内服療法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 18:18 UTC 版)
皮膚症状に対する外用療法が奏効しない場合、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)の場合は、経口内服薬による治療が行われる。使用される薬剤は他の自己免疫疾患と共通しており、乾癬にも順次適応拡大されてきた事により治療の選択肢が増え、患者のQOLは向上している。短期的にはステロイド系抗炎症薬(副腎皮質ステロイド製剤)が使用される場合があるが、尋常性乾癬においては膿疱性乾癬を誘発することがあるので長期間の使用は推奨されない。 メトトレキサート(Methotrexate, MTX) 1951年から抗癌剤・妊娠中絶薬であるメトトレキサートが乾癬に使用されてきたが、日本では長らく適応外処方であり、2019年3月から公知申請により日本での臨床試験を省略して正式に順次適応拡大された。 1971年には皮膚のターンオーバー周期を考慮するとして毎週1日〜2日だけのパルス療法が提唱され、後に乾癬だけでなく関節リウマチにもこの服用法が定着している。副作用を低減する目的で翌々日に葉酸を服用する場合が多い(結局は抗癌剤として使用する際の救済療法と同じ投与パターンとなっているが、投与量が2桁ほど少ない為、葉酸を飲み忘れても死亡する事はない)。 MTXは、乾癬患者では関節リウマチ患者より肝障害が発現しやすい事が知られており、十分な用量まで増量出来ない場合が少なくない。また妊娠中絶薬なので妊婦や妊娠希望者には使用出来ない。 しかし最初に登場し最も実績のある、生物学的製剤であるレミケードがMTXの併用を必須としている為、MTXに対する忍容性を確認する意味もあり、先ず最初に処方される場合が多い。 シクロスポリン(ネオーラル) 1970年代に乾癬に対するMTX治療により肝障害を起こし肝臓移植を受けるに至った患者の乾癬が、他家移植の拒絶反応を抑える為に使用された免疫抑制剤 シクロスポリンで寛解した事から、乾癬が自己免疫疾患である事が判明した。 高用量では生物学的製剤と同等の効果があるが長期の使用では重篤な腎障害を生じるので、定期的な採血によって予防を行う必要があり、欧米のガイドラインでは1-2年以内とすることが推奨される。 医療機関によっては、シクロスポリン低用量導入法も行われており、添付文書上の5mg/体重kgをほぼ半減し、固定量の(患者体重にかかわらず)50mg 3カプセル 2x MuA(2:1)が処方されることもある。他の施設でも低用量は導入されつつある。 サラゾスルファピリジン(SASP、サラゾピリン、アザルフィジンEN) MTXが副作用で使用できない場合に用いられる。MTXよりも忍容性は高いが作用が弱いとされるが、MTXが無効でサラゾピリン奏功の例も存在する。2019年迄のMTXと同様、2021年現在も乾癬では適応外処方である。潰瘍性大腸炎に対する作用機序は明らかになっているとされており、腸内細菌により代謝された5-アミノサリチル酸(5-ASA)が腸壁の中に多くは吸収されずに腸内壁に留まって局所的に腸の炎症を鎮めるとされているのに対し、乾癬や関節リウマチに対する作用機序は不明である。約1/3量がサラゾスルファピリジンのまま小腸で吸収され、作用機序は不明だが全身の炎症を鎮めるとされる。しかし代謝物のメサラジン(5-ASA)が乾癬に有効との報告もあり、通説通り約1/3量がサラゾスルファピリジンのまま小腸で吸収されて全身の炎症を鎮めるのか、潰瘍性大腸と同じく腸壁に留まって局所的に腸の炎症を鎮めた事で、副次的に全身の炎症が鎮められるのかも含めて作用機序は未だ不明である。また関節リウマチでは2002年7月にアザルフィジンENが適応となったが、サラゾピリンは依然として適応外処方のままである。ENは腸溶錠を意味し胃部不快感の低減を意図したとしているが、低減効果は僅かに留まるにも関わらず、薬価は数倍である。メサラジンは、サラゾスルファピリジンのもう一つの腸内細菌による代謝物であるスルファピリジンを除くことで副作用を低減したものであるが、前述の通り作用機序が不明なまま、乾癬や関節リウマチには適応外となっている。 PDE4阻害薬 アプレミラスト(オテズラ)は、日本では2017年に発売され、局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、乾癬性関節炎を対象としている。乾癬患者の免疫細胞や表皮組織はPDE4発現が亢進しており、細胞内におけるサイクリックAMP(cAMP)の減少が知られている。同剤はPDE4を阻害することでcAMPを上昇させ、炎症性及び抗炎症性メディエーターのネットワークを調節し、症状を改善すると考えられている。診療所でも処方でき、事前の採血検査も必須ではないことから、経口薬乾癬治療において全身療法の第一選択薬となることが期待されている。 ビタミンA誘導体 エトレチナート(チガソン)は、骨棘の形成や靱帯の石灰化等の過骨症変化及び長管骨の骨膜肥厚等の異常 や催奇形性が確認されており、半減期が120日と長く服用中止後2年間は妊娠禁止である為使用が困難で、日本以外の先進国では既に使用禁止である。
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