日、ピーター・ペトリ教授は東京都内で講演し、3月15日の日本政府の試算3.2兆円増大とするのは控えめで保守的であると指摘した。 高橋は「政府は『10年間で3兆円』と説明してきたが、この数字の丁寧な解釈がなかった。マスコミは、この正確な意味を理解せずに『10年間で3兆円』との誤解を広めている。そのため、マスコミ情報を鵜呑みにしている反対派は、10年間累積で3兆円なので、年間3000億円に過ぎないと言っている。ちなみに、年間3000億円でもとても大きな数字である」と述べている。
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