偽装白バイ関連の遺留品
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 07:20 UTC 版)
「三億円事件」の記事における「偽装白バイ関連の遺留品」の解説
ヤマハ・スポーツ350R1 犯人が偽装白バイに使用した盗難バイクである。1968年11月19日から20日の間に盗難された。1968年当時の警視庁で採用されていた白バイの車種はホンダ製であり、ヤマハ製の白バイは存在しなかった。盗難バイクの元の色は青色であるが、偽装白バイに仕立てるために車体全体の塗装面が白く塗り直されていた。本物の白バイに偽装するためにストップライト(赤色灯に偽装)、トランジスタメガホン(通称トラメガ。広報用スピーカーに偽装)、スイッチ、クッキー缶(書類箱に偽装)、ホースバンド、ステンレス製タオル掛(ストップライト固定用)などが装着されていた。盗難されたバイクは、犯人が現金強奪を実行する前に428キロメートルの走行履歴があった。外見の偽装以外の特徴として、ハンドルやシートには誤って塗装した部分をベンジンで拭いたと思われる痕跡が残されていた。また「トランジスタメガホン」を塗装する際に新聞紙を使って養生しており、その紙片の微細な痕跡が後部に数ヶ所付着していた。 トランジスタメガホン トランジスタメガホン(トラメガ)は、本物の白バイの広報用スピーカーに見せかけるために白く塗装され、偽装白バイに取付けられていた。兵庫県宝塚市の東亜特殊電機製である。製造番号から5台が出回っていることが分かり、4台まで所在を確かめた。残る1台は東村山市の工事現場で盗難に遭っており、これが犯行に使用された物と推測された。 クッキー缶 白バイの書類箱に見せかけるために洋菓子のクッキー缶が使われていた。クッキー缶は白く塗装され、後部座席にガムテープで固定されていた。犯行当時、バイク用の書類箱はカー用品店でも販売されていたが、本物とは大きく異なる意匠のクッキー缶を使用した上にガムテープで固定していたことから、お粗末な改造とされた。そのため、犯人は白バイに詳しい人物ではなく、素人レベルの改造であることの根拠の一つとされた。その一方で、代用品による最低限の改造と塗装で偽装白バイを仕立て上げ、実際に銀行員らを一時的に信用させたことからすれば、改造の技量はともかく、犯人は本物の白バイを詳細に観察して外見や装備品などの知識を豊富に持っていたとする見方もある。クッキー缶のメーカーは明治商事だったが、3万個が市場に流通していたために、捜査本部は販売ルートから購入者を捜査することを断念した。またクッキー缶を利用していたことから、犯人の甘党説が浮上した。 新聞紙片 トランジスタメガホンは、白ペンキで2度塗装されていた。捜査に行き詰まっていたある日、トランジスタメガホンの表層面の塗装が剥がれた部分に4ミリメートルほどの紙片のようなものが数ヶ所付着しているのを捜査員が発見した。拡大して見ると、そこには菱形状の模様や黒い点が見えていた。捜査本部が警視庁科学検査所(当時)に鑑定を依頼したところ、それは新聞紙片で、新聞の見出し部分を際出せるために使われる「地紋」の模様の一部であると推測された。捜査本部は、新聞を特定するために偽装白バイが改造されたと推測される日時から遡って約二年分の各新聞社発行の新聞を地道に調べた。すると1968年12月6日発行の「産経新聞」朝刊13版11面・婦人面掲載の「食品情報」という記事の見出し部分に使われていた漢字「品」の右下部分であることが判明した。決め手となったのは「地紋」の模様が一致したことである。「地紋」は各新聞社が独自にデザインすることから種類も千差万別であるが、各社で特徴が出ることから判別が可能だった。紙片の分析を行ったところ、紙は愛媛県伊予三島市の大王製紙の工場で作られたと判明した。さらに分析した結果、製造された紙が使われていた産経新聞が配達された地域は、東京都三多摩地区であることが判明した。 その後に東京都多摩地区での配部数は13,485部、販売所数は12か所と特定された。しかしながら配達地域の住民の転出入が激しかったことや、新聞を購読する家が頻繁に変わっていたことから捜査は難航した。2年掛かりで販売所を特定できたが「順路帳」(配達先の住所録)は処分された後であり、「新聞紙片」による捜査では、犯人検挙に繋がる情報を得ることは出来なかった。 ハンチング帽 「第1現場」で発見された。偽装白バイが事件現場まで引き摺ってきたボディカバーの中から発見されたことから、犯人の物と考えられている。帽子に付着した汗を検出すれば、少なくとも実行犯の血液型を特定できたが、遺留品の多さからの楽観ムードによるものからか、鑑定に出す前に刑事同士で交互に被ることで鑑定不能にするミスを犯していた。ハンチング帽の製造元は大阪市東成区の中央帽子製である。54個が出荷され、36個の所在が判明した。残りの18個は東京都立川市の帽子小売店が市内の安値市で販売していたが、誰に売ったかまでは特定できなかった。
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