医療少年院送致
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/08 23:59 UTC 版)
同事件で、被告人Oは動物愛護法違反・器物損壊罪・殺人未遂罪・銃刀法違反・非現住建造物等放火の罪に問われた。Oは広汎性発達障害(対人関係がうまく築けず、興味や関心が偏る特性がある)と診断され、さいたま地方裁判所における刑事裁判の公判(裁判員裁判)では、刑事責任能力の有無が争われた。 2013年(平成25年)3月5日の公判で、検察官は「Oは年少者を相手に連続して殺人未遂を起こしており、被害感情や社会不安などに照らし、保護処分は許容されない。少女への関心や殺人への衝動は未だ収まっておらず、再犯の可能性が高い」として、懲役5年以上10年以下の不定期刑を求刑。一方、弁護人は「少年の両親が刃物を買い与えたり、残虐な動画を見ることを制限しなかったりしたことなど、様々な要因が重なって起きた事件だ。少年は必要な教育を受けておらず、医療少年院での治療的教育が必要」として、医療少年院に入院させるため、保護処分にするよう求めた。 2013年3月12日に開かれた公判で、さいたま地裁第1刑事部(田村眞裁判長)は刑事処分ではなく、Oをさいたま家裁へ送致する決定を出した。さいたま地裁は、犯行を「強い殺意に基づく凶悪で、計画的に行われた通り魔的な犯行だ」と非難し、「現状のままでは再犯する可能性が高い」と指摘。しかしその一方で、広汎性発達障害という生まれつきの資質や、両親の育成環境が動機に直結したことを挙げ、「Oに不利に扱うのは相当ではない。個別的治療や矯正教育を施すことが再犯防止のための最良手段だ」として、刑事処分を退け、「医療少年院に長期間収容し、保護観察所に両親の監護態度を改善させるのが最良であり再犯防止の手段である」と判断した。決定文を朗読後、田村裁判長は被告人Oに対し、「罰を受けずに済んだわけではありません。君は変わる必要があります。変わらなければいけません」「被害者が厳しい処分を求める感情も無理からぬこと。その上で医療少年院に入れるとしたのは君に社会に害を及ぼさないような人に変わってもらいたいからだ。社会に受け入れられる人間になって戻ってくることを願っています」と説諭した。同決定を踏まえ、さいたま家裁(山崎雄大裁判官)は同月21日に、Oを23歳になるまでの相当長期間にわたり、医療少年院に収容することを決定している。 同決定に対し、被告人Oの弁護人を務めた弁護士の柴野和善は、「少年 (O) にとっては一番いい決定で、少年が受け入れてくれることを期待する。裁判員は被害者の言葉の重みや少年の将来を十分に考えてくれた。ありがとうと言いたい」と、さいたま地検の森悦子次席検事は「被告人が障害をもつ少年という特異な審理に取り組み、熟慮を重ねた末の判断であると受け止めている」と述べていた。 その後、2015年(平成27年)には同事件の被害者である女性とその両親が、加害者Oとその両親を提訴。原告側が「Oの両親は、Oが暴力系サイトを閲覧することを制限したり、Oが保管していた凶器数十点(ナイフなど)を取り上げたりなど、適切な監督義務を怠った」と訴え、慰謝料など約2,700万円の支払いを求めていたところ、同年7月3日には、さいたま地裁(針塚遵裁判長)が被告である両親の監督責任を認め、被告(Oとその両親)に対し、計約1,900万円の損害賠償を命じる判決を言い渡している。 その後、Oは2018年に医療少年院を満期出所し、同年夏からは精神障害者向けのグループホームに入所したが、1年未満で実家(三郷市)に戻った。
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