作画に入るまでの実作業
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/29 08:51 UTC 版)
「トップクラフト」の記事における「作画に入るまでの実作業」の解説
1. シネ・テープについて合作においては、サウンド・トラックが初めに完成しているのだが、音に絵を合わせる必要がある。そのためにまず、シネ・テープ(フィルムと同じ幅で、同じようにパーフォレーション(穴)がある磁気テープ)をシネ・コーダーという、シネ・テープ専用のレコーダーにかけて再生する。シネ・コーダーは、映写機と完全に同調するようになっており、例えばフィルムが1秒進めばシネ・テープも同様に1秒進む。シネ・テープには、フィルムと同じ幅で、同じようにパーフォレーションが空いていて、フィルムと同じスピード(1秒あたり24コマ)で再生される磁気テープと言える。もし、シネ・テープに「YES」というセリフが録音されていれば、「Y」は何コマ、「E」は何コマ、「YES」 というセリフ全体で何コマというように、音をコマ単位で拾うことができる。こうして、シネ・テープに入っている音を拾い出せば、音の通りにアニメーションを作ることができる。RANKIN/BASSプロダクションから送られてくるサウンド・トラックは35mm幅のシネ・テープであり、このオリジナルはダビングのときだけしか使わない。実作業ではこの35mmのシネ・テープ、つまりヴォイス、ミュージック、サウンド・エフェクトの3つのトラックをミックスし、16mmシネ・テープに録音して使用する。 2. スポッティング16mmシネ・テープから、セリフ、音楽、効果音などを拾い出す作業がスポッティングである。これは、シネ・テープ用の再生ヘッド(カセット・テレコについているヘッドと同型で大きいようなもの)にシネ・テープを通して再生し、スピーカーから出る音を聴きながら、シネ・テープの表面にマークしていく作業である。セリフの場合「a」や「i」などの発音の場所をデルマトグラフ(デルマ鉛筆)で記入していく。音楽の場合は、リズムや歌詞、曲のポイントになる部分などをマークし、効果音も同様に細かくマークする。地味で手間はかかるが大切な作業であり、この作業がうまくできていないと、セリフと口の動き(リップ・シンクロと言う)が合わなくなったり、音楽にアニメーションの動きが合わなかったり、効果と動きがズレたりする。シネ・テープにマークされたセリフの発音や音楽の位置、効果音などはスポッティング・シートという用紙に書き写され、この用紙の1マスがフィルムの1コマに当たる。 3. ダイアローグ・ナンバーセリフは英語なので、発音を一つ一つアニメーターが聴いて、それに合うような口パク(セリフ)を各自の感覚で描くと、作品全体では統一が取れなくなる。そこで、発音する口の形を便宜的に番号にしておく。これは8つの基本形からなり、閉じ口「n」に母音の「a」「i」「u」「e」「o」を基本に英語特有の「th」「v/f」を1~8とナンバーを振っておく。このような口パクだけのキャラクター表を各キャラクターごとに作成しておき、スポッティング・シートに「a」という発音があればダイアローグ・ナンバーは4というように、タイム・シートに記入しておけば、どんなアニメーターでもセリフ通りの口の形を正しく描くことができる。ただ、「n」の閉じ口=1から「a」=4.の口の形になるような場合は動きが大きくなるので、その中間にあたる形を入れたりして、なめらかな動きになるようにするため、実際のセリフの枚数は8枚以上になる。国産アニメーションでは、セリフは3枚(閉じ口、大きい口、中間の口)で、セリフの長さ分だけ適当に動かしているが、合作では発音と同じ口の形を作画して、セリフと合わせるのである。これをリップ・シンクロと呼ぶ。スポッティング・シートに記入されたセリフは、カセットテープを聴きながら確認しつつ、ダイアローグ・ナンバーをスポッティング・シートに書き足しておく。 4. タイム割り~タイムシートの作成スポッティング・シートは、タイム・シートと同じマス目で作成されています。カットごとに必要な秒数は、サウンド・トラック(カセットテープに録音したものを使用)を聴きながら、ストーリー・ボードにそって決めていきます。よって、カットごと秒数は、スポッティング・シートで正確に決められることになる。カットごとの秒数に、ストーリー・ボードのカット番号を、スポッティング・シートに記入していく作業を「タイム割り」とよぶ。記入し終わったスポッティング・シートをコピーして、カットごとにタイム・シートに貼り付ける。それによってカットごとの秒数が正確にタイム・シートに反映され、セリフもダイアローグ・ナンバーを見れば一目瞭然であり、音楽の始まりやタイミング、効果などの位置も正確に知ることができ、音に合わせたアニメーションの作成が可能となる。ここまでが国産のものにはない作業である。 作画 ここから作画に入る。まず、すべての材料(ストーリー・ボード、サウンド・トラック、キャラクター表、背景設定、タイム・シート等)をもとにして作画打ち合わせを行う。ここでの打ち合わせで、カットごとに必要な芝居づけや変更箇所、作品のムード、ねらいなどを演出が原画家に説明する。合作アニメーションのキャラクターは、国内アニメーションとはかなり違っていますし、当然、演出的にも外国の演技が要求される。まず原画担当者はサウンド・トラック(カセットテープを使用)を聴いてレイアウト(画面構成)をおこす。合作の場合、レイアウトには、画面における人物の配置、構図、想定される動きを描き込み、背景のパースをしっかり決めておきます。細部に渡り、画面を緻密にするために国産以上に十分な神経を払わなくてはいけない。レイアウトの後、原画を描くのであるが、描く原画はあくまでもサウンド・トラックを聴いて感じをつかむことになる。サウンド・トラックが始めからできているので、秒数の中で正確に動きのタイミングをつけなければならない。また、細かいニュアンスの芝居や、動きをなめらかにするために、国産アニメーションよりずっと多くの原画を描かなければならない。現在トップクラフトでは、第二原画制を実施している。 これは、第1原画とよばれる人がラフな原画(簡単にデッサンだけとって動きをメインとする原画)とタイム・シートに動きのタイミングを記し、第二原画の人がキャラクター表に基づき正確にキャラクターを書き込んだ原画を仕上げる作業に専念するという方法である。この方法で、原画のスピード・アップをはかることができる。合作における特に重要な要素としては、のっぺりした表情や芝居、そして立体感のない構図をとらないこと、特に、キャラクターの表情芝居、いわゆるフェイシャル・アニメーションを重視している。キャラクターに命を吹き込む、アニメーションの基本中の基本が要求されているのである。できあがった原画は演出にチェックされOKになると動画へまわされる。動画では原画と原画のあいだにタイム・シートに指定された枚数を描き加える(中割り)作業を行う。国産アニメーションでは3コマ撮りが基本であるが、合作アニメーションでは2コマ撮りが基本になっている。また、まったくの動かない止めのカットは極力さける。止めのカットでも、最低、目パチや髪の毛の動きなどをつけている。当然、動画の枚数も国産アニメーションより多く、そのぶん動きがなめらかになる。国産アニメーションは30分もの(正味20分程度)で3000枚から4500枚(予算にもよる)ほどであるが、合作アニメーション『ホビットの冒険』のときは、77分で約4万枚も使用している。画面の仕上がりの美しさに関係する動画もシビアな技術を要求される。あくまでもていねいに、キャラクターのくずれや線の抜け、セリフの形の間違いなどないように、非常に細かく神経を使っている。『ホビットの冒険』では、今までにないほどキャラクターの線が多く、さらに手間がかかった。また、トレス・マシンで綺麗にセルにコピーするため、鉛筆の濃度や線の太さまでも、各自の筆圧などをテストして決められた。
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