北海ゲルマン語的特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/04/30 02:36 UTC 版)
「西フラマン語」の記事における「北海ゲルマン語的特徴」の解説
4世紀と5世紀と考えられるゲルマン人の民族移動の結果フランデレンにたどり着いたサクソン人(ザクセン人)の方言の痕跡が今も西フラマン語には多くある。この沿岸ゲルマン的、北海ゲルマン的な特徴は、ゼーラント語やホラント語など他のオランダ語方言だけでなく、低ザクセン語、フリジア語、英語にも反映されている。西フランデレンの西部に行くほどその特徴がよく見られる。 西フラマン語が受けた北海ゲルマン語的影響は、例えば pit「穴」、rik 「後ろ」、dinne「薄い」、より古い brigge「橋」などの語で現れている。(オランダ語ではそれぞれ put, rug, dun, brug)。短い u は i になっており、これは英語にも当てはまる(pit, ridge, thin, bridge)。bek, in, tusschen(オランダ語の tussen「〜の間に」)にあるような短い開いた e, i, u という音はホラント語など沿岸部の他の古い方言に見られる。これは近隣のブラバント方言とは対照的である(bik, ien, tuusse)。標準オランダ語は両者の中間を行っており、現代ホラント語もこれに加わる。 沿岸ゲルマン語的なもう一つの現象は、語頭の h の消失である。これはブラバント語でも起きており、西フラマン語にまさに当てはまる。例えば、èlpen「助ける」、òòlen「持って来る」、ard 「硬い」と言う(オランダ語では helpen, halen, hard)。英語の諸方言との類似はさらに遡るが、標準オランダ語だけでなく標準英語でもこの h は保たれている。非常に西フラマン語らしい特徴が g が h に変化する咽頭音化であり、咽頭を狭めて g を発するというものである。これら二つの組合せで、西フラマン語では oeëd「帽子」と hoeëd「良い」が共存している(オランダ語では hoed と goed)。このような特徴は tussentaal(ベルギー領フラマン地方で話されているオランダ語)を話す西フラマン人にも共有されている。 動詞や形容詞的名詞のように語尾 -en のあいまいな e を発音しないのは、英語 (beaten, listen) や低ザクセン諸方言でも見られる。ブラバント人やホラント人が e を発音して n は発音しないような音連続で、zotn「ばかな」(蘭 zotten)、hurtn「聞く」、bustn「胸」(蘭 borsten)のように西フラマン語では語根に直接 n が付加される。このあいまいな e の前の子音が咽頭音の衝突により飲み込まれることがある(後述)。 hurtn や bustn, さらに bus「森」(蘭 bos)、mussels「ムラサキガイ」(蘭 mosselen)、vul「いっぱいの」(蘭 vol)、zunne「太陽」(蘭 zon)などはこの地域に典型的なもう一つの音的特徴を表している。o が u に変化する自然発生的な硬口蓋音化である(明確な理由がなく調音点を硬口蓋にずらす。よって「自然発生的」)。bush, mussels, full, sun のように、英語に対応するものを見出せる(ただし発音は変化している)。この変化が西フラマン語(および他の沿岸部方言)で起きた後、初期のオランダ語で短い o が長音化した。例えば zoon「息子」(英語では son)、boter「バター」、vogel「鳥」など。一方、西フラマン語では硬口蓋音化した u が eu と長音化し、zeune, beuter, veugel という形が生じた。沿岸部の西フラマン語では、これらの語の eu が再び短音化し u となった。beuter に対し butter, scheutel に対し schuttel(蘭 schotel「皿」)、 keutel に対し kuttel など参照。 北海沿岸地域の多くの方言が共通して持つもう一つの音的特徴は、a を o に変化させた語があることである。zochte「柔かい」(蘭 zacht)、of「終わっている」(蘭 af)、brocht「持って来た」(蘭 bracht)など。英語の soft, off, brought を参照。 もう一つ沿岸ゲルマン語に特徴的なのは、古西ゲルマン語の二重母音 iu が ie に変化したことである。同じものが内陸の諸方言では uu となっており、のちに再び二重母音化し ui となった。よって、英語の chicken, fire, stear のように西フラマン語では kieken, vier, stieren という形があり、それに対しブラバント方言では kuiken, vuur, stuur となっている(つまり、r の前では語中の uu が ui には変化せずに保たれている)。 複数形の作り方に関しては、西フラマン語では(そしてフランス・フラマン語の古風な言い回しでは)、たいていの場合に -en で複数形を表す他の方言や標準オランダ語よりも、-s を使うことがはるかに一般的である。英語ではこの方法がずっと広く用いられるようになっており、そのため -en による複数形は非常に珍しくなっている(数少ない例として oxen がある)。西フラマン語では今も英語と違って多くの複数形は -en で終わる。-s の複数形は標準オランダ語や tussentaal でも勢力を獲得しているが、特に西フラマン語ではよく見られるものになっている。trings「列車」(複数形、以下同様)、keuns「うさぎ」、brils「眼鏡」、kleers「服」、kinders「子供」などが例。 沿岸ゲルマン語の語彙としては、一方でザクセン語の遺産として命脈を保っている語があり、もう一方では主にイングランドとの交易でもたらされ西フラマン語にたどり着いた借用語がある。イギリス起源の借用語の例は、現代アメリカからもたらされた 'wordflow' は別にすると、riftje-raftje「くずども」(または kotjevolk, 英語の riff-raff より)、nowers「どこにもない」(南部では nivers, 英語の nowhere より)、agèèn「再び」(英語の again より)がある。 同様の歴史を共有している語に、wied「海藻」(英語の weed より)、sjchreepen または sjcharten「掻く」(英語の scratch を参照)、buttersjchiete「蝶」(同じく butterfly)、kobbe「蜘蛛」(同じく cobweb)、ààperen「起きる」(古形の hapenen より、英語の happen 参照)、bringen「持って来る」(英語の bring)、e letje「少し」(やや古い言い方、英語の a little より、フリジア語では lytsje)などがある。これらの語は、フランス国境近くのウェストフークやフランス・フラマン語で特によく見られる。
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