天狗
『鞍馬天狗』(能) 鞍馬の奥に住む山伏が、寺の稚児になっている沙那王(牛若丸)を慰め、花の名所を案内してまわる。山伏は、「自分は鞍馬山の大天狗である」と正体を明かし、平家を滅ぼすための兵法を沙那王に授ける。
『車僧』(能) 牛をつけぬ破れ車に乗っているゆえ「車僧」と呼ばれる奇僧に、愛宕山の大天狗太郎坊が禅問答をしかけるが、負けてしまう。次いで法力くらべを挑むと、車僧の払子の1振りで、牛なしの車が自在に疾駆するので、太郎坊は合掌して消え失せる。
『善界』(能) 大唐の天狗の首領善界坊が日本の仏法を妨げようと、愛宕山の太郎坊と相談して、比叡山の僧を襲い、魔道に誘う。僧は不動明王を念じ、それに応じて不動明王をはじめ山王権現や降魔の諸天が出現したので、善界坊は翼も地に落ち力尽きて、退散する。
『大会』(能) 大天狗が、比叡山の僧正に命を救われた報恩に、霊鷲山での釈尊説法のさまを幻出して見せる。配下の木葉天狗たちとともに、釈迦・文殊・普賢などの姿となり、天から花を降らせると、荘厳さに僧正は随喜の涙を浮かべる。しかし帝釈天に叱りつけられ、天狗たちは退散する。
『太平記』巻5「相模入道田楽をもてあそぶ事」 相模入道高時の宴席に現れて舞い歌う10余人の田楽法師たち(*→〔のぞき見〕4)を、障子の隙間から官女が見ると、觜(くちばし)の先が曲がった鵄のごときものや、翅のある山伏のごときものどもであった。それは天狗の集まりで、彼らの去った後は、畳の上に禽獣の足跡が多く残っていた。
『彦市ばなし』(木下順二) 彦市が、釣り竿を「遠眼鏡だ」といつわって、龍峰山の天狗の息子の持つ隠れ蓑と取り替える。しかし、妻が隠れ蓑を燃やしてしまったので、その灰を彦市は身体に塗って身を隠す。天狗の息子が怒って彦市を追い、彦市は川に落ちて、灰がみな流れる。
『とりかへばや物語』 昔の世からの罪科の報いで、天狗が、権大納言(後に左大臣)家の若君を女のごとく、姫君を男のごとくなした。そのため若君は女装、姫君は男装して暮らすようになった。そして姫君は、宰相中将に犯されて子を産んだ。その後に父左大臣は、「ようやく天狗の業が尽き、男は男、女は女の本来の姿に戻って栄える時期が来た」との夢告を受けた。
『浮世床』二編・巻之上 江戸の長屋に住む爺が、総髪の男に連れられ、どことも知れぬきれいな所へ行った。そこには天狗たちがいて、爺は天狗の使い走りとなり、京の愛宕山・筑紫の彦山・日光の二荒山などを飛び回る。天狗道成就のため、熱鉄を1日に3度飲む。悪人をさらったり、引き裂いて殺したりもする。爺は天狗の世界での暮らしに満足し、もう人間界へ帰る気はない〔*天狗にさらわれた爺が、巫女の口を通して語る〕。
*天狗が、寺の稚児をさらう→〔誤解による殺害〕4の『神道集』巻8-48「八ヵ権現の事」・〔稚児〕1の『秋夜長物語』(御伽草子)・〔稚児〕3の『稚児今参り』(御伽草子)。
*天狗が、厠にいる女をさらう→〔厠〕5cの『現代民話考』(松谷みよ子)1「河童・天狗・神かくし」第3章の1。
『現代民話考』(松谷みよ子)1「河童・天狗・神かくし」第2章の4 大樋の付近に神護寺という寺がある。そこの阿婆(=ばあや)の息子・徳サは、6歳の時、天狗にさらわれて行方不明になった。村中総出で捜し回ると、村端を流れる河の中へ、八つ裂きにして投げ込んであった(石川県)。
★5.天狗の託宣。
『比良山古人霊託』 延応元年(1239)5月、前摂政関白九条道家が病気になった折に、比良山の大天狗が21歳の女房に憑依した。慶政上人が3度、この天狗と問答をした。天狗は「自分は聖徳太子の時代の者だ」と告げ、天狗の世界のありさまを語った。また当時の枢要な貴族数名について、「80歳まで生きる」とか「短命の人」などの予言をした〔*これらの予言はほとんど外れた〕。九条兼実や慈円は死後天狗道に入ったこと、明恵は都率(=兜率)天の内院に生まれ、法然は無間地獄へ堕ちたこと、なども述べた。
『発心集』巻2-8 真浄房が死後、老母に憑依し、老母の口を借りて、親しい人々に語った。「鳥羽僧正が亡くなられる時、私は『死後もお仕えいたします』と約束した。そのため私は、鳥羽僧正のおられる天狗道に引き入れられてしまった。来年で6年になるので、その節目に天狗道から抜け出て、極楽往生したい」。真浄房は願いどおり天狗道を脱し、再び老母の口を借りて、そのことを人々に告げた→〔息〕8。
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