わびし
「わびし」とは、がっかりだ・つまらない・つらく苦しい・切ない・心細い・みすぼらしいことを意味する表現である。
「わびし」とは・「わびし」の意味
「わびし」とは、「がっかりだ」「おもしろくない」「困ったことだ」「切ない」「心ぼそい」「みすぼらしい」などの意味をもつ。品詞は、「動詞「わび」の形容詞化したもので、活用はシク活用の古語である。古文での形容詞の言い切りの形は「ーし」なので、「わびし」と表記する。「わびし」を使った古文に、鎌倉時代初頭(1212年~1221年)に作成された「宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)」に「ちごのそらね(児のそら寝)」の説話がある。今となっては昔の話、比叡山に稚児がいた。僧たちが、宵の何もすることがなく退屈な時に、「さあ、ぼたもちをつくろう。」と言ったのを、この稚児が、期待をして聞いていた。寝ないで持っているのも良くないだろうと思い、できあがれば、きっと起こしてくれるだろう、と期待して寝たふりをしていたところ、出来上がった様子で、僧たちはわいわい騒ぎあっている。僧が「もしもし、目を覚ましなさい。」と言うのを稚児はうれしいとは思うけれど、一度で返事するのは、待っていたのかと思われては困ると思い、もう一度よばれて返事しようと我慢して寝ているうちに、「おい、お起こし申し上げるな。幼い人は、寝入ってしまったんだよ。」 と言う声がして、ああ困ったものだと思い、「もう一度起こせよ」寝て聞いていると、ただむしゃむしゃと、食べる音がしたので、どうしようもなくて、だいぶん時間がたった後で、「はい」と返事したので、僧たちが笑い続けた。という物語だ。
原文では、『我慢して寝ているうちに、「や、な起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしければ、あなわびしと思ひて……』という部分の「あなわびし」「あな」は、感嘆詞「ああ」「わびし」形容詞シク活用の終止形だ。現代語にすると、「ああ、困ったものだ」の意となる。形容詞の活用表は2つに分かれており、右側に表記されたものは、「本活用」、左側は「補助活用」あるいは「カリ活用」だ。その違いは、「補助活用」には、終始形を除き、下に助動詞がつく場合のみ活用される。「わびし」に助動詞をつけると、未然形「わびしからず」、連用形「わびしかりけり」、連体形「わびしかるらむ」、命令形「わびしかれ」となるのである。
古語「わびし」に似た現代語「わびしい」とは、「ものさびしい」「さびしくて心ぼそい」「まずしくてみすぼらしい」などの意味があり、感情に対して使われる。一方、古語「わびし」では、「つらく悲しい」「やるせない」「当惑するさま」「やりきれない」「興ざめである」「おもしろくない」などの意味の用法で使われる。これらは「わびしい」の意味として、現代文に使われることはないのだ。
「わびしく」とは、形容詞「わびし」シク活用の連用形で、「がっかりなことだ」「つまらないことだ」「困ったことだ」の意味になる。
「わびさび」とは、本来「わび」と「さび」のそれぞれ別の言葉からなるのである。「わび」は、古語「侘ぶ」という動詞が由来だ。意味は、「辛く思う」「落ちぶれる」「気落ちする」「寂しく思う」などである。千利休が大成した「わび茶」は、茶室の座敷で粗末な道具を使って入れるお茶であるが、簡素で静寂な境地を重んじている。その精神は、簡素で質素な中に独特な味わいや美しさを見出だすという「わび」の言葉として使われるようになった。わびとは、不足しているものから感じられる美しさである。また、「さび」とは、古語「寂ぶ」の動詞が由来である。「さぶ」には、「古くなる」「色褪せる」「錆びる」などの意味がある。そして、古くなることで味わいや朽ちていく様子に美しさ見出だすという意味で「さぶ」という言葉が使われるようになったのだ。俳人松尾芭蕉は、古びて朽ちているものの中にこそ奥深い独特の味わいや趣があると重んじ、俳諧を確立させている。江戸時代に入り、俳句が広まったことも相まって、日本文化の美意識を確立し、現代においては「わびさび」の一語で日本人がもつ美的な意味合いを加えた言葉である。
「わびしさ」とは、形容詞「わびしい」に接尾語「さ」がつき体言化したもの。品詞は、名詞で「わびしいこと」「わびしく思う気持ち」という意味である。
「わびし」の熟語・言い回し
ものわびしとは
形容詞シク活用「わびし」終止形に、接頭語「もの」がついた古語だ。「なんとなく悲しい」「なんとなくつらい」「なんとなく苦しい」などの意味となる。
いとわびしとは
形容詞シク活用「わびし」に副詞「いと」が付いた古語である。意味は「たいそう~である」「非常に~である」「すごく~である」という意味だ。「いとわびし」で、「たいそうつらいことである」「すごく悲しいことである」「非常にがっかりである」「非常にみすぼらしいことである」などの意味となり、「わびし」の意味を強める働きをする。また、「ず、ま、なし、ぬ」などの打消しの助動詞が付き、「わびしからず」となれば、「たいそうつらくはない」と否定の意味となる。
「侘びし」の例文・使い方・用例・文例
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