大司命とは? わかりやすく解説

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大司命

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/10 15:51 UTC 版)

楚辞九歌』、大司命

大司命(だいしめい)は、中国の祭祀詩『楚辞』「九歌」に登場する生命と死を司る神格。人間の寿命を定める神として、巫女との対話形式で描写され、少司命と対となる存在として詩的祭祀劇を構成する。後世の道教神学への影響は限定的で。

『九歌』における定位

『九歌』(戦国時代成立)の「大司命」篇は、楚の巫覡が神霊を迎える祭祀儀礼を詩化したもの。王逸『楚辞章句』によれば、天帝直属の高位神と解され、以下の特徴を持つ:

  • 天門を開き「陰陽の気」を操り、人間の寿命を裁定する超越的存在
  • 「空桑(くうそう)」(伝説の神木)を従え、旋風と雲霓(うんげい)に乗って降臨
  • 巫女との問答を通じ「老いゆく定め」への諦観と神威の不可抗力を象徴

詩的描写の分析

神格表現

  • 空間性:天界と人間界を往来する「乗清気兮御陰陽」(清気に乗り陰陽を御す)の描写が神の超越性を強調
  • 両義性:人間に寿命を授ける慈愛と、冷酷に命を奪う峻厳の二面性を併せ持つ
  • 擬人化:神自ら「孰寿夭兮在予」(寿夭いずれかは我に在り)と宣言する劇的表現

少司命との対比

大司命 少司命
老年・死の管理 幼子・生の守護
厳格・孤高 優美・情愛的
抽象的な「定め」の象徴 具体的な子孫繁栄の神

(小南一郎『楚辞の神話学』による解釈を基に作成)

祭祀儀礼との関係

  • 楚地の「儺(nuó)祭」における疫神払いの要素を反映するとの説(藤野岩友説)
  • 神霊降臨の過程:「広開天門→神将降→逾空桑→霊衣翻曳→玉佩鏘鳴」の5段階構成
  • 巫女(主祭者)との交感描写から、古代の「神婚儀礼」の痕跡を指摘する研究あり

後世への影響

  • 六朝時代の志怪小説『捜神記』に「司命神」として言及
  • 李白「古風」詩に「**大司命何遑々**」の引用例
  • 日本では近世漢学者・皆川淇園が『九歌』注釈書で独自解釈を展開

研究史

  • 日本における主な論考
    • 青木正児「楚辞九歌の舞曲的結構」(1935) - 祭祀劇としての再構成試論
    • 星川清孝『楚辞の研究』(1961) - 大司命を「運命神」と規定
    • 竹治貞夫『楚辞釈文全釈』(1986) - 字義に基づく実証的解釈

参考文献

  • 藤野岩友『巫系文学論』大学書林、1951年。NDLJP:1659553 
  • 星川清孝『楚辞の研究』養徳社、1961年。NDLJP:1670490 
  • 石川三佐男「九歌大司命篇の構造」『日本中国学会報』第43巻、1991年。 [要文献特定詳細情報]

関連項目




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